相続税の計算にあたっては財産の価額からマイナスの財産(負債・債務)の額を控除するが、このマイナスの財産について原則、相続開始の日現在において存在する債務の額を把握することになる。相続開始の日において、すでに生前に費消したものや、債務の確定しているものは債務控除の対象となるのだ。

例外としては、葬式費用だ。葬式は当然亡くなられてから執り行うが、その費用を債務控除と同様、相続税の申告の際、負担した者の財産の価額から控除できる。ついでに申し上げると「お香典」は非課税、「香典返し」は控除できない。ちなみに「墓所・霊廟」について相続税は非課税だ。しかし、相続が起きてから相続財産の金銭をもって墓石を買っても控除されることはない。相続開始の日には金銭としてあったのだから相続財産として申告することになる。だが、相続開始の前に被相続人が墓石を買っていればどうか。金銭はその分減少するし、墓石は非課税なので結果として相続税が減少する結果となる。

ここでひとつ考えてみていただきたいのは近ごろのサブスクリプションなどの支払金額についてだ。被相続人がなんらかの定額サービスを受けておられて、相続開始後も気づかずにある程度の期間、放置されていた場合にその支払い義務と相続税の申告における債務控除が認められるかどうかである。

「相続税」の計算については原則的には日割り計算により、相続開始の日以降に受けた役務の提供に対しての費用は債務控除できないだろう。しかしながら支払義務についてはどうだろうか。よくあるケースとして、クレジットカードや銀行口座の引き落としがストップになるまでは支払続けてしまう。相手側からすれば亡くなられたかどうか知ることができないのだから請求・決済は継続してしまう。支払がストップされて初めて知るところとなり、自動契約解除となってそれ以降、請求はこないだろう。引き落としになったものは時間の経過とともに役務の提供を受けたとみなされれば返金してくれないだろうが、たとえば、保険料などが引き落とされてしまった場合については後日返金してくれる。

「デジタル遺品」について詳しく書かれた書籍「スマホの中身も「遺品」です(著者:古田雄介氏)」を拝読したが、先述のサブスクの例にもあるように支払をストップする、契約を解除するといった処理をあわててやってしまった場合に、「なんとかペイ」といった決済サービスの残高であるとか、SNSやクラウド上のデータ(思い出の写真なんかも含まれる)が消失してしまうリスクがある。

契約上は、一身専属性になっているものがほとんどのようだが、実務的には窓口等に問い合わせれば柔軟に対応してくれるところも多いようだ。可能であれば解約になってしまう前に窓口に問い合わせることを検討されたほうがよい。本のタイトルにもなっているようにPCやスマホのなかに保存されているものも「デジタル遺品」であるが、パスワードの推定や保存場所の特定をするのがなかなか困難で、諦めてしまう遺族も多いと聞く。終活でエンディングノートを作成する際には「デジタル資産」についても配慮し、記載できる欄が不可欠な事項になってきている。

この本のなかで著者も触れておられるが、「沖で待つ」という小説(絲山秋子著、第134回芥川賞受賞)では同僚とのあいだで「デジタル遺品」の処分の「協約」をお互いに結ぶ。これは場合によっては下手をすると犯罪になってしまうので要注意だ。然るべき相手に「死後事務委任契約」として処分を依頼しておくべきである。通常は、家族が行うことが暗黙の了解になっているが、「おひとりさま」の場合やそうでなくても家族に見せたくないものについては、第三者に依頼しておくことを検討する余地があるかもしれない。

◆北御門 孝 税理士。平成7年阪神大震災の年に税理士試験に合格し、平成8年2月税理士登録、平成10年11月独立開業。経営革新等認定支援機関として中小企業の経営支援。遺言・相続・家族信託をテーマにセミナー講師を務める。