野生ネコで最も小さい種の一つで、中東アジアから北アフリカにかけて生息し、「砂漠の天使」とも呼ばれる「スナネコ」。日本では昨年3月に日本動物園水族館加盟園館として初めて、「那須どうぶつ王国」と姉妹園の「神戸どうぶつ王国」で飼育展示が始まりました。その後、両園で赤ちゃんも生まれ、一躍大ブームになっています。ですが、この人気ぶりに、国内でもペットとして高額で販売する例が相次ぎ、物議を呼んでいます。

 つい先日も、スナネコを扱うペットショップをある民放キー局が人気の動物番組内で紹介。同じ日に「那須―」の公式アカウントが「ペットには不向。スナネコを知りその生息環境を守っていくためにも、野生のスナネコの姿を想像してほしい」とツイートし、番組に批判が集まるなど“炎上”騒ぎになりました。希少な野生動物であるスナネコの飼育には、何が必要で、なぜペットに向かないのか。「神戸―」の佐藤哲也園長に聞きました。

乱獲、密輸…“コツメカワウソの二の舞”懸念

 展示開始以来、2つの園ではホームページなどで「スナネコは野生動物です。とても可愛らしい動物ですが、牙も鋭く気性も荒く、決してペットとしては飼えません」「ペットとして飼いたいと考えないで下さい」と訴えてきました。

 スナネコは絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引について定めた「ワシントン条約」(CITES)で2類に分類。正規の手続きに基づいた輸入は認められており、一般の人が購入して飼うこと自体は違法ではありません。また国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは2016年に「準絶滅危惧」から「LC(軽度懸念、低危険種)」に評価が変わりました。

 とはいえ、「そもそもレッドリストに載る時点で種の保全の対象ということ」と佐藤園長。「トラやヒョウはワシントン条約では1類に属しており、保全評価では絶滅危惧種になっています。スナネコも、高リスク種ではなくても希少動物であることに変わりはありません」と強調し、「このままでは、スナネコも、乱獲と密輸入が横行しワシントン条約2類から1類に規制が強化されたコツメカワウソの二の舞になりかねない」と懸念を強めます。

鋭い爪や牙、気性も荒く…人の指なら食いちぎる力も

 そもそも、スナネコは中東アジアの砂漠地帯でネズミや鳥類などを捕食してきた動物。細く鋭い爪や牙を持ち、気性は荒く、同園にやってきた当時も人間の存在に慣れるまでもかなりの時間を要したといいます。佐藤園長は「ネズミを食いちぎれるぐらいだから、人の指ぐらいなら食いちぎれるかもしれません」。

 「見た目はかわいいですが、多くの人が期待しているようなイエネコや犬のようにはならない。日中は家の中に放して夜はゲージで…という飼い方もできない」と指摘。「そもそもイエネコの祖先であるリビアヤマネコとほぼ同じ生息圏で暮らしてきた種。ネズミなど捕食する行動も同じなのに、何千年の間ペット化しなかった時点で、人との生活に向いていないということ」と話します。

環境、エサ、健康管理…生態に合わせ厳格に

 同園では本来生息している場所と同じような環境でストレスなく暮らせるよう、展示室や飼育室の床は砂漠と同様に砂地にし、温度や湿度を管理。岩場や木を入れ、上ったり、砂を掘ったりできるよう配慮し、日当たりなどにも注意を払っています。

 エサも、馬肉、鶏肉、鹿肉などに加え、腎疾患を起こした時に備えキャットフードも混ぜて与えています。さらに、獣医が常駐しており、毎日の体調管理・データチェックをするほか、繁殖についても他園とも連携し、遺伝的な問題に配慮して交配を実施。計画的に種の保存を行っているといい、来年はメスの身体を考慮して繁殖は休む予定といいます。

 佐藤園長は「単なるペットと違い、やはり希少生物である野生動物を飼育するには大きな責任を伴う。最近ではイエネコとの交雑種も生まれているが、そんなことはこの種のことを考えれば冒涜(ぼうとく)に近い」と強調。「たとえ違法ではなくとも、医療面、食料面、運動できる環境、遺伝的多様性…“アニマルウェルフェア(動物福祉)”の面でも、一般家庭での飼育には向かないと思う」と訴えます。

 どんなに可愛くても、人と野生動物の間には、超えてはいけない一線があるはず。この貴重で、誇りある「野生動物」としての姿や種そのものを次代に伝えていくのも、私たちの責任なのかもしれません。

(まいどなニュース・広畑 千春)