小太郎ちゃん(11歳・オス)は、ゆうみんさんが勤める会社の外猫クロ母さんが産んだ子猫だった。ゆうみんさんが保護して飼っているちびりんちゃんの甥っ子でもある。会社の敷地内にいるとはいえ、完全な外猫。それでも小太郎ちゃんは人が大好き。いつも抱っこをせがんできた。

会社の移転とともに外猫たちも移動

2009年の夏、大分県に住むゆうみんさんが勤めていた会社は、道路拡張のため直線距離で1キロほど離れた山間にある資材置き場を拡張して、移転した。前の敷地から、大きな神社や森を越えたところだった。会社で暮らしていた外猫たちは、普段から山を越えて資材置き場と会社を自由に行き来していた。まるで移転することを知っていたかのようだった。

会社事務所や加工場を新たに建築し、従業員が引っ越しを済ませると、自然と猫たちも森を越えて新しい社屋の敷地に勢揃いした。会社では外猫にも全て名前をつけていたので、全頭揃っているのは確認できた。

「本当に不思議なことです。ただ、残念なことに、会社は山間にありますが、前を大きな幹線道路が走っているので、道路に出てしまい、事故で命を落とす子もいました」

ゆうみんさんは猫の世話係をしていたが、出勤や退勤時に事故に遭った猫を発見すると、どの子が亡くなったのかを確認して、亡骸を段ボールに移し、会社敷地内の土手深くに埋葬するのも仕事だった。綺麗な亡骸の時もあったが、そうではない時も。しかし、不憫な気持ちが先立つため、姿形をとどめていない亡骸を段ボールに移すことに何の躊躇もなかったという。

もちろん、メス猫が増えないように女の子優先で不妊手術を進めていたが、まず人馴れさせて触れるようになってからということと、費用の問題もあり、一度に全頭手術することができず、妊娠出産してしまうこともあった。その時は、従業員や知人、出入りの業者に声をかけて里親を探し、離乳時期を待って譲渡した。

太郎くんの死とクロ母さんが産んだ子猫

ゆうみんさんは、GWや年末年始で会社が長期休業する時も、猫たちにごはんを与えるために朝晩会社に通った。2009年夏、移転直後のお盆休みの朝、会社に向かう途中の道路の真ん中に、1匹の猫が横たわっていた。嫌な予感がして、急いで車を道路脇に止めて近づくと、会社の外猫の太郎(サバ白)くんだった。ゆうみんさんが保護して飼っているちびりんちゃんの兄弟だ。すでに息絶えていた。外傷は見当たらず、綺麗なままだった。前の社屋はまだ片付けの途中だったので、山越えではなく、道路を使って行ったり来たりしていたようだった。ゆうみんさんは、車に積んでいたバスタオルに亡骸を包んで会社に連れて帰り、亡くなった猫たちと同じ場所に埋葬した。

その年の秋、クロ母さんと呼ばれていたなかなか人馴れしないメス猫が2匹の子猫を産んだ。男の子は亡くなった太郎ちゃんに瓜二つのサバ白だった。太郎ちゃんの子供に違いないと思い、男の子は小太郎ちゃんと名付けた。女の子は、クロ母さんの姉妹猫のセラちゃんが産んだちびりんちゃんにそっくりのキジ猫だった。

小太郎ちゃんは生粋の野良猫で、人馴れしないクロ母さんの愛情を一身に受けて育った。一方で、小太郎ちゃんは人間が大好き。事務所にも隙を狙っては入って来て、抱っこをせがんだ。抱っこするとぎゅうっと抱きついてきて、身体に巻きつくようにして離れようとしない。必然的に一日中、事務所の中で過ごすようになった。

「生粋の野良気質のクロ母さんが手塩にかけて、猫社会を教えたはずなのに、なぜか猫より人間が大好きなのです。今でも不思議です。そんな感じですから、どうしても外猫たちから嫌われてしまいます。猫社会に順応できないのです」

念願かなって家猫になる

ある日、小太郎ちゃんは、会社から5キロ下ったところにある社長の家の庭に現れた。5つくらいの山を越えなければ辿り着けないはずなのに、どうやって行ったのか分からなかった。翌日、奥さんが飼い猫のみいちゃんと一緒に連れて出勤してきて、事情を聞いたゆうみんさんは驚いた。

「やはりお家の子になりたいのだと思いました。社長のうちでは、みいちゃんの他に、会社で生まれた3匹の猫を飼っていました。私もずいぶん悩みましたが、小太郎はちびりんの甥ですし、外猫と馴染めず人間が大好き。それを思うと、小太郎は会社の外猫として生きるより、お家の子として暮らす方がいい。3匹目の保護猫として迎えることを決心したんです。2009年11月が家の子記念日です」

小太郎ちゃんは、初日からとてもリラックスしていて、叔母にあたるちびりんちゃんとは会社でも顔を合わせていたので、すぐに仲良くなった。安住の地を見つけて安心したようだった。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)