珍しい灰虎柄の猫さんは、大阪府に住む6歳の顕真(けんしん)くん。みんなから「けんちゃん」と呼ばれる彼は、とてもいたずらっ子。特にコードをかじるのが大好き。お父さんやお母さんがどんな対策をしたって、噛み切っちゃう。理由は、そこにコードがあるから。

ネジも目の前にあったら、ナットをクルクルと器用に廻して外します。だから、キャットタワーを解体するなんて朝飯前。

襖は開けて通るものではなく、貫通させて通るもの。とにかく自分で自分の道を切り拓きたいタイプなのです。なんと子猫のころ、自分でケージから出ようとして、隙間に挟まったこともあるとか。

そんな性格の彼ですから、人見知りもしません。誰がやってきても、興味津々でご挨拶。いつもニコニコです。だから、どんないたずらをしてもお父さんは許してしまいます。

実は、お父さんがけんちゃんを大事にする理由は他にもあるんです。それは、けんちゃんのおかげで娘さんが生まれてきたと思っているから。

けんちゃんと出会う直前、お父さんとお母さんは不妊治療をしようか迷っていました。そんな時、生まれて間もないけんちゃんと出会ったのです。

けんちゃんは洗濯場で、野良猫の子供として生まれました。今から6年前の9月のことです。しかし、洗濯場ですから人間の生活空間のど真ん中。何度か人間と遭遇するうちに、母猫はどこかに行ってしまいました。残されたのは、けんちゃんと兄弟たちです。

初めは母猫が戻ってくるかもしれないと見守っていたのですが、2〜3日経っても帰ってくる気配がありません。その間、子猫たちはどんどん衰弱して亡くなってしまいます。動物を今まで飼ったことがないお父さんとお母さんは、オロオロするばかりで何も出来ません。ついに、けんちゃん1匹になってしまいました。

夫婦は、せめてこの子だけでも助けたいと、本格的な保護に乗り出します。まず動物病院に行き検査し、必要な物を揃えます。ミルクやペットシーツ、ケージを買いました。大変なのが、2〜3時間おきの授乳です。人間の都合に合わせてくれませんから、夫婦ともに寝不足に。特にお母さんは体調を崩すほど。

寝不足で調子が悪いのかとお母さんが病院に行くと、なんとおめでた!不妊治療を始めようかと迷っていた夫婦の自然妊娠は奇跡です。調べてみると着床したのは、この年の9月。つまりけんちゃんを保護したころです。運命を感じました。

昔から猫は子宝に縁のある動物だと言われています。あの有名な『源氏物語』でも『柏木』の章で、猫が縁となり主人公である光源氏の親友の息子・柏木と光源氏の正妻・女三宮の恋が始まります。そして、柏木が猫の夢を見ると女三宮が懐妊。

こんなことが現実でも起きたのです。お父さんもお母さんも大喜び。お母さんのお腹が大きくなるにつれ、けんちゃんもすくすく大きくなります。

娘さんが誕生した時には、けんちゃんも大喜び!「可愛い可愛い、ボクの妹」と可愛がります。娘さんもまたけんちゃんを「可愛い可愛い」とくっつきます。

お父さんとお母さんはけんちゃんの授乳期の大変さを経験していたので、娘さんの時は少し余裕をもって対応できたんですって。何事も慣れですね。けんちゃんと娘さん、一緒に大きくなっているようで猫の成長スピードは早いもの。それを目の当たりにすると、また愛おしさが倍増するのだそう。

今、お父さんがけんちゃんに望むことは「せっかく助かった命、亡くなった兄弟の分まで機嫌良く生きてほしい」。

けんちゃんはお父さんのそんな気持ちを知ってか知らずか、お気に入りのお父さんの書斎でのんびり過ごしています。けんちゃんが書斎を気に入ったもんですから、お父さんはパソコン仕事がここではできません。コードを齧られるから。

「仕方ないなぁ」

お父さんはデレデレ顔で、充電したノートパソコンを使い仕事をします。これならコードレスですから、けんちゃんにコード齧られることはありません。その手があったか!

けんちゃんは残念そうな顔で、仕事をするお父さんのとなりで寝転んでいます。その姿は、お父さんが望む「機嫌良く生きる」そのものでした。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)