10月下旬から11月上旬にかけて、東京や千葉、神奈川県など首都圏の住宅街を中心にサルの出没が相次ぎました。また、11月7日から9日までには福岡県北九州市で、9日には愛知県名古屋市でもサルの目撃情報が相次ぎ、北九州では5歳の男の子がサルに襲われて軽いけがをしたといいます。

最近目撃されているサルですが、なぜ都市部の住宅街などに出没しているのでしょうか? その背景や理由について、長岡技術科学大学(新潟県長岡市)の准教授として野生動物に関する研究を重ね、獣害対策の専門家としても活躍されている山本麻希さんにお話を伺いました。

■サルの群れは"かかあ天下"! 若い雄ザルは追い出されて「離れザル」に

首都圏でサルの目撃情報が出始めたのは10月下旬ごろから。11月1日にかけて、千葉県鎌ケ谷市や市川市の住宅街などで相次いで目撃情報が寄せられています。続いて、同じ県内の浦安市でも出没。さらに川を越えた東京・江戸川区や港区のお台場、高輪などでも目撃されたとのこと。9日以降、大田区やお隣りの神奈川県川崎市でもサルの目撃情報が相次ぎ、それからサルの行方は途絶えているといいます。

一方、福岡県北九州市では11月7日から9日にかけてサルの目撃情報が相次ぎ、男の子が襲われるという被害も。愛知県名古屋市でも9日、車が通る中、道路を渡っていく姿が目撃されたそうです。

このように都市部の住宅街などにサルが出没する背景や理由、そして遭遇したときの対応策などを含めて今回は山本さんに解説をしていただきました。

――10月下旬から11月上旬にかけて東京や千葉などでサルの目撃情報が相次ぎました。最近よく都市部にサルが出没する理由として考えられることを教えてください。

「千葉から目撃情報が始まったということですが、千葉の南房総にはたくさんのサルの個体群(野生の群れ)がいます。サルは普段は群れで生活をしていますが、この群れが母系中心、つまり雌の血縁関係で結ばれた社会構造を持つ群れで暮らしている動物なんです。

だから、群れのリーダーというのは一番年老いたおばあちゃん。いわゆる、何回も子どもを産んでいるベテランのお母さんです。そのおばあちゃんザルがたいていリーダーで、それも1頭だけではなく何頭もいます。 当然、子どもを産むとその雌の子どもは群れに残ります。

ところが、雄というのは近親相姦(そうかん)を避けるため、だいたい4歳から6歳くらいになると群れにいる別の雄から追い出されるんです。ですから、若い雄ザルは自分の血縁とは違う群れに入れてもらうまで"旅"を続けていきます。そういうサルのことを『離れザル』というんです。今回都市部で出没しているサルは、おそらく『離れザル』ではないかと思われます」

――なるほど。別の群れを探し求めて"旅"をしている「離れザル」が都市部に現れたわけですね。

「そうです。『離れザル』というのは別の群れを探して"旅"をしていきますので、同じ場所に居着かずにたいていは、しばらくするといなくなります。群れを追い出されて次の群れに入れてもらうまでが"旅"の途中となるので、どんどん移動していくんです。その際に群れに出会えなくて都市部に入ってきてしまうと人間と遭遇してパニックになって、ひたすら逃げてしまうことに。1頭で出没する場合もありますし、同世代の雄ザル数頭が一緒に追い出されて移動しているケースもあります。今回のケースはおそらく1頭の雄の『離れザル』が"旅"をしている途中で、市街地に迷い込んでしまったのではないでしょうか」

■「離れザル」が長距離を移動か…東京・千葉・神奈川の出没サルは同じサル?

――というと、今回出没が相次いでいる東京や千葉、神奈川のサルは同一のサルの可能性が高いということですか?

