3度目の緊急事態宣言が発出され、東京の演芸場もついに休業をしました。こちらは大きなニュースになったため注目が集まっていますが、関西の演芸界も深刻な状況です。その深刻な状況を伝えるため、公益社団法人上方落語協会理事であり上方落語協会広報誌『んなあほな』編集長の桂枝女太師匠が手記を寄せてくださいました。

芸歴44年の桂枝女太師匠に襲い掛かった未曾有のパンデミック。上方落語に未来はあるのでしょうか?そして、深刻な状況を引き起こしているのはコロナだけなのでしょうか?

以下、桂枝女太師匠の手記です。

■ぼやいても仕方がないが…

いま上方落語界は、大きな危機を迎えている。

新型コロナが騒がれだして1年以上。関西には繁昌亭と喜楽館という定席があるが緊急事態宣言の間は休館、それ以外も客席数を半分以下に抑えている。

寄席でクラスターは出ていない。しかし、お上からのお願いを受けての対策だ。

また、他の仕事もまったくと言っていいほど無い。この時期にイベントをしようと考える人はいない。コロナが収まってからにしよう、それは当然の考えだろう。私が担当者でもそうする。

仕事がないため収入は、当然無い。

収入がないにも関わらず、少なくないお客さんは勘違いしておられる。よく聞かれるが「吉本って給料安いんしょう」。

私たち落語家に、定額の給料など一切ありません。仕事をした分だけの完全歩合制。仕事がなければ振込みはゼロ。ぼやいても仕方がないが問題は寄席だ。

■実のところ、寄席は今が快適

前述のようにこの1年間、客席数は半分以下に抑えている。繁昌亭は216席あるが今は102席。問題はその102席が埋まらないこと。

昼席は元々高齢のお客様が多いので仕方がない。夜席も終演後飲食店が開いていない。寄席のあと食事もできない。これでは足を運ぶ気にならないのも無理はない。

逆に言えば、今ほど快適に寄席を楽しめる時代はない。客席は半分。ひとつ飛ばし。隣の席には誰も来ない。

実際に寄席へ来てくれた知り合いの少々おばちゃんは「良かったわ、隣おらへんからゆったり見られたわ。隣に汗臭いおっさん来たらいややもん。又呼んでや」汗臭いおっさんも、隣にやかましそうなおばはんが来たらいやだろうけど。

だが現実は、ひとつ飛ばしどころか二つ飛ばしの状態。コロナで仕方がない、うん? 本当にそうか?本当にコロナだけのせいか?

最初に書いた大きな危機というのはそこにある。

■コロナがなくても客足は遠のいていた

コロナは、ワクチンや特効薬もできる。長くてあと1年の辛抱か。問題はそこではない。コロナ後にお客様が戻ってきてくれるのか。

あるご贔屓さんは「今は無理やけど、収まったら聴きに行くからな」と言ってくださっている。しかし、そこまで落語を待っていてくれる人がどのくらいいるのか。別にコロナの影響で悲観的になっているわけではない。この心配には理由がある。

コロナの前から、ジリジリと客数は減っていたのだ。

繁昌亭は、演芸場というよりは落語会だ。落語の定席という上方落語家の夢を実現させたもの。とにかく笑いたい人は吉本へどうぞ、そんな感じ。

これでは200人のキャパを毎日満員にする、年間で7万人の動員はできない。夜席も入れれば14万人。喜楽館と両方なら28万人。甲子園なら7試合で到達できる数だが…。

漫才やコントの出番を増やせば、人は入るだろう。しかし、落語の聖地の看板ははずせない。

繁昌亭は落語ファンの寄付でできた。喜楽館は公的資金が投入されている。上方落語という文化を守り、発展させていくために実現したもの。基本は落語を聴く場、当然のことだ。

■繁昌亭からスターを

では、どうすれば落語で人を惹きつけることができるか。腕を磨く、精進する。これらは当然だが、やはり看板が必要だ。そこで若手の育成に力を入れている。

「繁昌亭から若手落語家のスターを」

繁昌亭生みの親でもあり、上方落語協会前会長の桂文枝師が常々言っていたことで、絶対にやり遂げなければ上方落語に明日はない。

それも、上方落語四天王の絶頂期を知らない若手だ。言い換えれば四天王、つまり桂米朝・六代目笑福亭松鶴・五代目桂文枝・三代目桂春団治の呪縛に囚われていない人たちの、新しいかたちの落語を生み出すことができるかどうか。

私は四天王を否定しているものではない。四天王の落語に憧れこの世界に入った者が、四天王から逃れられるはずがない。しかし、親離れはしなければ。若い人たちは、我々よりはうまく親離れができるだろう。

それだけが、唯一上方落語を救う道だ。

◆桂枝女太(かつら・しめた)公益社団法人上方落語協会理事。1977(昭和52年)1月1日、桂小文枝(のちの五代目桂文枝)に入門、十番弟子。言葉の持つ魅力と魔力を知る落語家。繊細で知性あふれる高座に、根強いファンが多い。特に女性の描写が秀逸。古典落語のみならず、新作落語にも熱心に取り組む。上方落語協会の広報誌『んなあほな』3代目編集長に2017(平成29)年から就任。趣味は読書・バレーボール・野球・津軽三味線と幅広い。