プィ〜ンと耳元で聞こえる不快な音。夕方、ほんの少しの間外にいただけなのにめちゃくちゃ咬まれて…。夏といえば蚊の季節です。かゆいだけでなく、病気も媒介してしまうこの厄介な虫との戦いには長い歴史がありますが、近年、蚊よけに「音(または超音波)」を使う方法がネット上などでまことしやかに流れています。でも本当に、効果はあるのでしょうか。

 SNS上では先月「蚊の誘引音」に引かれた蚊が布団の上で死んだ―といった内容の投稿が広く拡散。YouTube上にはその音を紹介する動画もあり、「効果を保証するものではありません」との断り書きはあるものの、昨年4月の投稿以来、27万回以上再生されています。

血を吸うのはメスだけ。聴覚は発達せず

まず、長年にわたり蚊の忌避実験や捕獲効果を検証している「害虫防除技術研究所」(千葉県)の白井良和さんに聞きました。

――早速ですが、音で蚊よけはできるのでしょうか。

「刺されて嫌な蚊を忌避する“蚊よけ”の意味では、効果は考えづらいですね」

――えっ。即答ですね。

「そもそも、吸血するのはメスだけで、産卵のためです。オスは花の蜜を吸って生きており、生涯血は吸いませんし、メスのように吸血するための特殊な口吻も持っていません。そして、メスは聴覚が発達していないんです」

――ええっ。聴覚が発達していない…

「はい。一方、オスはメスの羽音を聞き付けて交尾をするため、聴覚が発達しており、過去にはメスの羽音にオスが誘引されることを明らかにした論文もあります。ですが、これはオス限定。これまでも“蚊よけ”と称して音や超音波を流すCDなど4、5商品の効果を実験しましたが、いずれもメスへの効果は認められませんでした」

 と明かします。

衝撃の実験結果は…

 それでも「効果がないと証明するにはそれぞれ実験しなければ」(白井さん)―とのことで向かったのは「アース製薬」。蚊よけスプレーなどの「虫ケア用品」で国内虫ケア用品(殺虫剤)国内シェア率 57.2 %(同社調べ、2019年見込み)を誇る同社の心臓部ともいえる、兵庫県赤穂市の研究開発本部です。

 「害虫博士」こと部長補佐の内海與三郎さんは「蚊のオスとメスは体のつくりも大きく異なるんです」と指摘。「蚊のオスでは、触角の根元の『ジョンストン器官』という聴覚や気流変動感知に特化した器官が発達しています。普段オスは草藪の中などで暮らしていますが、メスの羽音を聞き付けて近寄るのです。イエカ類ではオスがたくさん集まって蚊柱をつくることもあります」。

 これに対し、メスはこの器官が発達していません。「オスにとって音は重要な情報ですが、メスにとってはオスほど重要ではないんです」と内海さん。「メスは触角で汗に含まれる乳酸や水蒸気、熱対流を、触肢と呼ばれる部位で炭酸ガスを、また目(複眼)で色を感知し、吸血できる人間や動物を見つけるのです」と話します。

 とはいえ、何事もやってみなければ…というので、同研究所で飼育する約100匹のメスの蚊(ヒトスジシマカ)を1m四方のかごに放ち、実際に「蚊の誘引音」とされる音を流してみたところ…。

 結果は、1匹たりとも寄って来ませんでした。試しに研究所の若手研究員が腕をかごに差し入れると、数秒もたたない間に数十匹の蚊が腕にたかる大惨事に。「もし音に誘引されたように見えたとすれば、血を吸わないオスか、音ではなく人間の匂いや熱、黒い色などに反応したのでは」と内海さん。

一番刺されやすい血液型は? 虫よけ剤のコツは

 ちなみに、蚊といえば「△型が刺されやすい」とか「太った人や子どもの方が好き」とか様々な都市伝説がありますが、内海さんによれば「全く同じ条件下なら、蚊が最も好むのはO型の血液と言われています」だそう。ただ、実際の人間は体温や呼吸量、皮膚の常在菌などがそれぞれ違い、発する物質も微妙に違うため「刺されやすい人・刺されにくい人」が生じるそう。「ただ、一般的に子どもは高齢者より代謝が活発ですし、柔らかい肌は水分量が多いということ。それが蚊を誘引しているのかもしれません」と話します。

 ちなみに、現在忌避剤として効果が認められているのは、ディートをはじめとする化合物のほか、天然成分ではかんきつ類に含まれるシトロネラールなど。「最も効果が高く幅広いのはディートだが12歳未満の子どもには使用制限も。使う場所や場面、年齢によって使い分けては」とし、さらに「肝心なのは、塗り残しをしないこと。スプレーの後も手でまんべんなく全体に広げてください」とアドバイスしてくれました。

 というわけで、今回の結論。音(超音波)では、あのイヤ〜な蚊は防げません!(オスがお好きな方はどうぞ♡)

(まいどなニュース・広畑 千春)