秋から冬にかけて島根県東部の宍道湖や中海で見かけるハクチョウ。渡り鳥の一種で、冬が終わると北方へ移動するが、近頃、夏でも宍道湖で泳いでいる姿を見る。渡り鳥のハクチョウがなぜ真夏に日本にいるのか。個体数が増加して、生態系や環境への影響はないのか。専門家や関係者に話を聞いた。

 専門家によると夏の時期に宍道湖で見かけるのは「コブハクチョウ」という外来種。もともとはヨーロッパやモンゴルなど大陸地方に分布するという。コブハクチョウはコハクチョウやオオハクチョウとは異なり、春が来ても北へ渡らず日本にとどまる。

 秋から冬にかけて宍道湖で見られるハクチョウは主にコハクチョウ。シベリアなど極北を繁殖地とする渡り鳥で、越冬のために秋ごろから日本に飛来し、冬が終わると再び北へ渡る。

外来種のコブハクチョウがなぜ日本に生息し、夏の間も姿を見せているのか

 コブハクチョウが初めて日本に来たのは1950年代で、観賞・飼育用として輸入されたという。その後、飼育されていた個体が逃げ出すなどして繁殖し、増えたとみられる。春から夏が繁殖期で、日本全国で個体数が増えていると考えられるという。

 宍道湖エリアの鳥類を中心に研究しているホシザキ野生生物研究所(島根県出雲市)によると、宍道湖で冬に確認されるコブハクチョウは10羽前後であるのに対し、夏から秋口は40羽前後になる。コハクチョウは秋から冬にかけて300〜600羽確認される。コブハクチョウは数としては多くはないが、1年を通して姿が確認され、冬よりも夏の方が多く生息しているという特徴がある。

 このまま数が増え続けると、生態系の変化や周辺の農家への被害など、問題は生じないのだろうか。

 島根県東部農林水産振興センターによると、コブハクチョウ単体での被害状況は把握していないが、スズメやカモ、ハクチョウといった野鳥による農作物被害は少なくない。収穫前の麦や稲を食べられたり荒らされたりしてしまう場合が多く、農業被害のほかにも、人や車が行き交う道路にハクチョウが侵入して通行止めになるといったトラブルも発生している。

ハクチョウが田畑の苗を食べてしまうといった農業被害が拡大する可能性も

 野鳥の専門家によると生態系への影響は当面の間、心配はないものの、田畑の苗を食べてしまうといった農業被害が拡大する可能性があるという。ハクチョウは草の根や柔らかい葉、水草を食べるため、希少な水草がなくなってしまうといった懸念もある。

 コハクチョウは稲刈り後に田んぼに落ちたコメなどを主に食べるが、コブハクチョウはまだ稲が植えてある季節に飛来しているため、苗を荒らすといった被害を受ける可能性もある。関東地方では実際に農業被害が報告されるなど、影響が出始めているという。

 また、人間から餌をもらうことが習慣となっているハクチョウは、餌を求めてかみつくといった人間を攻撃することがある。コブハクチョウに限らず、野生の動物にむやみに餌を与えないことは基本的なルールだ。

 ホシザキ野生生物研究所によると、島根県内での事例は確認していないが、人の与えた餌が野鳥の繁殖の原因になっている地域もあるとのこと。何気なく餌を与えるといった行為が在来種の生態系の変化や思わぬ被害につながってしまうかもしれないため、気を付けたい。

 野鳥の専門家は「外来種にも命がある。生きているものを人為的に移動させたり駆除したりすることはあまりやらないほうがいい」とした上で「外来種が増えすぎることで在来種がいなくなってしまうなど、状況によっては駆除する必要が生じることもある」と話した。宍道湖で姿を見ることが多くなったハクチョウの場合、外来種のコブハクチョウが多くなるといろいろ懸念されることがありそうだ。

 ハクチョウを見かけてもむやみに餌をやらないといった基本的な対応が、生き物の命や生態系を守る鍵となりそうだ。

(まいどなニュース/山陰中央新報社・宍道 香穂)