和歌山、奈良、三重に跨がる紀伊半島の内陸部は、ニホンオオカミが最後に確認されたというくらいの、全国でも有数の山深さです。道路もまだ未改良の部分が多く、いわゆる酷道もたくさんあります。

自衛隊が切り拓いた?

 日本最大の半島、紀伊半島。和歌山県、三重県、奈良県に跨がるそのエリアは全体的に山がちで、複雑な地形です。大峰山や熊野三山など霊場が有って、大昔から人の行き来はあったので、歩くための道はそれなりに発達していたものの、クルマの通れる道路の整備は遅れていました。

 海岸線沿いの国道42号は、昭和の終わりまでにはほぼ全線改良されていましたが、内陸部の道路は、いわゆる3ケタ国道を筆頭になかなかアドベンチャーな強者が揃っていました。そして今も至る所にその頃の名残があります。

 筆者は小学生の頃、1970年代の後半に3年間だけ和歌山県の由良町という町に住んでいたことがあります。その頃、父の運転するクルマでよくドライブに出かけていましたが、海岸線を離れて山の中に入るとそれはもう五分で秘境といった感じでした。ほぼほぼ一車線で離合困難な山道が続き、時折景色が開けると見上げるような険しい山。いつ終わるともない冒険の旅です。

 もともと林業のために作られた林道が舗装されて、ほぼそのまんま国道に格上げされた。そんな道路がたくさんありました。

 当時、地元のおっちゃんは「山の中の道は自衛隊が突貫工事で作ったんや」なんて話してくれました。そんなことが実際にあるのでしょうか。調べてみると自衛隊には「土木工事等の受託」という自衛隊法に定められた業務があって、有名なところでは乗鞍スカイラインや塩那道路も自衛隊が作った道路なのだそうです。訓練の一環としての工事で、自衛隊発足から2009年までの期間で8263件あった、という資料がありますが、個々にどこの工事というデータは公表されていません。なので、紀伊半島内陸部の険道の一部ももしかすると自衛隊の皆さんが切り拓かれたのかも知れませんね。

紀伊半島の3ケタ国道たち

 紀伊半島を走る主な三桁国道というと、まず最初は南北に縦貫する国道168号と169号。この日本は改良が進んで、ほぼ全線にわたって二車線の走りやすい道です。ただ山深い秘境を抜けているので災害の影響を受ける危険はあって、実際に168号は2011年の豪雨で大きなダメージを受けて一時通行止めが続いたこともあります。

 北から入って天川村を抜けて、国道169号に接続して終わる国道309号は、天川村の中心部までは改良が進んで快適な道ですが、その先169号までの区間はかつて「行者還林道」と呼ばれた林道で、ほぼ一車線の激狭酷道です。行者還林道という名前は近くに行者還岳という山があるからですが、この山の名前の由来はおそらく「行者でも諦めて帰ってくるしかないほど険しい山」なので、秘境にも程があります。なので当然のようにすごい道です。特に行者還トンネルという暗くて長いトンネルを越えてから先は、深い深い谷を見下ろしながら急なカーブと下りがひたすら続く山岳酷道ですね。トンネル入り口辺りからは紀伊半島最高峰の八経ケ岳が見えます。

 紀伊半島の3ケタ国道の中で唯一整備されていて走りやすいのが311号。しかしこの道路と時折重複する371号はなかなか手強い道です。紀伊半島内で唯一「未開通部分」、いわゆる点線国道の部分を持っています。先日、その未開封部分の行き止まりまで行ってみようとしましたが、遥か手前で工事中、通行止めでした。迂回路を探すも日没で時間切れ、次回リベンジします。

 さて、難敵が残りました。国道424号と425号です。424号は近頃では改良が進みましたが、海南から金屋までの山越え区間は今もなかなかの狭隘路です。また金屋の先、白馬トンネルというのがあるのですが、これが開通する以前には白馬峠というなかなかすごい難所がありました。筆者は1987年、バイク免許を取って間もない頃にここに迷い込み、急な下りをこわごわ下っていたところ、道路中央部の浮き砂利で滑って鎖骨骨折という酷い目に遭いました。

 そして最強最悪の3ケタ国道、425号線。日本の三大酷道にも数えられる、どこに出しても恥ずかしくない実に立派な酷道で、御坊から尾鷲までを繋いでいます。集落もない人も居ない秘境を延々と繋いでいて、もはや鬱蒼とした樹海もしくは絶景しか存在しないような道です。なので崖崩れなども多く、2015年7月の台風11号で尾鷲の手前で道路が決壊して以来、ずっと通行止めになっていました。それがこの2021年9月18日に解除されたのですが、その直後9月23日に今度は十津川村で土砂崩れがあって通行止め、この記事を書いている時点で復旧の予定は立っていません。果たして全線通して走り抜けられる日はいつ来るのでしょうか。

 このように、紀伊半島の3ケタ国道は強者揃い。驚きと感動を用意して手ぐすねを引いて(ちがう)あなたを待っています。この先筆者もあらためて訪れ、また順次詳しくご紹介していきたいと思います。

(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)