人気作家・辻村深月原作のバックステージもの

 過酷な運命に立ち向かい、強大な敵と日夜戦うスーパーヒーロー&ヒロインたち。そんなアニメ作品を生み出しているアニメ業界の人びとも、容赦ない締め切りや視聴率に向き合うというハードな日々を過ごしています。直木賞作家であり、『映画 ドラえもん のび太の月面探査記』(2019年)の脚本も手掛けている辻村深月さんが2014年に刊行した小説『ハケンアニメ!』(マガジンハウス)が、実写映画として完成しました。

 アニメ業界で働く人たちを描いた映画『ハケンアニメ!』には、吉岡里帆さん、中村倫也さん、柄本佑さん、尾野真千子さんら、人気俳優が配役されています。戦国時代さながらに多くのアニメ作品がしのぎを削り合う昨今のTVアニメの制作事情が、ドラマチックに描かれています。吉野耕平監督は、大ヒットアニメ『君の名は。』(2016年)にCGクリエイターとして参加したキャリアの持ち主です。

 より面白い作品に仕上げるために、締め切りギリギリまで粘るスタッフたちの熱い想いに、キャラクターに命を吹き込む声優陣の心情なども交えた多彩な視点によるストーリー構成に加え、注目したいのは2本の劇中アニメ『運命戦線リデルライト』と『サウンドバック 奏の石』です。「本当に作品化すればいいのに」と思うくらい、魅力的な設定かつ完成度の高いビジュアルとなっています。

 2022年5月20日(金)より劇場公開される映画『ハケンアニメ!』の見どころを紹介します。

ハケンの座を競う新人監督vsカリスマ監督

 大手アニメ会社に勤める斎藤瞳(吉岡里帆)が、初めて監督に起用されたところから物語は始まります。巨大ロボットもの『サウンドバック 奏の石』で、TVシリーズの1クールを任されたのです。絵コンテやスタッフとの打ち合わせで手いっぱいの瞳でしたが、プロデューサーの行城(柄本佑)から雑誌インタビューや公開イベントにも引っ張りだされ、容量オーバー寸前です。大好きなエクレアを食べる時間すらありません。

 その瞳にライバルとして立ち塞がるのが、王子千晴(中村倫也)です。王子はかつて監督デビュー作『光のヨスガ』を大ヒットさせ、大学生だった瞳は『光のヨスガ』に感銘してアニメ業界に入ったという経緯がありました。

 カリスマ的人気を誇る王子の新作は、らつ腕プロデューサーの有科(尾野真千子)と組んだ『運命戦線リデルライト』。バイクレースをモチーフにした魔法少女ものです。『サウンドバック 奏の石』(以下『サバク』)と『運命戦線リデルライト』(以下『リデル』)は、同じ曜日、同じ時間枠での放送となります。

 放送開始前のトークショーで、憧れの王子と対面した瞳は、テンションが上がり過ぎ、「ハケン取ります!」と宣言するのでした。「ハケン(覇権)アニメ」とは、そのクールでの視聴率やDVDの売り上げなど、すべてにおいてトップに立った作品に与えられる称号です。『リデル』と『サバク』は、ハケンアニメの座をめぐって、激しいバトルを繰り広げます。

瞳が監督をつとめるアニメ作品、『サウンドバック 奏の石』

一流スタッフが競作した本気の劇中アニメ

 アニメ業界の裏側を描いたTVアニメ『SHIROBAKO』と同様に、『ハケンアニメ!』でも監督、プロデューサー、原画、脚本、編集、声優、宣伝……さまざまな職種の人びとが登場し、多様な個性がひとつにまとまって、アニメ作品が作られていく過程が描かれていきます。そんな「お仕事映画」としての面白さだけでなく、劇中アニメ『リデル』と『サバク』のクオリティの高さも特筆されます。

 長いスランプに苦しんだ王子の復帰作『リデル』は、かなりユニークな魔法少女ものです。魔法少女たちはそれぞれバイクに乗り、1年に一度開かれるバイクレースで競い合うことに。第1話で6歳だった主人公は、最終話では18歳になります。レースを通して、少女たちの成長が描かれていきます。キャラクター原案は『魔法少女まどか☆マギカ』の岸田隆宏氏が手掛け、超ポップでカラフルな世界観が垣間見えます。

 瞳の監督デビュー作『サバク』は、田舎で暮らす少年少女たちが侵略者と戦うSFジュブナイルもの。奏(かなで)と呼ばれる不思議な石に大切なものを捧げることで、石は巨大ロボットに変形します。

 ミステリアスな展開は、トラウマアニメとして知られる『ぼくらの』を彷彿させます。メカデザインは『機動戦士ガンダム00』の柳瀬敬之氏が担当し、重量感ある巨大ロボットたちが迫真のバトルを見せます。主人公の声優役で、『ウマ娘 プリティーダービー』の高野麻里佳さんが実写映画デビューしているのも見逃せません。

 原作者の辻村さんは、劇中アニメの制作スタッフがイメージを構築しやすいよう、『リデル』『サバク』それぞれ12話分のプロットを用意したそうです。映画『ハケンアニメ!』では両作の予告映像や最終話のクライマックスシーンなどを観ることができますが、どちらも、とても気になる内容です。

王子が監督をつとめるアニメ作品、『運命戦線リデルライト』

「孤独さ」はクリエイターにとって大切な養分

 本作をより味わい深くしているのは、劇中アニメの展開と本編の主人公たちとの心情が、しっかりとリンクしているという点です。

 王子はデビュー作『光のヨスガ』で主人公が死ぬというエンディングを考えていたのですが、テレビ局側の意向もあって実現できませんでした。商業アニメでは自分の思ったような作品はできない……というジレンマを王子は抱えています。ジレンマは自分でかけた「呪い」でもあります。王子は8年ぶりの監督復帰作となった魔法少女もの『リデル』で、その呪いを解こうとします。

 一方の瞳は、初めての監督作『サバク』がちゃんと視聴者に届いているのか不安で仕方ありません。ビンボーな家庭で育った瞳は、子供の頃に友達がみんな持っていたアニメグッズを買ってもらうことができずにいました。寂しい少女時代を過ごした瞳は、そんな幼き日の自分自身を励ますように『サバク』の制作にのめり込みます。

 一見すると派手キャラに見える王子も、優等生タイプの瞳も、どちらも心の奥に孤独さを抱えています。大勢のスタッフやキャストと一緒に練り上げていくアニメ作品ですが、TVの前で孤独さを抱えて待っている視聴者の心に届いたとき、その孤独さは共鳴しあい、豊かな体験に変わっていきます。視聴率やDVDの売り上げなどでは計ることのできない、とても貴重な体験です。

 ハケンアニメの座を懸けて闘う瞳と王子は、ともに孤独さを大切にしているクリエイター同士でもあります。豊かな「孤独さ」を知る主人公たちがどんな作品を完成させるのか、ぜひ注目してください。

※映画『ハケンアニメ!』は、2022年5月20日(金)より全国ロードショー。
原作/辻村深月 監督/吉野耕平 脚本/政池洋佑 音楽/池頼広
出演/吉岡里帆、中村倫也、工藤阿須加、小野花梨、高野麻里佳、前野朋哉、矢柴俊博、新谷真弓、松角洋平、水間ロン、前原滉、みのすけ、古舘寛治、徳井優、六角精児、柄本佑、尾野真千子 配給/東映 
(C)2022 映画「ハケンアニメ!」製作委員会