新しい世代、新しい風。今年7月に公開され、SNSを中心に話題となった映画『ベイビーわるきゅーれ』を手掛けた25歳・阪元裕吾監督は、令和の映画界を力強く牽引していく筆頭になるはずだ。現在公開中の“ネタバレ厳禁”スラッシャー映画『黄龍の村』でも唯一無二の才気を発しており、ノースター&低予算ながらも社会現象を巻き起こした『カメラを止めるな!』(2018)以来のサプライズヒットの予感すらある。20代半ばにして監督作品が今年4作品も封切られるという、異例中の異例の事態を巻き起こしている“新しい才能”に迫る。

2021年は『ある用務員』『ベイビーわるきゅーれ』『黄龍の村』『最強殺し屋伝説国岡 完全版』の4作品が公開。中でも元JK殺し屋のほのぼのとした殺戮を描いた『ベイビーわるきゅーれ』は単館レイトショー公開という厳しい環境にも関わらず、その面白さと斬新さがSNSを通して広く伝播。国内最大級の映画情報サービスFilmarksでは、同日公開の大手メジャー『映画クレヨンしんちゃん 謎メキ!花の天カス学園』を抑えて満足度1位に輝いたほどだ。

業界内の評価も高く、『カメ止め!』監督の上田慎一郎も自身のTwitterで「荒唐無稽な実写エンタメっていうある意味一番ムズイやつの大成功例」と激賞。映画監督・北野武を生んだレジェンダリープロデューサーの奥山和由も「タランティーノ映画を初めて観た時を思い出す」と反応している。

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が原点

これらの反響に当の阪元監督は「自分としてはおもろい映画を作ったとは思っていましたが、それにしても想像以上の反応。この人も観てくれたのか!?という驚きもありました。ここはおもろいやろ?と意図したシーンや設定をその通りに受け取ってくれている人たちがほとんどだったので、その点では思惑通りという手応えはあります」と正当な評価に胸を撫でおろしている。

現在25歳と若年ながら、監督としてのキャリアは高校時代から。大学時代に複数のインディペンデント系映画祭で賞を受賞するなど、自主映画界隈ではそれなりに知られた存在だった。監督作品のすべてに共通するのはバイオレンスだが、その主軸の枝葉に青春や恋愛、友情、コメディなどのサブジャンルが咲き乱れて、独特な後味を残す。映画を血肉に生まれたというよりも、漫画を血肉にして生まれたかのようなアイデアとセンスが光る。

「それなりに映画は観ている方だとは思いますけど、旧作や名作と呼ばれる映画はそこまで観ていません。ゴダールやフェリーニの映画は観たことがないし、唯一チャップリンくらい。映画以上に『ドラえもん』や『こちら葛飾区亀有公園前派出所』などの長寿漫画にハマったし、バイオレンスものばかりを撮っていますが、コメディ作から受けた影響は結構大きいです」と自己分析する。

特に『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の主人公・両津勘吉は、阪元監督にとっての理想のアウトロー像だという。「両津はメチャクチャながらもスカッとさせてくれるし、読者の思う通りのことをしてくれるブレないキャラクター性も魅力。どの話から読んでも面白いし、そんなおもろいアウトローが世界を引っ掻き回すような設定にも憧れる。一見すると荒唐無稽だけれど、最後は上手く収まるという流れは『ベイビーわるきゅーれ』でも参考にしました」と強烈なキャラクター造形に影響を受けた。

すべてをぶっ壊していくような破壊系のお笑い

阪元監督ならではの色として挙げられるのは、生っぽいセリフの数々。単なる無駄話やちょっとしたエピソードなのに飽きないで耳を傾けていられるのは、そこに捻くれたユーモアと妙なリアリティが感じられるからか。「普通だったら全然関係のない話をするはずなのに、共通のテーマだけをキャラクター全員に喋らせるようなストーリーは気持ち悪い。セリフを考える上では、物語のテーマとは無縁の話をキャラクターたちにさせることを意識しています。どうでもいいような、でもちょっと笑えるような日常会話を普段からメモしていて、脚本を書く時にそれらをセリフの隙間に入れ込むようにしています」と創作の舞台裏を明かす。

殺人村に迷い込んだ大学生グループの恐怖を描いた『黄龍の村』はスラッシャーホラーではあるのだが、シュールなコメディを見ているかのような感覚にもなる。スラッシャーホラーならではのセオリーで進行しながら、中盤から思いもよらぬ方向に舵が切られる。入口と出口があまりにも違う。それが『カメ止め!』同様に“ネタバレ厳禁”と言われる所以だ。

「確かにネタバレ厳禁ではあるかもしれませんが、『カメ止め!』は丁寧に伏線を回収していく知的なお笑い。かたや『黄龍の村』はそれとは真逆で、すべてをぶっ壊していくような破壊系のお笑い。いや、お笑いというよりも永遠なるしばき合いかな?」と作った本人でさえ首をかしげるくらいの斬新さがある。

まったく話が嚙み合わない会議も山ほど

笑いにおいても設定においても、嫌いなものがはっきりしているのも阪元監督の逞しいところだ。「物語の中でだけで盛り上がっているような軽いノリの笑いは嫌い。ちゃんと観客を笑わせて、適切にコメディをやるピクサーは凄い。日本映画で昔から伝統的に描かれてきたような食卓シーンも嫌いなので、自分の映画ではお米と小鉢と味噌汁みたいな映画の典型的和食メニューはやりません。あえて鍋とか焼きそばとか肉じゃがだけとか、邦画で描かれがちな食事パターンから外すようにしています」と細部へのこだわりも強い。

典型を拒み、新しい方向性を模索する。既視感あるストーリーと原作モノが氾濫する邦画界において、難しい戦いを強いられることも多い。「企画会議などでストーリーをプレゼンしても理解してもらえないことも多い。まったく話が噛み合わない会議も山ほどあります。『ベイビーわるきゅーれ』の際も最初は“は?”でしたから」と苦闘を振り返りつつも「今回の『黄龍の村』はいまだかつてない展開を見せる映画。未知なるものによくぞ製作費を出してくれたなと思います。連続して自分の作家性に合わせてくれるプロデューサーに出会えたのは嬉しいこと」と追い風を感じている。『ベイビーわるきゅーれ』の高評価を経て、『黄龍の村』がどう化けるか。映画監督・阪元裕吾の生み出す世界が、文字通り世界を騒がす日はそう遠くはなさそうだ。

(まいどなニュース特約・石井 隼人)