イニエスタや大迫勇也らスター選手を集めたヴィッセル神戸が、J2降格の危機に瀕(ひん)しています。日本代表経験者をそろえながらプレーがかみ合わず、J1残り7試合で18チーム中17位(勝ち点25)とJ2降格圏(16〜18位)に沈んでいます。実はヴィッセル神戸には12年前、残り7試合から無敗続きで上昇気流に乗り、土壇場でJ1残留を勝ち取った「奇跡の残留」と語り継がれるシーズンがあります。2010年、当時はスター軍団ではありませんでしたが、神戸は残り7試合で16位(勝ち点23)と低迷しながら、全員守備から数少ないチャンスに懸ける「弱者のサッカー」で4勝3分けし、一気に勝ち点15を積み上げて15位に滑り込みました。当時、神戸新聞ヴィッセル担当だった記者は、補欠に回った選手たちが上半身裸のボクシングごっこで場を盛り上げ、ツネ様(宮本恒靖・元日本代表主将)の私服を着るボケを披露したりして、レギュラーメンバーを試合に送り出す異様な一体感に圧倒されました。今のヴィッセルに一体感はあるのか、奇跡の残留への道筋はあるのか。12年前、体を張ったボケでチームを盛り上げた元神戸選手の近藤岳登(がくと)さん(41)に聞きました。

泣きながら語り合い、団結した

近藤さんは2007年にヴィッセル神戸に入団し、攻撃的なサイドバックとしてプレーしました。2010年は控えに甘んじる試合も多い中、明るい性格でチームの盛り上げ役を担いました。一方、2012年は神戸のJ2降格も経験。現在は現役を引退し、2019年にはピン芸人日本一決定戦「R―1ぐらんぷり」準決勝に進出するなどトーク力を生かしてラジオなどで活躍しています。

ーー奇跡の残留を果たした2010年、チームの雰囲気は?

「なかなか勝てなくて、今シーズンみたいに監督も途中で代わったけど、選手はみんな仲が良かった。練習では厳しく言い合うことがあっても、その後一緒にメシに行ったり、フロ(銭湯)に行ったり。だから選手ミーティングで『(シーズン途中でヘッドコーチから監督に昇格した)和田昌裕監督を男にしよう』とまとまった。ヘッドコーチだった和田さんは選手たちの兄貴分で、みんなから慕われていた」

ーー2010年は選手全員で行った食堂のミーティングが語り草となっています。

「神戸市出身のDF河本裕之が泣きながらチームへの思いを話していたのをよく覚えている。『そこまで強い気持ちだったのか』と思い、そこでみんなぐっと一致団結できた」

「兵庫県出身のタカさん(FW吉田孝行・現ヴィッセル神戸監督)やMF朴康造(パク・カンジョ)、FW小川慶治朗も地元への思いがあったし、どの選手も神戸というクラブ、街、サポーターを愛していた。現役日本代表みたいなすげえ選手はヨシト(大久保嘉人)くらいだったけど、みんなで守って守って、『ヨシト、タカさん頼むよ』ってボールを託して、とにかく必死で走っていた。試合に出られない選手も本気でチームを応援していた」

「笑かして盛り上げようぜ」とボクシング披露

ーー試合に出場機会が少なかった近藤さんは、レギュラーを外れたチームメートとボクシングを披露していました。

「ああ、あれね(笑)。アウェーで試合がある時は、ベンチ入りメンバーがチームバスに乗ってクラブハウスを出発する。試合に出られない選手はチームバスを見送るんだけど、『(レギュラー陣を)笑かして見送って、盛り上げようぜ』とFW都倉賢とかと上半身裸で練習グラウンドに出て、ボクシングごっこをやりましたね。くっそ寒い時期でね、選手が乗り込んだチームバスが信号待ちでなかなか動かないから、『バスが発進するまでやんないと』って震えながら頑張ったね。みんなバスから笑ってくれるんですよ。タカさんもキーパーグローブをはめて、やってた時あったな。別のアウェー戦の日は、都倉とサングラス姿で車に乗って、チームバスに横付けしたり、DF冨田大介はツネさん(宮本恒靖・元日本代表主将)の私服を(勝手に)着て見送るボケをやったり…。そんなことができるくらい仲が良かったし、めちゃくちゃ楽しかった。あんな盛り上がりがあったのは2010年だけ」

ーー当時取材する側としては、成績が低迷しているチームのノリが明るいことに、正直違和感もありました。

「仲が良いって言っても、プロスポーツ選手だから、傷をなめ合うわけじゃない。朴康造とブラジル人選手は殴り合わんばかりの勢いで練習中言い合いになったこともあったし、厳しさもあった。一方で『自分に出番がないのは、実力が足りないからだ』と控えは納得していたし、自分の場合、サイドバックのライバルだった石櫃洋祐とは『どっちが試合に出るか決めんのは監督だし、どっちが試合に出ても応援しよう』と話してた。だから、試合に出られなくても、『悔しいから(チームを盛り上げることは)やんない』とはならなかった」

ーー一方、J2に落ちた2012年は一体感に欠け、(ボールを保持する)ポゼッションサッカーを目指しましたが、うまくいきませんでした。

「2012年は日本代表経験のあるうまい選手たちが加入してきて、ポゼッションサッカーにこだわった選手と、『いや、こんな負けてて(ポゼッションサッカー)やれないでしょ』という選手たちに別れてしまった。お互いの強みを理解して、カバーし合うという関係にはなれなかったな。当時も選手ミーティングはやったはずだけど、何も印象に残ってない」

ーー近藤さんと親交のある元日本代表DF槙野智章は今季神戸に加入し、8月に主力選手に呼び掛け、ミーティングを開きました。チームはまとまるでしょうか?

「槙野は今季、ヴィッセル神戸に加入したところだけど、ああ見えてチームの雰囲気を察し、何をすべきか肌で感じる能力は高い選手。でも、神戸に来て1年目の槙野の言葉に、どれだけ周りが耳を傾けられるか。『(お祭り男の)槙野がまた言ってるよ』って思う選手が出てきてしまうと、難しい」

スター軍団率いる監督は大変

ーー今季4人目の監督、吉田孝行監督の手腕にかかるところも大きい。

「タカさんは大変だと思いますよ。海外で活躍してきたすごいキャリアの選手たちをまとめるのはめちゃくちゃやりにくいと思う。選手時代は自ら率先して走り、背中でチームを引っ張ってたけど、そういう現役時代のタカさんを知っている選手は今いないんじゃないかな。タカさんの性格、キャラクターを知ってて、タカさんの良さを選手に伝えてあげられるコーチがいたらいいけど」

ーー2010年のような一体感で残留できるでしょうか。

「いやー、あの時みたいな一体感は今からだと難しいのかな。ボクシングのまね事してもね(笑)。でも、今の選手個々の持っている能力は間違いない。日本代表とかイニエスタみたいなスーパーな選手って、ボールを預けると、何か起こしてくれるんです。当時、ヨシト(大久保嘉人)に『とにかく俺に(ボールを)当ててくれ』って言われて、『大丈夫かな』と半信半疑だったけど、ボールを渡してガンガン走ってたら、ヨシトがマークを1人、2人はがして、本当にいいパスが届くんです。だから武藤や大迫、イニエスタたちが正解を導き出せるよう、日本代表クラスじゃない選手たちは馬車馬のように走って、スーパーな選手を生かすことに徹したらいいと思う。一流選手って勝負強いんですよ」

(まいどなニュース・伊藤 大介)