M-1グランプリ2020で見事優勝を果たした「マヂカルラブリー」。ボケ担当・野田クリスタルの全身を使った破天荒な振る舞いに、ツッコミ担当・村上が突っ込んでいく。独特の芸風に「あれは漫才なのか」と物議を醸した。

そもそも、何が「漫才」なのか。マヂカルラブリーのネタは漫才といえるのか。
東京藝術大学美術研究科修士課程を卒業し、「漫才のツッコミ」に関する研究・制作を行なった最上あやさんに話を聞いた。 

最上さんは学生時代、デザインを専攻しながらも、漫才好きが高じて研究を行ったという異色の人物だ。「ツッコミは笑いのフチ取りだ」という千原ジュニアの言葉からインスピレーションを受け、「フチ」の種類をカテゴライズし、作品を制作した。

最上さんが主に研究してきた「ツッコミ」、そして「ボケ」の2つの観点から考察をお願いした。最上さんはこの議論についてどう考えるのか。

■コント漫才のツッコミ=観客への説明が必要

まずは「ツッコミ」の観点からみると、「漫才だ」といえるそうだ。
「ツッコミには2つの役割があります」と最上さん。「観客が思っていることの代弁」と「観客への説明」。

「“フレンチ“ネタで、野田クリスタルがジェスチャーで木を切るボケがあります。漫才にはコントのように小物がないため、そこでツッコミが『木切ってない?!』と突っ込んで説明することで、観客は野田さんが何のジェスチャーをしているのかが分かる。その状況に気づくことができ、笑いが生まれます」
マヂカルラブリーの村上は、コント漫才ならではのツッコミの役割を果たせているそうだ。

■正統派=しゃべくり漫才?

では、「ボケ」の観点ではどうか。「漫才かどうかという議論が生じたのは、ボケ側の口数があまりに少ないことに原因があるように思います」。最上さんいわく、野田クリスタルの芸風は「コントタイプの漫才」にのっとっているという。その点で言えば、やはり「漫才」に当てはまる。

「何らかの場面を想定して役を演じるコント漫才は、他にもたくさんのコンビがやっています。タイプ的に目新しさはありません」 

「コント漫才」を行うコンビは少なくない。2018年まで3年連続で準優勝の結果をおさめた和牛がそうだ。

とはいえ、オール阪神・巨人や中川家、また2019年に優勝したミルクボーイのような「しゃべくり漫才」を「正統派だ」と位置づける人は多い。コント漫才の中でも破天荒なボケを繰り広げた野田を見て、「これは漫才ではない」という意見が多く生じたのであろう。 

■そもそも漫才を広辞苑で調べると…?

「漫才」を広辞苑で引くと、以下のような説明がなされている。 

「二人が掛合いで滑稽な話をかわす演芸。また、その芸人。関西で大正中期、万歳が舞台で演じられたことから始まり、昭和初年掛合い話が中心となる。」

中世日本、家の繁栄を祈り歌い踊る中世日本の「千秋漫才」を起源にもつとされている漫才。小噺や謎かけ、数え歌など様々なスタイルを経て、現代のスタイルがある。漫才は変化するものだ。「漫才かどうか」という疑問は、議論を深めるにはあまりに難しすぎるように思える。 

最上さんは、「正しい漫才、というものはないと思います。しかし、美しい形の漫才ならありそうですね」と加える。ミルクボーイと和牛のネタが、それに当てはまるという。

「どちらも、フリーハンドできれいな正円を描けたときのような気持ち良さがあります。どの軌道を通るかわからないけど、最後はピタッと到達することができるような……」デザイナーらしい言葉で、美しい漫才について語ってくれた。

(まいどなニュース特約・桑田 萌)