国内の大手IT企業が続々と働く場所を選ばないロケーションフリー化に舵を切っています。従業員が活き活きと働ける環境作りへ、そして企業側にとっては業務のパフォーマンス向上がその狙いです。皮肉にもコロナ禍でリモートワークが加速、働き方の変化は次のステップに入ったといえます。NTTグループが7月から全国どこでも勤務可能な制度「リモートスタンダード」を採用しました。一方、ヤフー株式会社は2014年にオフィス以外も含め、働く場所を自由に選択できる「どこでもオフィス」をいち早く導入。その後、制度の改正を重ね、2022年4月から居住地を全国に拡大、飛行機出社も可能となりました。まいどなニュースは、この制度を使って「自分らしく働く」ヤフー社員に話を聞きました。

木村綾子さんは、都会の喧騒を離れ、大自然が広がる北の大地を“職場”に選びました。各種人事関連データをまとめ、分析しやすいようにデータベース作りを行っていましたが、移住後もその業務内容は変わっていません。18歳年上のご主人と小学校1年生の長女と3人で、千葉県市川市から北海道の知床半島の西側にある町、斜里町に移住しました。どんな生活なのでしょうか。

北海道・知床に移住

−−なぜ北海道・知床を選んだのでしょうか?

「昔から旅行や山登りがすごく好きで、日本全国いろんなところに行ってました。知床にもいつか行きたいと思っていました。Go To キャンペーン(2020年の経済政策、同年12月28日より中断)のときにチャンスだと思いました。ホテルを予約しようと思ったらいっぱいで…行けませんでした。そのときの行けない思いが強くて残っていました。そんなとき(会社から)制度が変わるよって発表(2022年1月)になりました。2月には知床に移住しようと決めましたね」

−−家族は反対しなかったのですか?

「実は夫が若かりしころ、斜里町に通っていて、思い出の地だったのです。私と知り合う前のことなのですが、通い始めたのは30代に入ってからです。ちょうど人生を考える時期で、仕事を辞めて旅行で北海道に行ってました。バイクで回っているときにツーリングをしている人たちがよく泊まっている宿が斜里町にあったんですね、いつしかそこが気に入って通うようになったそうです。娘を自然豊かなところで育てたいなと思っていましたし、家族にとって一番いいところだと思いました」

−−ご主人も仕事をしているのですか?

「60歳を機に起業しましたが、そのまま仕事を持ってきたという感じですね。パソコンでできる仕事なので、不便はないですね。ヘルスケア業で、医療機関ごとにまちまちな健診データをとりまとめる事業をやっています」

仕事、子育て、そして家族の絆

−−実際、住んでみていかがですか?

「最初は田舎だから生活しづらいと想像していましたが、思った以上に住みやすいところでした。スーパーが近くにない、コンビニがない、と勝手に思っていましたが、スーパーは何軒もあるし、コンビニや飲食店も遅くまでやっています。不自由さは感じていません」

−−娘さんは気にいってますか?

「最初は想像がつかなったようですが『北海道に行くよ』と言うと『いいよ』って言ってくれました。小学校は歩いて10分ぐらいのところにあります。娘は楽しんでいるみたいです。『帰りたい』と泣かれることも想像していましたが、一回もなく取り越し苦労でした。5月の遠足ではまだ冷たい海にみんなで入って楽しんで帰ってきました。学校では、裏山で虫を取ろうという授業がありました。自然を題材にした授業は知床らしいなと思いました」

−−知床といえば…ヒグマとばったり、なんてことはなかったですか?

「国立公園に行ったときに遭遇しました。私たちは車の中にいたんですが、道路脇から出てきて道路を横切りました。『ホントにいる〜近い〜』って娘は驚いていました。クマではないのですが、町中では普通にリスやキツネが歩いています」

−−休日は何をして過ごしていますか。

「最近、農業を始めました。主人がツーリングのときに通っていた民宿がアスパラ畑をやっていましたが、オーナーが体調を崩されて…(畑を)つぶそうかとなったとき、引き継がせてもらえませんか、とお願いしました。土日は家族3人で畑作業をしています」

劇的な環境の変化のなかで得た「気づき」

−−環境が変わりましたが、仕事のパフォーマンスに影響はないですか?

「自然が近いので、朝起きて海に行きたいと思えば海に行ってボッーと眺めたり、山を見たいなと思ったら山を見ながら散歩したり、仕事だけじゃない、何も考えない時間が持てて、すごく気分転換になります。データを扱っていると、煮詰まってうまくいかないときがあるんですね。そんなとき外を見ると山が見えるのでリフレッシュになります」

(続けて)

「いろんな人との出会いがあって…その人たちと話していると、今まで固定観念のなかで都会で生活してたな、と気づかされます。考え方はいろいろある、これは仕事にも生かせるなと思いました。(地元住民は)生きていく力が違う。例えば、スキー場を自分たちで作ったり、家を作りたいと思えば自分たちで作っちゃう、考え方のスケールが違いますね。仕事上でこれまで、できない理由が先に来ていましたが、やろうと思えばできるんだ、ということを学びましたね」

−−離れていると社内での共同作業などに支障はありませんか?

「仕事はチームでやってますが、すでに人間関係が形成されていたせいもありますが、コミュニケーションに支障はありません。誰かとしゃべりたいと思えば、Zoomでランチしながら、雑談しています」

▼「どこでもオフィス」拡充 ヤフーは2022年4月、社員の通勤手段の制限を緩和、居住地が全国に拡大された。これまでの同制度では、国内なら好きな場所で働けることになっていたが、居住地に関しては、出社指示があった際、午前11時までに出社できる範囲に限定されていた。制度拡充とともに午前11時ルールが撤廃され、国内であればどこでも住めるようになった。出社は電車、バス、新幹線に加え、特急や飛行機、高速バスも可能になった。交通費は15万円まで、どこでもオフィス手当や通信費補助計1万円、社員間の懇談会費5000円(いずれも月あたり)。希望者にはタブレット貸与。対象は全国の正社員、契約社員、嘱託社員の約8000人。

(まいどなニュース・佐藤 利幸)