知的障害者やミュージシャン、音楽療法家らが集まり、思いのままに好きな楽器を奏でるユニークな即興楽団が神戸にいる。2005年に結成された、総勢50人にも及ぶ「音遊びの会」だ。ルールや予定調和とは無縁の変幻自在なその音楽、そして「大家族バンド」「神戸の至宝」などとも呼ばれるグループのあり方は、今なお多くの人の目と耳を釘づけにする。

■理解しようとしてもできないグループの魅力

もともとは神戸大学の大学院で音楽療法を研究していた院生が、「療法」という枠を取っ払い、障害の有無に関わらず自由に音を鳴らして楽しめる場をつくろうと始めた期間限定の試み。だがプロジェクト終了後も多くのメンバーや家族が継続を希望したため、以来17年間、月2回のワークショップや全国各地での公演を重ねている。

驚きと笑いに満ちた唯一無二のパフォーマンス、そしてトロンボーンや鉄琴、ドラム、ハーモニカなどを伸び伸びと演奏するメンバーの姿に魅了された映像作家の野田亮さんは、2021年からワークショップや公演のステージ、メンバーと保護者のインタビューなどを撮影。ドキュメンタリー映画「音の行方」を完成させた。「音遊びの会には、理解しようとしても理解できない部分がたくさんあります。そして、それこそが大きな魅力だと感じます」と力を込め、「メンバーと一緒に遊びながら、楽しんで作りました」と振り返る。

「撮影は『待つ時間』がとにかく長かった」と野田さんは言う。

「野球のキャッチャーに喩えると、こちらはずっと構えているんだけど、ピッチャーが全然投げてこない感じ(笑)。かと思いきや、いきなり170km/hくらいの球を投げてきたり、マウンドから歩いてきてボールを手渡ししてきたり、はたまた、投げずに帰る子もいたり。彼ら、彼女らのやりたいこと、熱量のあることが起きるまでずっと待っている、そんな感覚でした」

そんな野田さんのカメラが捉えたのは、ハッと息をのむほど美しい瞬間の数々だ。引いた視点で全体の“状況”を撮るのではなく、個々のメンバーの表情や動きにフォーカスすることで、音遊びの会という磁場が持つユニークな魅力に光を当てていく、繊細でありながら力強い映像が印象に残る作品に仕上がっている。

■何にも縛られない「自由な表現」が伝えるもの

親族に知的障害者と身体障害者がいる野田さんには、ずっと疑問に思っていたことがあるという。

「義務教育が終わると、学校内の『特別支援学級』もなくなり、障害のある人たちの存在が、いわゆる健常者の日常からぷっつり消えてしまった。自分は身近に障害者がいる環境で育ってきたけど、『世の中』ってこうなっているのかとショックでしたし、よく考えたらこれは結構怖いことなんじゃないかと感じたんです」

だからこそ以前、撮影で滋賀県甲賀市にある障害者のアート&福祉施設「やまなみ工房」を訪れたときは、久しぶりに親族と再会したような感覚を覚えて「ホッとした」し、音遊びの会も「一緒にいると安心できて楽しい」のだという。

「特に音遊びの会に関しては、自分も得意な映像を生かして活動に参加したいという気持ちがとにかく強くて。だから、そもそも『音遊びの会とは』と紹介するような作品を目指したのではありません。こんなにも魅力的な人たちがいて、こんなにも自由な表現があるんだということを伝えたいと思って撮りました」

「映画を見ていると、きっと『この人たちはなんでこんなに楽しそうなんだろう』と不思議に感じるはず。じゃあ翻って自分はどうなのか、やりたいことを夢中になってやれているだろうかと、自身の生き方をあらためて見つめ直すきっかけにしてもらえれば嬉しいです」

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【「音の行方」上映情報】

・SHIBAURA HOUSE(東京)
10月2日13時、17時半から上映&トーク
ゲスト:いとうせいこう、細馬宏通ほか

・神戸映画資料館(兵庫)
10月8、9、10日に上映&トーク
ゲスト:野田亮、森本アリ、大谷燠ほか(日替わり)

・三田市総合文化センター 郷の音ホール(兵庫)
10月16日13時から、上映&トーク&ライブ
ゲスト:大友良英、野田亮ほか

このほか、大阪のシアターセブン、京都の出町座でも上映やトークイベントを予定している。

(まいどなニュース・黒川 裕生)