今年3月、淀川区役所のすぐ隣にある建物の壁に、突如大きなナイチンゲールが現れた。大きく描かれた彼女の顔と、斬新な色使い、そしてどこか「和」を感じさせる柄。これは淀川区との協力で、とあるアーティストが「医療従事者にエールを」というメッセージを込めて描いた壁画だ。

淀川区にアトリエを持ち、関西を中心に活動しているBAKIBAKIさん。普段から店舗や企業などから注文を受けて、制作を行っている。

彼の持ち味は、「BAKI柄」という和モダンを感じさせるトレードマーク。これをあらゆる作品に登場させて、作品に唯一無二の味わいを生み出している。ナイチンゲールの作品でも、よりポップに彼女の存在を引き立たせている。

壁画の制作は、クレーンや足場を使って行う。BAKIBAKIさんによると、「全身の体を使うため、スポーツ的な要素が強いです。壁の状態によって画材や絵型を変える臨機応変さや、雨天の際は中止したり、時間帯に配慮するなどの近隣への気遣いも必要。制作にはたくさん試練があるんです」。

今でこそバンクシーなどのアーティストを通じて芸術としての価値も知られるようになったが、壁画には「違法行為だ」「街の治安を悪くする」といったネガティブなイメージもつきまとう。しかしBAKIBAKIさんの場合は全て合法的に制作していることに加え、ある「工夫」をしているという。

「壁画は存在感も大きく、良くも悪くも街の景色をつくるものです。僕の場合は変に目立たせるのではなく、作品を街に馴染ませることを意識しています。壁画へのマイナスな印象は払拭したいですね」

「とはいえアーティストとしては少し主張していたいので、僕の代名詞であるBAKI柄を取り入れたりもしています」

こうした壁画=ミューラルアートは、アメリカ発のストリートカルチャーに属するものだ。壁画だけでなく、ラップ音楽やDJ、ブレイクダンス、スケートボードなども含まれる。1970年代アメリカの不況を背景に生まれたこの文化について、BAKIBAKIさんはこう語る。

「サバイブ能力や、物事を乗り越えていくバランス感覚がありますよね。それに、アーティストは『このビルにこのイラストを描くとおもしろくなりそう』みたいな見方で街を見ている。そんな遊びの感覚やたくましさこそ、今の時代に必要なのかもしれません」

BAKIBAKIさんは、淀川区の協力を得て「淀川ウォールアートプロジェクト」を立ち上げた後、現在は「淀壁プロジェクト」に取り組んでいる。「淀川区に壁画を増やし、豊かな街を作りたい」と願い立ち上げたものだ。

「下町の雰囲気が色濃く残る淀川区は、アートとの関わりがまだ薄い。しかし2025年には万博も開催されますし、それまでに街を壁画で盛り上げていきたい。この街にはこれから若い世代も増えてくると思うので、文化活動の一端を担いたいと思っています」

なお、BAKIBAKIさんは「淀壁プロジェクト」の制作・実行費を募るクラウドファンディングを実施している。支援期間は9月5日まで。

(まいどなニュース特約・桑田 萌)