「子猫リレー事業」と聞いてその内容がすぐに思い浮かぶのは、関西在住の一部の人かもしれません。でも、それは小さな命を救う、とても大切な事業です。運営しているのは「公益社団法人 大阪市獣医師会」。飼い主のいない幼齢猫を生後半年まで育て、里親探しをするこの事業は、2015年10月にスタートして、19年10月末までに324頭の猫を引き取り、268頭を譲渡してきました。

「もともと、大阪市と大阪市獣医師会が協力して、“街ねこ”と呼ばれる野良猫たちに不妊去勢手術をする取り組みをしていました(現在も継続中)。それにより殺処分される猫の数は大幅に減りましたが、頭打ちと言いますか、ある時期から減らなくなってしまった。そこで、譲渡につなげる事業を始めたんです」

  事業の立ち上げについて説明してくださったのは、大阪市獣医師会の理事であり、東成区にある「おざさ動物病院」院長の小笹孝道獣医師。小笹獣医師は「大阪どうぶつ夜間急病センター」(東成区)を運営する「株式会社 十二志会」の取締役副社長も務めています。一風変わった社名は、夜間診療施設の必要性を訴え、開設に携わった若手獣医師が12人いたことに由来しているそうです。

 “街ねこ”へのTNR活動(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)を発展させた形でスタートした「子猫リレー事業」。対象となるのは「おおさかワンニャンセンター(大阪市動物管理センター)」に収容された猫のうち、生後数日でまだ離乳できていない、300グラム前後の幼齢猫たちです。

  命のバトンを最初に受け取るのは、大阪市獣医師会に登録している113の病院のうち、20の協力病院。約3か月齢まで預かり、1回目のワクチン接種やトイレのしつけをした後、「キトンシッター」と呼ばれるボランティアさんにバトンを渡します。キトンシッターの家で暮らすのは約6か月齢まで。最初は数時間おきにミルクをあげなければならず、健康管理も難しいことから病院でお世話をするのが最適ですが、性格が形成され、社会化が必要な時期には“家庭”に入るのがいいという考えからです。その後は再び動物病院に戻してもらい、新しい飼い主を探すというのが事業の基本的な流れです。

「協力病院がもっと増えてくれるといいのですが、通常業務以外の負担が増えるので、なかなか難しい。獣医師の家族に協力してもらうことも多いですしね。その点は今後の課題だと思っています」(小笹獣医師)

 不足しているのはキトンシッターも同じです。原則60歳以上の方にお願いしているのですが、なかなかなり手がいないのだとか。

「60歳以上としたのは、一人暮らしの高齢者や、家族と住んでいても外にあまり出ない、引きこもりがちな方に、猫のお世話をしてもらうことで元気になっていただきたいというのが最初の趣旨でした。ただ、その縛りがある難しいので、最近は柔軟に対応するようにしています」(小笹獣医師)

 6か月齢までというルールも、子猫がキトンシッターになつき過ぎてしまい、新しい飼い主に馴れないケースがあるため、前倒しすることもあるそうです。事業をスタートしてまだ4年。より多くの命を救えるよう、仕組みは柔軟に変えています。

 里親募集はいろいろな方法で行っています。(1)協力病院で実際に猫を見てもらう。(2)事業に賛同している新日本カレンダー株式会社が展開するペット用品の通信販売「PEPPY(ペピイ)」公式サイトで写真とプロフィールを紹介。(3)同会社が運営する「ペピイ・ハッピープレイス」(2階以上はペットと暮らせる有料老人ホーム)内に猫と触れ合える「猫のロンパールーム」を設置。小笹獣医師によれば、(3)のロンパールームが最も譲渡率が高いそうです。誰でも気軽に足を運べるところがポイントなのでしょう。

  動物病院にいる間は獣医師が健康チェックをしていますし、キトンシッターの預かり期間も月に一度の受診が義務付けられています。また、「猫のロンパールーム」で暮らす子たちは、協力病院の獣医師たちが施設を訪問して定期的に健康診断をしているので、譲渡対象の猫たちは皆、健康そのもの。多くの人たちと触れ合っているので人馴れもしています。

「私たちは『大阪市獣医師会ブランド』と呼んでいるのですが(笑)、譲渡対象になっているのは混合ワクチンの接種が終わり、猫エイズや猫白血病の検査結果も陰性の子たち。不妊去勢の手術とマイクロチップの装着をしてからお渡ししますので、安心して迎えていただけると思います」(小笹獣医師)

 小さな、小さな命のバトンを、リレー形式でつないでいく「子猫リレー事業」。同じような取り組みは他府県にもあるようです。あなたも、命のバトンを手にしてみませんか?

(まいどなニュース特約・岡部 充代)