くぅちゃんは隻眼の黒猫。今年8月、大阪・岸和田市でノラ猫の一斉TNR(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)が行われたとき、大人の猫たちに交じって生後3カ月弱と思われる真っ黒な子猫が捕獲されました。そのときすでに左眼は退縮してしまっていたそうです。

「お医者様の話では、眼球はないけど涙腺は残っていると。分泌物が出てくるので、それは拭いてあげるようにしています」

そう話すのは、現在の飼い主である松中みどりさん。子猫を捕獲したボランティアさんたちがリリースをやめ、ノラ猫・保護猫専門のお手伝い屋さん『ねこから目線。』に里親募集を依頼しました。そのブログを見て手を挙げたのが松中夫妻だったのです。

「結婚以来ずっと猫を飼っていました。でも、2年前にふうちゃんという黒猫を亡くしてから、すぐには次の子を迎えられなくて。ペットロスというより力が抜けた感じでしたね。免疫異常があって、血が止まらないかもしれないから避妊手術もできないような子だったんです。いろんな病気が見つかって、手術も何度したか分かりません。でも13年も生きてくれたんです。私にしか懐かなくてかなり手が掛かったので、亡くなったときは『お互いよく頑張ったね』という気持ちでした」(松中さん)

ふうちゃんがいなくなって1年半がたった頃、猫のいない生活がさみしくなり、インターネットで保護猫の検索をしていたとき目に留まったのが、『隻眼のくろすけ。里親募集スタートです!』というタイトルのブログでした。当時は「くろすけ」と呼ばれていたのです。

片目のない猫を家族に迎えようと思った理由はいくつかありました。

「ふうちゃんが応援してくれる子がいいと思ったんです。健康で何の問題もない子より『私と同じようにここじゃなきゃいけない子にして』って、天国から言っているような気がして。その前に飼っていた子も『てんかん』があって、そういう子たちを長くお世話してきたから、大抵のことは大丈夫だろうというのもありました。私たち夫婦には子供がいないので、手を掛けてあげられるんです。それからもう一つ、ふうちゃんに供血してくれた猫ちゃんは両眼がなかったんですよね。だから、くぅちゃんのような子が来てくれて、きっとふうちゃんは喜んでいると思います」(松中さん)

保護主さんからは「お母さん猫に『人間が来たら逃げなさい』と教えられているような子」と聞いていましたが、松中家にトライアルにやって来た初日から、のどをゴロゴロ鳴らし、ヒトの手からごはんを食べ、極め付きは松中さんの頭の近くで“へそ天”して寝たと言います。

「ずっと前からうちにいたみたいでした(笑)。物怖じしないというか、ふうちゃんは私以外の人、主人もダメで『ふう』ばかり言っているからその名前にしたくらいなんですけど、くぅちゃんは病院の先生にもゴロゴロするような子。性格は違いますが、くぅちゃんに出会わせてくれたのは、きっとふうちゃん。くぅちゃんの中にはふうちゃんの魂が入っている気がしています」(松中さん)

トライアルが始まって間もなく、くぅちゃんの体に“ブツブツ”ができたとき、松中さんは「この子も体が弱いのか」と少し悲観的になりました。「また何かあるかもとビクビクしていましたね」。でも原因が“真菌”と分かり、獣医師に「薬を飲ませて体を清潔にしてあげれば、時間は掛かるだろうけど治る」と言われてひと安心。お風呂にも嫌がらずに入ってくれたくぅちゃんは、あっという間に良くなりました。

いたずら好きで元気いっぱいのくぅちゃんは、家の中を全速力で走ってはどこかにぶつかったり、子猫にしては驚くほど高い場所から飛び降りたり。松中さんは「遠近感が分かりづらいのかも」と言いますが、隻眼であることの不自由さはちっとも感じないそうです。

「保護猫の場合、“小さい”“かわいい”“健康”がもらわれやすいんでしょうけど、たとえハンディがあっても、それを特別なことだと思わなくていいんじゃないかなと。くぅちゃんを見ていてそう思います。『ねこから目線。』さんには今も里親募集中の猫ちゃんたちがいて、中にはハンディのある子もいます。その子たちにも早く本当の家族ができてくれるといいなと思いますね」(松中さん)

(まいどなニュース特約・岡部 充代)