「新型コロナウイルス感染拡大防止のため、不要不急の外出は自粛してください」と言われるようになってからもう1年以上が経つが、私はずっと疑問に思っていることがある。不要不急とは一体どこからどこまでを指すのだろうか、ということだ。

文化庁長官の都倉俊一氏は「文化芸術活動は、断じて不要でもなければ不急でもありません」と声明中で述べた。【不要不急】という曖昧な言葉に対してモヤついた何かを胸に抱える人々はやはり他にもいたようで、この声明を支持するツイートのRT数は3.1万、いいね数は4.7万を超えた(5月23日現在)。

緊急事態宣言下の東京・上野で、5月15日に1軒のバーがオープンした。その名も「嗜好品天国」だ。ウィスキーやラム酒など、店長の愛する嗜好品の数々がメニューとして並ぶ。現在は酒類の提供を行っていないが、それでもオープンしてから今日に至るまで、開店すれば満席の状態が続いている。

ある意味で時代に逆行するとも言えるコンセプトバーを始めるにあたっての背景、そして「嗜好品」と「不要不急」について、店長の板橋愛花さんはこう語った。

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私は何年も精神状態が良くなかったんです。実家や会社でなかなかうまくいかなくて、長い間うつ状態でした。

でも思い切って会社をやめて、一人暮らしを始めて、失業手当をもらって暮らして、大好きなお酒やコーヒーをはじめとする嗜好品にまみれた生活を送っていたら、いつの間にか元気になっていて(笑)。

そろそろ働いてもいいかな?と考え始めてはいたけど、会社や組織で上の人に使われる働き方が自分にはあまり向いていないという自覚があって、働き方については悩んでいました。

そんな時に、バーの箱を押さえたから店長をやってみないか?と、もともと友達だったオーナーから誘いがかかったんです。まるで私が元気になったタイミングを見計らったかのように。

バーのコンセプトを決めていいよと言われて真っ先に思い浮かんだのは、うつ状態の私を救ってくれた嗜好品たちでした。友達と一緒に自分の好きなものを詰め込んだお店を作っていくのはすごく楽しくて、時間がどんどん過ぎていきます。

(新型コロナウイルスの影響は?)全く怖くなかったわけではないですけど、コロナ禍でも対面でおしゃべりをする需要ってあるなってこの1年ちょっとで感じていました。オーナーが前から経営しているイベントバーで1日店長をたまにさせてもらっていたんですが、SNSでも私の活動は見られるのに、それでもお金を払って乾杯をしに来てくれるお客さんがいたんですね。そんなお客さんたちと乾杯できる場が私も欲しかった。

嗜好品、不要不急でしょ(笑)。でも、私にとっては絶対に必要なものでした。今も必要だし、これからも必要です。不要不急なものであっても人を救うことってあるんです。「嗜好品天国」も、お客さんにとって必要な場になってくれるといいな。

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私がおすすめのウィスキーを聞くと、いくつか質問をされた後、ウィスキーではなく紅茶をすすめられた。店長が自分の好きなものをメニューに詰め込んでいるから返せる変化球だ。

せっかくなのでおすすめされた通り紅茶でも飲もうかと、手書きのグランドメニューをめくる。店長は私を横目に「実家で家族とうまくいってなかった時期も、紅茶を飲んでいる時は穏やかな時間が流れていたんです」とつぶやいた。

不要不急とは一体何を指す言葉なのだろうか。私は結局、結論を出すことが出来なかった。

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▽嗜好品天国

東京都文京区湯島3-43-3 クリスタルユシマ103
営業時間:17〜23時 (※緊急事態宣言中は15〜20時)
Twitter:@shikohintengoku

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◆ひがしみすず 自称日本一意識低い政治ライター。日本女子大学理学部卒業後、民間企業を経てフリーライターとして開業。政治・選挙・社会問題等の意識高そうな問題をゆるくやわらかく意識低く伝えることに全力を懸けている。Twitter@misuzu_higashi