ニューヨークで幼児教育のスタートアップを自ら立ち上げ、経営にたずさわる中澤英子さん。もともとは大手企業・ソニーの会社員だった中澤さんですが、留学したスタンフォード大学大学院での学びや自身の出産の経験を活かし、育児と経営を両立する起業家として活躍されています。最近は日本でも活動の場を広げ、ユニコーン企業(評価額が10億ドルを超える、設立10年以内の未上場のベンチャー企業)として注目を集める株式会社TBMの社外取締役も務めています。日米でビジネスの経験をもつ中澤さんの視点から、経営に携わりたいと考えている20代に向けたメッセージをもらいました。

ミッションに共感し、ユニコーン企業の社外取締役へ

―株式会社TBMの社外取締役としての顔も持つ中澤さんですが、そもそも出会いのきっかけは何だったのでしょうか

2019年ごろになりますが、東京都が開催する女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」でキーノートスピーカーとして講演したり、プログラムの講師を担当したりすることがありました。

そこのプロジェクトを担当していた女性がTBMに転職され、TBMが社外取締役を探しているという時に、私の名前を出してくれたことがきっかけです。彼女の紹介で経営陣にお会いし、社外取締役としてのキャリアがスタートしました。

―TBMの社外取締役を引き受けられたのはどんな理由からだったのですか

TBMは世界のサステナビリティー革命を牽引する、日本で生まれた数少ないユニコーン・スタートアップです。脱炭素社会やサーキュラーエコノミーを実現するために、石炭石を主原料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」の製造・販売、資源循環プラットフォームの構築と運営などを行っています。

その創業者である社長・経営陣・社員が体現するミッションに共感したことや、ミッション実現に向けてグローバルな事業展開を進めるうえで、自分の海外事業展開やテック関係のスキルを活かして企業価値向上に貢献したいと思ったことが理由です。

―ミッションに共感されたということですが、TBMの掲げるミッションを知った時にどう思われたのでしょうか

TBMは「進みたい未来へ、橋を架ける」というミッションを掲げており、これからの未来をただ待つだけではなく、自分が生きたいと思える未来を実現する為に、自身で橋を架けようということで、まさに理想とする未来を自分たちの手で創っていこうとしています。

それに加え、会社のバリューの1つに「両立主義で行こう(Not Trade-off, but Trade-on)」というものが掲げられています。事業で言えば、環境(エコロジー)を良くしながらもビジネス(エコノミー)も成立させるということですが、創業者と経営チームが常にそれを発信しており、社員みんなが意識しています。

私も社会に対するインパクトとビジネスが相反するものだとは思っておらず、こうした点がフィットしたように感じています。

環境分野はこれまでに専門的に関わったことはありませんでしたが、社外取締役として環境問題を学ぶ中で、解決の難しさと同時に大切さも実感しています。

TBMをさらに成長させるために

―TBMではどのような仕事を担当されているのでしょう

着任後、取締役会だけでなく、色々な形で海外進出、新規事業、ECなどの事業について学ぶ機会をいただいています。

「何」に時間を投資するかということはもちろん大切なことですが、「誰」と一緒に仕事をさせていただくかということも大切であり、明確なミッションとスピード感を持つTBMの経営を社外の立場からサポートさせていただくことにやりがいを感じています。

―そのような中で企業価値向上のために取り組まれていることや、意識されていることは何ですか

自分自身も起業家として事業を創り、成長させていくことがいかに大変なことであるかは理解しているつもりです。実際にやってみないと分からないこと、やっている当事者にしか見えないということがほとんどで、そこで頑張る当事者にあるべき論を押し付け、評論家のような意見を提示しても何の付加価値にもならないと思っています。

社外取締役は業務執行に関与しないのが基本ですが、TBMのミッションを広く共有し、それを実現するために自分にできることはなにかを考えて行動するようにしています。

―これからまさに大きく成長しようという中で、どんなところに課題や伸びしろがあると感じていますか

日本国内では数多くの提携企業があり、どこにいってもTBMやLIMEXを目にするようになってきました。一方で、世界全体の市場を見るとまだまだシェアが小さく、認知度も低い状況です。これから世界の市場を取っていかなければならない場面で、国内のリソースだけに頼らず、世界の人材も呼び寄せて採用していかなければならないのではと感じています。まさに、いまはグローバル企業に移り変わる過渡期と言えると思いますね。

―TBMのようなユニコーン企業は日本では珍しく、一方でアメリカではまさにシリコンバレーからどんどんユニコーン企業が生まれてきていると思います。日本とアメリカの両方の経験をもつ中澤さんからみて、どんなところに違いがあると感じますか

