阪神・大阪梅田駅の時刻表を見ると、「尼崎行きの急行」を見つけました。尼崎といえば、大阪のとなり町。阪神本線は大阪梅田から神戸方面の元町駅をつなぐ32.1キロの路線ですが、この急行が走る大阪梅田〜尼崎間はわずか8.9キロ!所要時間は10分にも達しません。なぜ、このような短距離列車が設定されているのか、実際に乗車して調査してきました。

昼下がりの大阪梅田駅に行ってみると3番線に14時53分発尼崎行き急行が止まっていました。昼下がりということもあり、座席の7割程が埋まる感じでした。

大阪梅田駅を発車して3分後の14時56分に野田駅に到着。野田駅では向かい側の普通に乗り換える人も見かけました。ちなみに停車駅は、この1駅のみです。

15時02分には終着駅の尼崎駅6番線に到着。本当にあっという間でした。その先の神戸方面へは5番線に停車する普通電車を抜けて、4番線の近鉄奈良発阪神なんば線経由の神戸三宮行き快速急行に乗り換えます。筆者も含めて、多くの人が快速急行に乗り換えました。

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大阪梅田発尼崎行き急行が走る時間帯は、平日は日中時間帯、土休日は8時台〜20時台です。列車本数は1時間あたり3本です。

なぜこんな短距離な急行が存在するのでしょうか。きっかけは、2009年の阪神なんば線の誕生です。阪神なんば線は尼崎〜大阪難波を結んでおり、近鉄奈良線に乗り入れます。

同線の開通とともに、阪神本線の神戸三宮駅〜近鉄奈良線の近鉄奈良駅を「快速急行」が走りはじめました。列車本数は乗り入れ先の近鉄との兼ね合いから、日中時間帯は1時間あたり上下各3本になりました。

なお、阪神本線の大阪梅田〜西宮間の日中時間帯は、特急が6本、普通が6本、そして急行が6本走っていました。快速急行と同じような停車駅の種別は急行ですが、そのまま走ると尼崎〜西宮間は急行・快速急行が計各9本になってしまい、輸送過剰になるおそれがあります。その一方で、これまで走っていた急行を、快速急行が走る分廃止すると、野田・大阪梅田へのアクセスが不便になります。野田駅も大阪メトロの千日前線やJR東西線に乗り換え可能な重要な駅です。

そこで、快速急行が走る時間帯について、1時間あたり3本の急行を大阪梅田〜尼崎の間に短くし、バランスをとっています。運行間隔は大阪梅田〜西宮、大阪梅田〜尼崎それぞれ、各20分サイクルとなります。

これにより野田では急行が1時間あたり各6本、武庫川・今津・西宮の各駅は急行・快速急行が1時間あたり計各6本が停車します。大阪梅田〜尼崎間の急行は尼崎駅で快速急行に接続しており、西宮方面に向かう人の利便性も確保しています。

実は急行から生まれた快速急行

阪神本線の昼間時間帯における大阪梅田〜西宮間の優等列車は長らく特急と急行を基本にしてきました。現在、神戸三宮と近鉄奈良を結んでいる「快速急行」という種別は、1983年に梅田(現大阪梅田)〜西宮間の急行を延長する形で登場しました。

1987年の停車駅を見ると梅田〜西宮間はの急行の基本パターンと同じ停車駅、西宮〜三宮間はノンストップ。特急停車駅の芦屋・御影にも止まりませんでした。つまり快速急行は急行の役割と速達性を両立させた種別なのです。

現在の停車駅を見ても、快速急行が急行から生まれたことがよくわかります。このように見ると直通特急・特急が通過する主要駅を快速急行、急行がカバーしていることがわかります。特急が通過する急行停車駅、野田、武庫川、今津は支線や他社線が乗り入れる重要な駅です。

その後、快速急行の運行時間帯はコロコロ変わりましたが、基本的に快速急行が運行する時間帯は急行の設定はありませんでした。逆もしかり、急行が運行する時間帯は快速急行の設定はありませんでした。また、運行区間は長らく梅田〜三宮間で神戸高速線・山陽電鉄線には乗り入れませんでした。

そして、2009年に神戸三宮〜近鉄奈良間の優等列車はすべて「快速急行」になりました。

神戸〜奈良間の直通列車が「快速急行」になった理由は阪神・近鉄双方にとってなじみがあり、使い勝手がいい種別だからだと思われます。「快速急行」は近鉄奈良線において特別料金不要な最優等列車です。「特急」にすると、阪神は特別料金が不要ですが、近鉄は乗車にあたり特別料金が必要なため、ややこしくなります。

このように鉄道会社は華々しく新列車を設定する代わりに、不便が生じないようにフォローしていることがよくわかります。普通列車を通って違うホームに移動できる尼崎駅での乗り換え方法といい、短距離急行から阪神のさまざまな知恵が見えてきました。

(まいどなニュース特約・新田 浩之)