最近、と言っても結構時間は経ってますが、「クルマの顔つきが変わってきた」と感じている人は多いんじゃないでしょうか。 ちょっと感覚的な表現になりますが、どうも「目が小さくなった」「目つきが鋭くなった」というような声を聞くことがたまにあるんですよね。

 ひとむかし、いや、ふたむかし以上前には、クルマのヘッドライトというものはかなり大きく、形も丸か四角でした。それが今ではサイズが小さくなり、形も五角形、六角形、楕円形、その他一口に言い表せないような不思議な形のヘッドライトが増えてきました。

 クルマの「顔つき」、つまりスタイルやデザインを大きく左右するヘッドライト。その形の移り変わりについて、ちょっと考えてみたいと思います。

ヘッドライトに電球が使われるようになるまでの時代

 クルマが世の中に誕生した当初、ヘッドライトは電気で光るものではなく、灯油やアセチレンガスを燃やして灯すランプでした。行灯や提灯のようなものですね。「昼行灯」なんていう言葉がありますが、行灯は夜でもそうそう明るいものではなく、まあ歩くときに足下を照らすようなものですよね。クルマのライトとしては、これはかなり心許なかっただろうと思います。

 最初の電灯式ヘッドライトが開発されたのは、1909年頃とされています。

 電灯というと、エジソンの白熱電球が完成したのが1879年。しかし当初は寿命がたったの45時間だったといわれますから、とうていヘッドライトに使えるようなものではなかったことでしょう。さらにいえば、その頃の電球のフィラメントはよく知られているように「竹」でしたから、クルマの振動には耐えられなかったのではないでしょうか。

 思えば電球がヘッドライトとして使えるくらいの信頼性を得るのに、誕生からおよそ30年ほどかかったことになります。また1910年には、エジソンの電球のフィラメントは竹から次の素材へかわったといわれます。電球の技術に関して、この時期に何かいろいろブレークスルーがあったのでしょうね。

最初はすべて丸い形をしていた

 ヘッドライトは、ただ電球などの光源が光っているだけでは役に立ちません。クルマの進行方向に向けて、光のエネルギーを束にして照らすようにしないといけません。また、対向車がまぶしくないように、光を下向けにする仕組みも必要です。

 効率よく光の軸、光軸をまとめ、また上向きや下向きに制御するためには、光源の後ろに凹面鏡を置いて、光の向きを前向けに集中させないといけません。またその前面には、光軸を調整するためのレンズを取り付ける必要があります。そのためには形は丸いほうが都合がよかったので、最初のヘッドライトはすべて丸形でした。特にアメリカでは1939年、ヘッドライトの中に電球を入れるのではなく、ヘッドライト自体が大きな電球になっている「シールドビーム」という効率のよいランプが生まれました。そして翌年にはこのシールドビームの直径7インチのものが規格化されて、すべてのクルマにこれを使うことが義務づけられました。つまりこの頃のアメリカ車はみんな同じ、この丸いヘッドライトを使っていたのですね。

 一方ヨーロッパでは、1960年頃に四角いヘッドライトが登場しました。日本でも1967年式のマツダ・ファミリアなどが四角いヘッドライトを採用しました。そしてアメリカでも、1974年には四角いシールドビームの規格が制定され、丸形に加えて四角いヘッドライトの車が作られるようになりました。

ありましたねぇ、スーパーカーライト

 いま50代半ばの皆さんは、スーパーカーブームを経験されたことと思います。1970年代の後半、日本を席巻したフェラーリやランボルギーニの多くには、普段車体に格納されていて点灯時に起き上がってくる「リトラクタブルヘッドライト」(通称「スーパーカーライト」)が装備されていました。

 これは、ボディ前端を低くしたいというスポーツカーのデザインの要求を満たしつつ、ヘッドライトの高さに関する規制(あまり低い位置にあると認可されない)をクリアするためのものでした。

 スーパーカーブームのさなか、1978年にデビューしたマツダ・サバンナRX7にはこのスーパーカーライトが採用されていて、当時のキッズはテンションだだ上がりでした。ついに国産車にもスーパーカーライトが、なんて喜んでいたのです。彼らのほとんどは、1967年に生まれたトヨタ2000GTのリトラクタブルヘッドライトを知らない世代だったのですね。

技術の発展とともに、形や大きさの自由度が高くなった

 1986年、ドイツでプロジェクターヘッドライトが開発されます。これは小さく丸い、つるんとした球面のヘッドランプです。映写機の原理で遮光板を投影することで、鋭くカットされたロービームを実現しました。

 1989年には、スタンレー社がマルチリフレクターランプを開発しました。これはレンズカットに頼ることなく、複雑な角度に組み合わされた反射板(リフレクター)で光軸を調整するもので、それまでに比べてクリアな、しかも自由な形状のヘッドライトが作られるようになりました。

 1991年にはドイツでHID(キセノンランプ)が実用化されます。従来のフィラメントではなく、高電圧の放電で強力な真っ白い光を生み出すものです。

 そして2007年、レクサスLS600が世界で初めてLED(発光ダイオード)ヘッドライトを搭載しました。ついにヘッドライトにもLEDの時代がやって来たのです。

 LEDは光源も本体も小さくすることができるので、ヘッドライトそのものの小型化が進むことになりました。

 それまでクルマの前面のかなり大きな面積を占めていたヘッドライト。これらの技術の発展に伴って、形や大きさの自由度が増えて、クルマそのもののデザインもヘッドライトという要素に縛られる部分が少なくなりました。

 衝突したときの歩行者保護など、クルマのデザインにはいろいろなことが要求されるようになりました。そんな事情もある中ですが、いまの自動車の顔つきが変わってきた、その大きな原因のひとつはやはりヘッドライトの進化だったのですね。

(まいどなニュース特約・小嶋 あきら)