少し前までは「鬼滅の刃」を、どう読んでいいか分からなかった大人でも、いまではもう「きめつのやいば」と普通に読んでいるのではないか。週刊少年ジャンプに今年の5月まで連載されていたマンガだが、10月16日に封切られた「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」は公開から3日間の興行収入が46億円、10日で100億円を突破と、日本で上映された映画の中では過去最高のペースで興行収入を稼ぎ出している。もはや社会現象ともいえそうな勢いの鬼滅の刃を、株式市場も放っておくわけがない。

 さっそく関連銘柄を探す動きが活発だ。映画の公開後、真っ先に投資家が物色の矛先を向けたのは東宝(証券コード9602)だった。8月1日に3110円の安値を付けた後、10月19日には4790円まで駆け上がり、3カ月足らずで株価は約1.5倍になった。東宝はアニプレックスとともに劇場版の配給元になっている。もう一方のアニプレックスはソニー・ミュージック・エンタテインメントの完全子会社だ。夏場以降やや下落基調だったソニー(6758)は、「劇場版」の公開と軌を一にして上昇に転じる動きになっている。

 足元で動きが目立ったのは、エスケイジャパン(7608)だ。9月上旬には300円近辺で推移していた銘柄だが、10月に入って上げを加速。株価はついに700円を上回り、この1カ月ほどで2倍を超えた計算だ。ゲームセンターの景品が主力の雑貨メーカーで、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて今期の連結純利益は前期比85%減の8200万円にとどまる見通しを示している。「鬼滅の刃」関連グッズの収益を支えに、減益幅が縮小する展開への期待感が膨らんでいる。

 バンダイナムコホールディングス(7832)も堅調だ。ここにきて株価は8000円台を上回る推移で、上場来高値を更新する展開になっている。傘下のアミューズメント施設(ゲームセンター)ではクレーンゲームなどに鬼滅の刃の関連グッズを投入しており、新型コロナの影響で後退した客足の回復に期待がかかる。さらに10月17日に、たまごっちの鬼滅の刃モデル「きめつたまごっち」を2色を発売。育成方法によって、さまざまな「呼吸」の使い手に成長する。12月5日には第2弾の発売を控えている。

 一方、やや上値が重いのは東証マザーズ上場のエディア(3935)だ。子会社の一二三書房が、「鬼滅の刃」のキャラクターを使用した缶バッジなどを販売。映画公開のタイミングで、株価が下落する展開で現在は600円近辺で推移している。同社はジャンプ誌での連載や、昨年のテレビアニメ放送時などに、すでにグッズを手掛けていた。鬼滅の刃も寄与した収益改善などを手がかりに、昨年末にかけて1000円の節目を伺う展開になったこともあり、映画の公開がむしろ利益確定や、戻り待ちの売りを出すタイミングになったとみられる。

 映画公開にかけてはタイアップ商品の発売も増えており、ローソン(2651)はクジなどコラボ商品を多数手がける。コミックスの販売が増えるとみれば、ジュンク堂の丸善CHIホールディングス(3159)や文教堂グループホールディングス(9978)などの収益にも寄与しそう。山崎製パン(2212)は「ランチパック」で、ダイドーグループホールディングス(2590)は「絶品カフェオレ」で、日清食品ホールディングス(2897)は「チキンラーメン」でそれぞれコラボ商品を販売。映画のヒットは追い風になるだろう。

 アニメやマンガのヒットが株式市場のテーマになる局面は、意外なことにそこそこの頻度でやってくる。「ポケットモンスター」の流行では任天堂(7974)に関心が向かったし、「妖怪ウォッチ」のブームでは東映アニメーション(4816)やタカラトミー(7867)などが注目された。テレビとの距離が近い子供向けのコンテンツは、ヒットすれば子供たちの関心を一手に集めることになり、ヒットの規模も大きくなるのかもしれない。それに今回の「無限列車編」は大人が見ても泣けるとの評価もあり、幅広い世代の人気も集めているという。時代は少子化といっても「子供発」の流行を、少なくとも株式市場ではまだまだ無視するわけにはいかないようだ。

(経済ジャーナリスト・山本 学)