「同一の可能性はあると思います。千葉の方面から目撃情報が始まったということは、南房総の群れにいた『離れザル』かもしれません。私たちが想像する以上に広域で『離れザル』は移動するケースがあり、ときには100キロ以上も"旅"を続けることもあるのです。

本来サルは1日2〜3キロ程度しか移動しないのですが、都市部に入りパニックになったり、人間に追われたりするといつもより早い速度で動きます。生えている果樹などを食べながら移動しているのかもしれませんが、食べられなくなったら途中で衰弱する可能性もあります。ただ、都市部に動き回っている間はサルも『山に帰りたい』と必死ですので、とにかく走り続けているといった状況だったのでしょう」

――首都圏で出没したサルは、千葉の南房総にいた野生ザルかもしれないということですね。

「断定はできませんが…関東でサルの個体群は千葉のほか、栃木や群馬、神奈川や東京の西部でも確認されています。ですので、東京や神奈川で目撃されたサルは別のサルかもしれません。

また野生のサルは、よほど悪いサルではないと、こちらから攻撃しない限り基本的には人を襲う動物ではありません。非常に稀ではありますが、人身被害を出すサルの場合は飼育されていたサルが逃げたケースが多いですね」

■街中でサルに遭遇したら…どのように行動したらいいのか?

――福岡の北九州では、5歳の男の子を襲ったということですが。こちらは飼育されていたサルの可能もあるということですか?

「危害を与えたからといって、一概に『飼育されていたサル』とは断定はできませんが…確かに飼育していたサルは人間に慣れていますから、近付いて危害を加えることもあります。特にサルは弱いものに対して威嚇しますから、大人の男性よりも小さい子どもや女性の方が威嚇されやすいです。

ただ、市街地に出てきてパニックを起こしてしまって生死の危険を感じていると、自衛手段として人を襲ってしまうケースもありますから。野生のサルの可能性もありますね」

――野生のサルでも飼育されいてたサルでも、危害を与える状況もあるということですね。では、私たちがサルに遭遇したとき、どのように行動すればいいのでしょうか?

「絶対に近付いたり、刺激を与えたりしてはいけません。基本的には、距離を置くことが一番大事です。距離を置く際も相手の様子をよく観察して、襲ってきそうなのか、落ち着いているのかを確認しながら背中を見せずにゆっくりと離れていきましょう。

距離を開けるということが相手の心の中にも余裕ができます。人間からこれくらい距離が開いていれば逃げられる。例えば、10メートルくらい距離があったら向こうから走って襲ってくるというのはよほどのことがないとないでしょう。2、3メートル程度だと『手が届くかもしれない。何かを投げられるかもしれない』と、相手も思いますので。やられる前にやろうとしますから、慌てずできるだけ早く距離をとることが重要ですね」

――まずサルから距離を置くことが大切なんですね。万が一、襲ってきたときは…。

「クマもイノシシなどもそうなのですが、目と後頭部に爪や歯があたると致命傷になることがあります。そういった致命傷になる部分をしっかりと服や持ち物で隠すなどして守ることが最も重要です」

■寒さに強いサル、冬の都市部に「離れザル」が出没する可能性も

――今回各地で出没していたサルが『離れザル』だとしたら、冬になっても出没する可能性はありますか?

「『離れザル』の発生は群発的なところもありますので、いつごろに多く出るかというのははっきりとは分かりません。今回、目撃情報多かったサルが『離れザル』だった場合、彼らの交尾期が秋ごろでしたので、群れを出て別の群れにいる雌を探し求めて移動していたのかもしれません。

では、冬になれば全く動かないのかというと、そういうわけでもありません。サルは比較的寒さには強い動物ですから、冬も『離れザル』が出没する可能性もあります。都市部に現れることが多い『離れザル』は、住宅街に迷い込んでパニックになる前に自治体などが安全な形で捕獲をして山に返してやるのがより得策だと思われます」

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▽山本 麻希/長岡技術科学大学准教授

長岡技術科学大学の研究室では「野生動物管理工学」をテーマに動物の個体数を管理するなど、獣害対策に関わるデータを取りながら野生動物を管理するための工学技術を駆使していくという研究などに取り組む。主にクマ、サル、シカ、イノシシ、カワウ、カラスなど鳥獣被害を起こす動物と人間が共存できる社会を目指している。さらに、ソーシャルベンチャー企業「株式会社うぃるこ」を2017年に設立。県や市町村、集落での獣害対策をプロとしてバックアップしている。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)