湯のまち・大分県別府市にある「桜湯」は、20種類の個性的な家族湯が楽しめる天然温泉。代表取締役・山口真由さん(40)の飼い猫の名前は、ずばり「館長」(メス、6歳)。おしりのあたりにあるハートマークがチャームポイントだ。その名のとおり、館内の巡回や、お客さんの出迎え、見送りなどのフロント業務が主な仕事。スタッフ全員でエサやりやトイレ掃除、体調管理などの世話をしている。館長は、猫が苦手だった人を猫好きにしてしまう魅力を持ち、犬派の山口さんにとっても特別な存在だ。山口さんに館長との出会いや接客ぶりなどを聞いた。

 館長は2015年に館内の中庭で生まれました。野良の母猫が産んだ5匹の中の1匹で、他の子たちは警戒心が強く、もらわれていったり行方がわからなくなったりしたのですが、館長だけはここがお気に入りのようで、小さいころから堂々と館内に出入りし、お客さんに愛嬌を振りまいていたんです。

 館長に就任した経緯は、2017年のあるとき、アルバイト女性の一人が「ずっと野良ではかわいそう。引き取って家で飼いたい」と申し出たことがきっかけでした。当時、館長は敷地内に居ついていたとはいえ、飼い猫ではなく野良の状態でしたから。

 それに対し、可愛がっていた他のスタッフらが反対。そこでみんなで話し合い、私が正式な飼い主になること、館長はここがお気に入りの場所なので、スタッフみんなで責任を持って世話することにして、館内で飼うことになったんです。「館長」という名前は「それ以外にぴったりの名はない」と、当時、お客さんがつけてくれました。

 実は私、根っからの犬派なんです。実家ではゴールデンレトリバーの「レオ」(オス、14歳で没)を飼っていました。小さいころからずっと犬が身近にいて、館長と出会うまで猫は馴染みがなく、触れ合う機会もありませんでした。

 館長をここで飼うと決めた後、すぐに動物病院へ連れていき、避妊手術をしました。傷口をなめたりしてはいけないからと、手術後、1週間ほど館内に泊まり込んで、お薬をあげたり包帯を変えたり、つきっきりで看護していたら、館長も私を母親のように慕ってきて…。ああ、猫ってこんなに愛しいんだって思ったのを覚えています。

 10月半ば、長年一緒に過ごした実家のレオは、その少し前から脚が悪くなって立てなくなり、老衰で虹の橋を渡りました。看取りと火葬を終えると、心にぽっかりと穴があいたようで、しばらく何もする気が起きませんでした。

 でも、ここに戻ってくると、館長はいつもと同じように、私の後ろをついてきて甘えてきます。今は、レオがいなくなった心の穴を館長が埋めてくれています。他の猫にはあまり興味ありませんが、館長だけは、私にとって特別な存在なんです。

 スタッフの中には、こんな女性もいます。彼女は小さいころ、猫に噛まれたことがあり、猫といえば機敏に獲物を狙うイメージがあって、ずっと怖かったんだそうです。でも、ここで働くようになって館長と出会ったら、おとなしいしのんびりしてるし、抱っこもできるということで、過去のトラウマを乗り越えることができ、逆に今では猫が大好きになってしまったそう(笑)。館長には、猫が苦手な人を猫好きに変えてしまう魅力があるのかもしれません。もちろん、猫が苦手というお客さんがやってこられたときは、近づけないよう配慮しています。

 最近は寒くなってきたからか、暖房のきいたフロントや陽のあたる窓辺にいることが多いです。お気に入りの常連さんが何人かいて、その方々がやってくると、お客さんより先に家族湯の前まで歩いていって、入口でちょこんと座っている、ということもあります(笑)。

 最近では「館長に会いたい」という方が増え、9月1日から館長のインスタも始めました。今フォロワーは260人くらいですが、ほぼ毎日、その日の館長の様子を更新しています。「温泉と猫、ダブルで癒された」と喜んで帰られる方が多く、アイドル的存在ですね。敷地内の巡回パトロールも日課なので、必ずしもフロントにいるわけではありませんが、これからもスタッフみんなで館長の世話をして支えながら、お客さんの癒しのお手伝いができればと思っています。

【店名】「桜湯」
【住所】大分県別府市堀田4-2

(まいどなニュース特約・西松 宏)