ご自分の乳歯のことを覚えていますか。私はグラグラした乳歯が気になり、ずっと舌の先で歯を触っていました。グラグラするのがだんだん激しくなって歯が抜けると、その歯の歯茎に埋まっていた部分がギザギザになっていて指先でなぞった記憶があります。

 このギザギザした部分は歯の根=歯根(しこん)=が溶けて残ったところです。歯根は歯茎に埋まっている支柱のようなものですが、その乳歯の後に生え替わる永久歯がある場合、時期が来たら溶け始めます。破歯(はし)細胞という細胞が分泌する酸などにより、歯に含まれるリン酸カルシウムの一種であるハイドロキシアパタイトが溶けていきます。この破歯細胞は通常、歯が生え替わる時のみ現れますが、歯科矯正治療などで歯に強い力や長期間にわたる持続的な弱い力がかがった時などにも出てくることがあります。

 生え替わる永久歯が何らかの原因で作られない場合や、生え替わる永久歯の位置や形に異常がみられる場合、乳歯がそのまま口の中に残ることが多いです。これは特に真ん中から5番目にある第二乳臼歯に起こりやすく、「晩期残存(=ばんきざんぞん)」と呼ばれます。歯科医師から「乳歯が残っていますね。」と言われた方もいらっしゃると思いますが、いずれ抜けてしまうことが多いため、その歯をどうするかを歯科医師と相談した方がいいでしょう。

 注意したいのは、乳歯は永久歯より虫歯になりやすく、虫歯が広がりやすいつくりになっていることです。歯の神経と呼ばれる歯髄(しずい)にまで虫歯が広がると歯は死んで枯れ木と同じ状態になってしまいますが、乳歯の場合歯の表面を覆うエナメル質、その内側にある象牙質が永久歯に比べて薄いため、虫歯が歯髄まで広がりやすいです。また乳歯の表面を覆うエナメル質は永久歯のそれより未熟でやわらかいつくりになっているため、虫歯が奥深く進行する原因になります。

 虫歯の部分は黒くなっているイメージがありますが、虫歯の初期の状態で見られる白く濁った部分ではハイドロキシアパタイトが溶けているため、放っておくと虫歯が広がる可能性があります。この場合、その後に生える永久歯のエナメル質などが十分できなかったり、永久歯の歯並びに悪影響を及ぼしたりするため、「いずれ生え替わるから治療しなくてもいいや」とは思わないでください。お子様の乳歯を見て「虫歯かも」と思ったら、早く歯科を受診しましょう。

◆中塚 美智子 大阪歯科大学医療保健学部准教授。歯科医師、労働衛生コンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士。