重版率60%をたたき出す注目の出版社、ライツ社(兵庫県明石市)の代表大塚啓志郎さんに今春インタビューしたときだ。出版不況から町の本屋さんの苦境、そして紙媒体の今後を考えるとさぞしんどいだろう…と思いきや、明るい口調で言った。「本屋さんが本以外のものをバンバン売っていいし、書店以外でも本を売ったら、まだまだこの業界はいけますよ」。正直言うと、その時は(そうはいっても…)と思ったが、その後考えを変えた。本の可能性を信じる人たちを紹介する。

本屋の役割とは

広島県庄原市は県北東部に位置し、中国山地の山々に囲まれた人口3万4千人の街だ。「ウィー東城店」がある旧城下町の東城町エリアは、人口が1万人を切っている。そんな郊外型の書店が今、全国から関係者の注目を集めている。高齢化、過疎化が止められない中、広く住民に愛される店舗運営を学ぶためだ。運営する「総商さとう」の代表、佐藤友則さんには講演やセミナーの依頼が引きもきらないが、当の本人は「なんで僕なんかが呼ばれるんでしょうね」と首をかしげる。

ウィー東城店は100坪の店内のほぼ半分を書籍で、化粧品コーナーやエステルームがあり、文具、タバコも扱う。別途美容室やコインランドリー、精米機、卵の自販機もある。これらの多くは地元の人の「あったらいいな」「こうしてほしい」という声に沿ったものという。

「ガラケーが動かない」「テレビは扱っていないのか」「自転車も売ってほしい」…。書店ではあるのだが、店にはさまざまな相談が寄せられる。「ウィーさんなら何とかしてもらえると思って」と来店し、佐藤さんらもできるだけのことはする。売り上げに直結しないものもある中、困りごとに応対するうち、町のよろず相談窓口としてなくてはならない存在になった。佐藤さんに尋ねた。

「変わった本屋です」

―以前は店内の一番目立つ位置に鰹節を置いていたと聞きました。

「おいしい鰹節が切れたらまた買いに来てくれるでしょ。話題になればと始めた試みでした。来店のきっかけになり、鰹節の隣にだしの取り方などのレシピ本があれば、お客さんも助かりますよね。その後も調味料や海苔、地元の特産品を置きましたが、すべて本に結び付けることができます。ハロウィンの時期には、立ち寄った地元に小学生に本からキャンデーが出る手品を披露することもあります。『本屋って楽しい』と思ってもらえたら、と。そういう意味では変わった本屋です」

―頼られることを大切にしている、と。

「『ウィーがあってよかった』というお客さんの言葉が原動力。書店以外の機能を増やしていったのもそうです。『君の店は愛されているね』とある人に掛けていただいた言葉は忘れません」

―中には、経営者ならちゅうちょしそうな相談事も。

「『うちの子どもが学校に行けなくて…』という相談があり、彼をアルバイトとして雇いました。『来るだけでもいいよ』と考えていたのですが、接客を覚えてどんどん元気になってくれた。今はプロの書店員として責任ある仕事を任せています」

―さまざまなことに挑んでもいますが、多角経営とも違う。

「何かを知りたかったり、心が弱ったりするときは、人は本を読みます。格好良く言うなら、人生の処方箋です。読み終えて『そうか』と思い、行動に移す。その助けをできるのが書店の役割と考えています。だから中心にすえるのはやっぱり本。さっきのかつおぶしと本のように、生から死まで森羅万象、本は何にでもつながることができますから、どんな商品も取り扱える。書店ができることはまだまだ増やせます」

アメリカで読者開拓、パン屋、農園…

―新型コロナウイルス禍の中、どんな展開を。

「外出自粛で、ECサイトの利用が増えました。うちもアメリカのAmazonに本を出品したところ、売り上げが伸びました。リアル書店がAmazonに押されて…というならば、Amazonを使ってアメリカの読者と本でつながろうよ、と。この事業は若手に任せています。来年3月には敷地内にパン屋がオープンします。かつてアルバイトをしていた女性が東城に戻ってくることになり、相乗効果もあるし、経営のアシストもするからうちの隣でどう?と声かけしました」

―一方、人口減も避けられません。

「東城町の人口が5000人になったとき、地に足をつけてどう生きていくか、やはり農業と考えています。特産品の唐辛子農家の収穫のお手伝いをきっかけに社員が農業を学んでいます。名前はウィー農園。これが事業化できたら僕はもう引退です」

 本をテーマに地域密着の薬局を展開しているのが、大阪府府豊中市の「ページ薬局」だ。薬剤師の瀨迫貴士さんが手探りで今年6月、開業にこぎつけた。偶然にも、入居した集合住宅の1階には、30年ほど前は書店が営業していたそうだ。

書店経営のきっかけは、「1カ月で100冊の本を読もう!」への挑戦だった。ネットで推薦本を募ったところ、フェイスブック経由でおすすめ情報が数多く寄せられた。熱く語るメッセージに触れ、瀨迫さん感じたのは「本は人なり」。思いは膨らみ、「薬局を訪れるお客さんに本との出会いを提供しよう」と開業を決意した。

 ノウハウを持たなかった瀨迫さんをサポートしているのが野坂匡樹さんだ。SNSで瀨迫さんを知り、「お手伝いしましょうか」と連絡。書店の勤務経験をもとに、選書、仕入れ、書棚の構成などを指南する。話し合いながらオープン前に取り揃える1000冊を絞り込んだ。

「足を運んでくれるお客さんを飽きさせないよう、書店の棚はマイナーチェンジの繰り返しです」と野坂さん。当初は野坂さんがアドバイスしたが、最近は薬剤師のスタッフがお客さんの様子をみながらポップを作り、おすすめをアピールしている。来店者の年代が高めという特徴を踏まえ、お城やお寺などの地元情報の本を充実させたのはスタッフのアイデア。どの本を「平」にするか、「面陳」にはどれが向いているか、その時点のベストの書棚を目指して模索を繰り返すうち、その店らしい「書棚」が見えてくるという。瀨迫さんに聞いた。

 ―本をテーマにした薬局、手ごたえはどうですか。

「調剤までの待ち時間、書棚を眺めて買ってくださる方が多いですが、本を目的にふらりと立ち寄ってくださる方もいてありがたいです」

―健康・医療関連の本はあえて外しているそうですね。

「薬局だから健康医療本を充実させるというのも一つの考えかもしれませんが、書店は本との偶然の出会いの場であってほしいのであえて外しています。本棚を眺めるうち、思いがけないジャンルの本を発見してもらえれば。もちろんヘイト系の書籍などは置いていません」

―お客さんは、「薬局×書店」をどう受け止めていますか。

「本好きの方は『薬剤師がどんな本をチョイスするのだろう』と関心を持っていいただいているようです。私たちもお客さんと本談義ができ、作家さんと直接つながったりすることができました。数字だけを見るとまだまだですが、本屋として価値のある場所にしていきたいです」

(まいどなニュース/神戸新聞・竹内 章)