日本三景・天橋立で有名な傘松公園(京都府宮津市)。大型連休中で行き交う観光客が土産品店「牧野商店」前で、指さし、笑顔で写真を撮っている。視線の先には人気タレントのマツコ・デラックスさん。の、ような置物が鎮座している。しかも、2体。なぜ、天橋立に「マツコ」さん?謎をたどると、制作者のユーモアとちょっとしたペーソスの漂う秘話が明らかになった。

 手がけているのは地元、宮津市農業委員会の事務局主任の内藤進介さん(54)=同市溝尻。幼少期からプラモデル製作が趣味で、もの作りが好きだという。「マツコ」は新聞紙と洗濯のりで形作り、合成樹脂を塗り固めた後、色塗りをして仕上げている。立像・座像バージョンがあるが、いずれも本体は胸部までで、棒やコーン標識、座布団などで固定している。

観光地の話題作りに、季節に応じたコスプレを披露

 天橋立と言えば白砂青松。京都丹後鉄道(丹鉄)には観光列車「丹後あかまつ号」もあり、「松」はゆかり深い。「場所も傘松公園で、松にちなむ大きくて丸みのあるキャラクターを置いたら、目立つし、話題になると思って」と内藤さんが狙い語る。同級生で土産品店店長の牧野英喜さん(54)に頼んで5年前から不定期で置いている。

 ここまでは表向きの話。実は、傘松公園に「マツコ」が登場するまでには紆余曲折(うよきょくせつ)があった。

実は、市民ロードレース大会のかぶり物がデビューだった

 数年前に催された市民ロードレース大会。走るのが苦手な人のために、内藤さんが「見るからに走りにくそう」なかぶり物を手作りした。「マツコ」の誕生だ。「『そんな格好だと走れないだろう』と突っ込んでもらいながら走ってもらえたら」と5体を用意した。だが、着ると本当に走りづらく、実際に使われることなくお蔵入りとなった。

 次に登場したのが車の展示イベント。場所取りのために使ったという。内藤さんは「5体を並べて置いたらイベントのにぎやかしにもなるかも」と笑う。その時「マツコ」に目を付けた人が自治会のイルミネーションイベントに使いたいと申し出て初展示することに。以来、牧野商店や京丹後市弥栄町の道の駅「丹後王国 食のみやこ」でお披露目されるようになった。

 「マツコ」は四季折々を反映してきた。2月は節分に合わせてこん棒を携え、3月は十二単(じゅうにひとえ)の雛(ひな)飾り。5月は甲冑(かっちゅう)(こどもの日)、8月は浴衣姿で、10月のハロウィーンではフランケンシュタインにドラキュラ、オオカミ人間に大変身。「正月は和尚姿の2体を準備しました。和尚がツー」とおやじギャクも。当然、衣装や小道具も内藤さんのお手製だ。時流に合わせて歌手のピコ太郎さん似のものや、NHK番組の人気キャラクター「チコちゃん」がお目見えしたこともあった。

 家族の視線は冷たく厳しい。妻は「いい年をして、恥ずかしい」「社会人が没頭するような趣味とは思えない」「部屋が散らかる」と製作活動に賛同しておらず、取材を受けるのにも猛反対だったという。だが、「マツコ」を一目見てクスッと笑ってくれる人たちをモチベーションに、内藤さんは肩身を狭くしつつも勤務前の早朝や帰宅後の深夜に時間を捻出し、コソコソと作業している。

 一方、地元の人たちは温かく見守っている。内藤さんに依頼された牧野さんは「最初は何でこんなことを、と不思議だった」と苦笑するが、今では通学する子どもたちが喜んだり、観光客から尋ねられたりすると効果を実感している。「今度はいつ置くのか、と問い合わせもある。まちを明るくしてくれている」と目を細める。

 SNS(交流サイト)でもじわりと広まりを見せている。インスタグラムで「マツコ丹後」「マツコ天橋立」と検索すると、記念撮影している画像がちらほら。ただ、内藤さんは「もう少したくさん投稿があると思っていたのですが…」と満足はしていない様子だ。

 まちの盛り上げに貢献している一方「(肖像権など)許可を得ているのか」との指摘もあるという。内藤さんは「あくまでマツコ・デラックスさんに似た『松の精』です」とかわしつつ「いつか、本人にも訪れてもらいたいし、正式な許可をいただければ」とつぶやいた。

 ちなみに、この「マツコ」は、元々仮装用だったこともあり、今でも装着できる。目の部分が空いているが、視界は狭いためサポートが必要。奇跡的にタイミングが合えば、マツコデラックスさんと着ぐるみ「マツコ」で夢のツーショットを撮れるかもしれない。

(まいどなニュース/京都新聞)