歯科治療をはじめ口腔内の維持管理は食べることだけでなく、生きる力やQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)にも大きく関わってきます。つまり、長寿の秘訣は口腔内のケアも絶対に欠かせないということです。高齢化が進む中、ますます重要なのが「訪問歯科」の存在。その普及に尽力する一般社団法人日本訪問歯科協会の広報担当理事、前田実男さんに現状をお聞きしました。

歯科治療を要する高齢者の急増

 日本の要介護認定を受けている人口は632万人(平成28年4月時点)と言われています。その中で要介護高齢者の多くが歯科的な問題を抱えているにもかかわらず、外来での歯科受診は75〜79歳をピークにその後、急速に減少しているとか。

 厚生労働省によると「要介護者の約9割は何らかの歯科治療、または専門的口腔ケアが必要である」というのですが、実際に治療を受けたのは約27%。全体の1/3にも及びません。「27%が治療を受けたとしても、単純計算でも299.5万人が歯科治療を必要としているわけです」と前田さんは指摘します。

 もし、治療をしなければ、どうなるか。咀嚼機能をはじめ口腔機能の低下が考えられ、健康や生命予後にも影響するかもしれません。高齢になればなるほど、歯科治療や口腔内のケアはとても重要なのです。そこで、登場して来たのが「訪問歯科診療」です。これは通院が困難な高齢者のための歯科の往診サービスで、治療はもとより検診や口腔ケアも行っているそうです。

 しかし、さきほどの数字を見れば、まだまだ訪問歯科が普及していないのが現状のようです。前田さんは「もっと多くの高齢者の皆様に訪問歯科を利用していただきたい」と話し、そのためには「広く一般に訪問歯科の存在を知ってもらう必要がある」と考えています。

「訪問歯科」を行う医院数は?

 訪問診療対応の実績のある歯科医院は、平成29年4月の段階で全国に約6万8,000医院中、約1万3,000医院とのこと。また、平成20年度に在宅又は社会福祉施設等における療養を歯科医療面から支援する目的で創設された「在宅療養支援歯科診療所」の数は平成29年4月の段階で9,763診療所となっています。

 要介護者の急激な増加に伴い、訪問歯科のニーズも増大していることから、訪問歯科診療が適切に行うことができる歯科医院数は現状では足りていません。「もっと多くの歯科医院に訪問歯科に参加していただきたい」と前田さんは呼び掛けます。

 何かいいアイデアはあるのでしょうか。たとえば、通院されていた80歳以上の高齢者の患者さんに訪問診療を行っていることを通知するだけでも、確実に訪問診療の依頼が出てくるといいます。「医院に来られなくなった高齢者の方に知っていただくだけで、訪問歯科は拡大していくと考えています」

 実際に訪問治療を行う「西村歯科」(大阪府堺市)の西村有祐院長にその重要性を聞くと「コロナ禍で歯科医院での受診を怖がっている要介護者もいます。ご自宅での診療でも通常の医院と同様の治療が可能です。また口腔内ケアもプロの手でしっかり行えるので、体調がよくなり、食べるのが楽しくなったと言っていただいた。歯科医師としてはうれしいですね」と答えてくれました。

訪問歯科を利用した人の声は?

 利用者の話を聞くと「父が寝たきりなので訪問歯科診療はありがたかったですね」「足腰を悪くして歯科に行けず、入れ歯が合わずに困っていましたが、今や入れ歯も快調です」「出張費がかからないことを知りました。もっと早くに利用しておけばよかったと思いました」など、歓迎する声がたくさん聞かれました。これからますます必要とされる訪問歯科診療、今後にも目が離せません。

(まいどなニュース特約・八木 純子)