アメリカのスタートアップの中には立ち上がってすぐにユニコーン化する会社もあります。それは英語ベースでアプリやサービスをつくることができるからです。そうすればインドをはじめ、英語圏の国々には一気にサービスを広めることができますよね。そのため、市場が圧倒的に大きく、グローバルスタンダードを目指すことがビジネスの初期段階から考えられています。

対して日本の場合、日本特有の課題を解決するということが目的になっていることに加え、細かく課題を分析した上で生まれている場合が多いため、汎用性に乏しいというか、世界に広めていこうとなった際に色々なバリアに直面してしまうのだと思います。

ファンディングの面でも、数百億円単位で資金を投入できるベンチャーキャピタル(VC)や事業会社が日本に比較的少ないことも理由だと考えます。

また、アメリカには「新しい挑戦をする」「スタートアップを応援する」という風土があり、リスクや失敗に対し寛容でポジティブな環境があると感じています。日本でも既存の概念ややり方を壊し、新しい価値を生むことに挑戦している人たちを全力で応援するマインドセットが広がれば成功事例も起業家も増えていくと思っています。

 日本の10代に新しい気づきを与えたい

―様々な役割を担われている中澤さんですが、今後のキャリアで目指されていることを教えてください

この先の豊かな社会の形成を担う10代のために、教育×Fintechの会社である株式会社ikuraを素敵な仲間たちと一緒に創っています。大変なチャレンジになりそうですが、ミッションを共有する強いメンバーが集まってきているので、大きなインパクトが残せる事業にしていけると思っています。

まだ新規採用はスタートしていませんが、日本国内の10代のコミュニティー構築に興味のある方は、Hello@ikura.ioまでメッセージをいただけると嬉しいです(笑)。

―新しく立ち上げる会社の事業を通じて、10代の方にはどんな体験をしてほしいとお考えなのでしょうか

事業の基本的な部分として、お金を稼ぐ、貯める、使う、管理する、増やすといった実践を通じて金融リテラシーを身に付けられるツールをデザインしています。また、その体験を通じて自分にとっての価値観や判断基準の気づきに繋がるようなツールとなれば良いなと思っています。

自分と他人の価値観は違って当たりまえです。周りの定義した成功を追うのではなく、自分自身が実現したい未来を創る人を応援し、よりカラフルで豊かな社会を創っていきたいと思っています。

成長思考を持つことの大切さ

―様々なお話を聞かせていただきありがとうございます。中澤さんのように、いずれは起業し、経営者を目指したいと考える読者に向けて、メッセージをお願いします

私が尊敬する国内外の経営者の方々には共通点が一つあります。それは「成長思考(Growth Mindset)」を持っているということです。成長思考とは、人間の能力は生まれたものに固定されずいくらでも伸ばすことができるという思考パターンです。スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授の著書「マインドセット―やればできるの研究」に具体的に書かれていますが、成長思考を持つ人は失敗や周りからの指摘を学びのチャンスだと捉えることができ、困難を乗り越えて結果を出すことができます。

変化が加速する世の中で、経営者は新しいことにチャレンジすることが不可欠であり、チャレンジすればするほど失敗もします。しかし、失敗を恐れず、そこから学び成長し続ける力こそが、特にこれからの経営者には必要になってくると思います。

―学生や社会人である20代の読者の方が「成長思考」を身に付けるにはどのようにしたら良いのでしょうか

自分の中の声が自分自身に限界をつくっていることがあります。例えば「自分は英語が苦手だから修得できない」「語学を身に着けるセンスがない」といった、「固定思考」。自分を縛ってしまう言葉を発していることに気づいた時に、「これはいけない。固定思考になってしまっている。まだできないことにチャレンジしないと」とマインドシフトしてみてください。そのエクササイズを続けることにより、意外と成長思考が身に着いていくものです。

また、成長思考を持つ人は失敗を「学びのチャンス」だと捉えることができます。新しいことにチャレンジすれば、必ず失敗もします。20代から今に至るまで、「自分に出来るだろうか」「失敗するかもしれない」と不安に感じる挑戦をした時にこそ最も多くの学びを得ることができました。失敗は辛く悔しいことですが、それを通じて得られる学びにフォーカスを切り替えることで、より成長思考が身に着くと思います。

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◆中澤英子(なかざわ・えいこ)新卒でソニー株式会社に入社。営業、海外マーケティング、海外新規事業の立ち上げなどを経て、スタンフォード大学に留学。経営学修士を取得後、ソニーアメリカで勤務。独立後、ダイニングアプリのスタートアップの立ち上げを経て、ニューヨークで幼児教育のスタートアップ「Dearest」を設立。現在はDearestを共同経営しつつ、教育×Fintechを事業テーマとする株式会社ikuraを共同創業中。その他、Innovation Global Capitalでベンチャーパートナー、サステナビリティー革命を牽引する株式会社TBMの社外取締役も務める。

(まいどなニュース・20代の働き方研究所/Re就活)