庭に遊びに来ていた妊婦猫

ニシちゃん(3歳11か月・メス)とサンシちゃん(3歳11か月・メス)は、愛知県に住む林さんが捕獲した野良猫が産んだ子猫だった。

2017年夏、林さんは、実家のお母さんから庭に来るある野良猫のことで相談を受けていた。その猫を初めて見た時は、子猫を連れていた。しかし、いつしか子猫を見かけなくなり、母猫だけがちょくちょく庭に来た。猫好きのお母さんは、その母猫のことを気にして見ていたのだが、日に日にお腹が大きくなってきたので心配になったのだという。 

実家には高齢の先住猫がいたので、実家では飼えないが、自営する工場でなら飼えるということだったので、林さんは母猫を保護することにした。

「子猫を生んだ母猫は警戒心が強くなるので、出産する前に保護しようと思いました。それからしばらくごはんを与えて母猫との関係を築き、ここに来ればご飯がもらえるということを覚えてもらいました」

初めて立ち会った猫の出産

少しずつ触らせてくれるようになった頃、大型の台風が来るという予報。

「もういつお産が始まってもおかしくないほどお腹も大きくなっていたため、地元の動物愛護センターから捕獲器をお借りし、捕獲作戦を実行しました。何とか台風が来る前に捕まってほしいと、少し温めて香り立つようにしたウェットフードを捕獲器にセットしました」

 少し様子を見ようと家の中に入ろうとしたその時「ガシャン」と捕獲器の扉が閉まる音がして、「あれ?ちゃんと設置できてなかったかしら?」と見に行くと、なんと母猫が捕獲器の中に。捕獲にかかった時間は1分弱だった。 林さんは、工場の空いている部屋で、母猫を捕獲機からケージに移した。すると、その夜お産が始まった。

「本当にギリギリの捕獲だったんだ、と手に汗を握りながら、人生初めて猫のお産に立ち会いました。母猫は3匹の子猫を産んだのですが、生まれた順にイッシ、ニシ、サンシと名付けました」

 母猫の名前はナナコにした。

可愛い猫との暮らし

林さんが物心ついたころから実家には何匹もの猫がいて、全部拾った猫だった。結婚後もいつか猫を飼いたいと思っていたし、夫も大の動物好き。ナナコちゃんのお腹が大きいと知った時から、生まれた子猫を引き取ろうと決めていた。しかし、当時、林さんはペット不可の賃貸アパート暮らしをしていたので、すぐには迎えることができず、しばらく工場で預かってもらった。仕事が終わると夫婦そろって夜な夜な工場へ行き、ナナちゃんと子猫を愛でた。子猫たちが生後10か月になった頃、ようやくペット可の借家に引っ越しが決まり、引き取ることにしたという。

「イッシを里子に出したのち、どんどん仲良くなる姉妹を引き離すのがかわいそうになり、結果、ナナコとニシ、サンシを我が家で引き取ることにしました。ナナコは元野良猫とは思えないほど甘えん坊でした」

 念願の猫を迎え、夫婦の会話はもっぱら猫のことになり、遠出はできなくなったが、猫たちのやることなすこと全てが可愛くて仕方なかった。

母猫との別れ

ナナコちゃんを迎えてから初めての発情期が始まり、夜鳴きや粗相を繰り返し、昼夜問わず落ち着きがなくなるようになった。目を離したすきに網戸を破いて脱走し、夜通し探して見つけたこともあった。授乳期が終わってから不妊手術をしたが、ナナコちゃんが鳴き疲れてぐったりする様子を見て、工場に戻し、中と外を自由に出入りできるようにした。

「良かれと思って保護しましたが、すべての猫が家の中だけの生活に順応できるわけではないと学ぶ機会になりました。そうした生活になってから1年ほど経ち、ナナコは工場へ戻ることなく姿を消してしまいました。保健所や動物愛護センター、関係各所に連絡して捜索しましたが、いまだ見つかりません。きっとどこかで幸せに暮らしていると信じています」

 ニシちゃんとサンシちゃんは、母猫がいなくなったことに始めは戸惑っていた。しかし、すぐに慣れ、2匹でのびのび暮らしているという。 サンシちゃんはわがままなお姫様気質。よくお喋りをして主張する。ニシちゃんはサンシちゃんとは全く性格が違い、控えめだが甘えん坊。サンシちゃんに隠れてこっそり甘えるという。

 こうした経験を踏まえ、現在、林さん夫妻はTNR活動をしている。

「外で暮らす猫たちは病気やケガ、事故などの危険と隣り合わせです。こうした不幸に見舞われる猫たちを減らしたいと思い、これまでにNPOの方にお手伝いいただき、2匹の猫をTNRし、1匹の子猫を飼い主さんのもとに送り出しました。SNSでもこうした活動を広めている方がいらっしゃいます」

 林さんは、多くの人にこうした取り組みを知ってもらえるよう、SNSなどで発信し続けようと思っている。

(まいどなニュース特約・渡辺 陽)