ママさんが呼びかけると、しっぽでお返事をする茶トラの男の子が千葉県に住んでいます。名前は武蔵くん。自分の名前はもちろんのこと、あだ名やよく分からないものにも反応しちゃいます。

武蔵くんはT家の末っ子。40代夫婦と茶トラのツヨシ兄ちゃんの2人と2匹の家族です。末っ子なので甘えん坊なのかと思いきや、とてもしっかり者なのだそう。

しっかり者なのが、よく分かるエピソードがあります。

ある時、ツヨシ兄ちゃんが天井近くまであるラックのてっぺんまで上って、降りられなくなったのです。ここで助け船を出したのが武蔵くん。ツヨシ兄ちゃんのもとまで飛んでいくだけでなく、降り方のお手本を見せ始めたのです。

「ここに手をかけてね」

時々振り返り、ツヨシ兄ちゃんが見ているかを確認。ツヨシ兄ちゃんはこれを真似して、無事に降りることができました。

これだけでなく、何かとツヨシ兄ちゃんのお世話を焼いてしまう武蔵くん。これには理由があります。最初にT夫妻に保護猫施設で出会った時、Tさんの夫から「ツヨシをよろしくね」と頼まれたのです。

出会う前の武蔵くんは、施設近くを走り回る野良の子猫。施設のスタッフが何度も保護を試みるも、いつまで経ってもご飯すら食べに来ない子でした。

そんな武蔵くんがついに保護猫施設のお世話に。子猫部屋で大勢の子猫たちと過ごしている時、Tさん夫妻とツヨシ兄ちゃんと出会ったのです。

実は武蔵くんを迎えるにあたり、ツヨシ兄ちゃんも保護猫施設へ一緒に訪れていました。猫同士の相性を見るならテリトリー外の方が良いと、保護猫施設からのアドバイスがあったのだそう。

ツヨシ兄ちゃんが入るケージに武蔵くんも入れられ、ケンカをせずおたがいに興味を持っている様子だったので、武蔵くんはそのままT家に迎えられることになりました。この時に「ツヨシをよろしくね」と頼まれたのです。

Tさん夫妻がこうお願いしたのは、悲しい思い出から。ツヨシ兄ちゃんがT家の子になる以前、同じく「ツヨシ」という名前の猫がいたのです。この子は、迎えて数カ月で病気になり他界してしまいました。

この病気の原因を夫妻は、「ツヨシ」が一人で過ごす時間が長かったためと考えているのです。もう寂しさから病気にならないよう、新たに猫を迎える時は2匹だと決めていたのだそう。

でも、それだと武蔵くんはツヨシ兄ちゃんのためだけに迎えられたも同じこと。Tさんは何とはなしに、武蔵くんと心の距離を覚えていたと言います。武蔵くんもせっかく迎えられたにも関わらず、ずっと遠慮をする日々。

Tさんは当時を振り返ると、まだ先代の「ツヨシ」くんを亡くした悲しみから立ち直っていなかったのだと分析します。「ツヨシ」の身代わりの「ツヨシ」を迎え、その新しい「ツヨシ」のためだけに2匹目を迎える。心の距離が生まれて当然といえます。

それではいけないと、Tさんは武蔵くんと向き合います。「仲良くなろう」という気持ちを込めて、名前を呼びかけたのです。

武蔵くんは戸惑います。呼びかけられても、Tさんを遠くからうかがう日々。それでもTさんは「武蔵」で反応してくれなかったら「むっちゃん」と呼びかけ、「むっちゃん」がダメなら「むーちゃん」と変えて呼びかけました。それがどんどん増えていき、いつの間にか何にでも反応するように。

現在はテレワークが多くなったTさん。一緒の時間が増えていくにつれ、どんどんと武蔵くんとの心の距離が縮まっていきます。今ではTさんに呼ばれるのをワクワクして待つように。

Tさんは笑顔で言います。

「武蔵はきっと嬉しいと思ってくれているはず。それが私も嬉しいんです」

武蔵くんは今日もTさんの呼びかけに尻尾で答えます。それはまるで「ママさんの全部が大好き」と言っているかのように。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)