猫は人間の言葉が話せません。だから、思いを伝えるには色んな動きで伝えます。喉をゴロゴロ鳴らすのもそうですし、頭をぶつけてくる「頭ごっちん」も愛情表現のひとつです。猫を飼っている方なら、経験したことはあるでしょう。

この「頭ごっちん」ができないかもしれないといわれた猫が神奈川県にいます。Yさんの家のイズちゃんです。多分1歳ぐらい。

イズちゃんの頭ごっちんができない理由は、頭部に負った火傷が原因。この火傷は、獣医師の見立てによると、恐らく人為的なものだろうと…。傷が癒えたとしても、もう毛が生えてくることはないと言われていました。

それが今ではふわふわの毛が生える可愛い三毛猫に。初めて出会ったころとは大違い。頭部の火傷はすっかり良くなりました。ですから、思う存分「頭ごっちん」ができます。

イズちゃんは大好きを伝えるために、Y家のお父さんとお母さんに毎日ごっちんごっちん。ごっちんしてもらったら、お父さんもお母さんも笑顔になってくれるから。そして言ってくれるんですよ。

「イズ、大好き」

こんな日が訪れるなんて、誰が想像したでしょうか。

あの日出会ったイズちゃんは、ボロボロで生死すら分からない状態。ある工場の門扉の側に倒れていました。そこを通りかかったのが、Y家のお父さんです。もう死んでいると思い手を合わそうとその猫に近づくと、なんと死骸だと思った猫がむっくり動き出したのです。

頭には大きなかさぶたができていて、目は体液が固まって開きません。毛並みも悪く、栄養状態が悪いと一目で分かるほど。足は工業用油がベッタリくっついています。そんなゾンビみたいな猫が、よたよたと歩み寄ってきました。

「生きている!?」

お父さんは合わそうとしていた手をその猫に差し伸べ、抱き上げました。そのまま自宅に直行し、まずはご飯を食べさせました。ご飯が食べられるなら治療をしよう。食べられないなら残念だけど…。ドライフードを猫に差し出しました。

すると余程お腹が空いていたのでしょう、ガツガツとご飯を食べてくれたのです。これなら大丈夫。猫が満腹になってから、動物病院に連れていきました。そこでの獣医師の見立ては先述の通り。加えて、失明も示唆されました。

毛が生えてこなくても構わない。お父さんはその猫を仮面ライダーゼロワンにあやかって「イズ」と名づけ、家の子にすることに決めました。お母さんも大賛成。もし障害が残るなら里親探しが難航するかもしれないからです。落ち着いて治療をするなら、ちゃんと「自分の家」がある方が良い。

イズちゃんの治療は時間薬と獣医師から伝えられいました。そこで、毎日栄養のあるご飯を食べさせ、ゆっくり休ませました。ちゅーるもどんどん食べなさい。

1カ月もするとかさぶたがポロッと取れ、綺麗な皮膚が見えました。この頃から、イズちゃんは恐る恐る「頭ごっちん」をするようになったんです。それはまるで、

「イズは好きだけど、お父さんは?」

と尋ねているかのよう。人間に傷つけられた可能性が高いイズちゃん。最初、お父さんに「大好き」のごっちんをするのは怖かったでしょう。だから、お父さんはイズちゃんに言うんです、「大好き」と。

この「頭ごっちん」を繰り返しているうちに、驚くことに獣医師が生えないと言っていた毛が生えてきたのです。お父さんを信じて「頭ごっちん」を続けたことで奇跡が起きました。目もちゃんと見えるように。

今日もイズちゃんは思いっきり「頭ごっちん」をお父さんとお母さんにします。ちょっと痛いぐらいの大好きを、お父さんとお母さんは受けているのです。

もしかすると神様が、イズちゃんに思う存分「頭ごっちん」をできるようにと毛を生やさせてくれたのかもしれませんね。そうなら良いな。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)