2022年9月14日、WHOのテドロス事務局長が、定例記者会見で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)について、「まだ到達はしていないが、終わりが見えてきた」と話しました。また米国のバイデン大統領は、9月14日に収録されたテレビインタビューで、「まだ問題は残っているが、パンデミックは終わった」との見解を示し、これに対して、WHO報道官や欧州医薬品庁から異論(「まだ終わっていない」)が出ていました。

こうした状況になると、「ん?パンデミックって、誰がどうやって決めるの?」「パンデミックの定義は?」「どうなったら、『終わり』になる?」といったご疑問が出てくるのではないかと思います。

こうした点について整理をするとともに、「新型コロナパンデミック」を巡る今後の見通しについて、考えてみたいと思います。

「パンデミック」はどうやって決められる?

公式な「パンデミック(開始・終結)宣言」は、国連の専門機関であるWHOが行います。

国際保健規則(IHR)に基づき、WHO事務局長が招集する「緊急委員会」(※メンバーは非公開)で、各国の専門家による議論が行われ、その助言を受けた事務局長が最終判断をして、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当するかどうかの決定が行われます。

その意味では、バイデン大統領をはじめ、各国に「パンデミック開始・終結宣言」をする権限はなく、今回の発言は、「『世界的な大流行ってもう終わったよね』と、私(米国?)は思う」と言っただけ、ということになります。医療関連会社の株価が下がるなど、実際の影響は大きいですが、しかし、「バイデン大統領が『終わり』と言ったから、パンデミックが終わりになるわけではない」ということです。

2009年の新型インフルエンザパンデミックの際には、わたくしも日本の担当官としてWHO緊急委員会の電話会議に立ち会わせていただきましたが、まだH1N1ウイルスの性質もはっきりせず、今後どれくらい世界的に感染が拡大するかも予断を許さず、緊迫した状況の中で議論が交わされたことを、よく覚えています。

「パンデミック」の定義

パンデミックの定義は、WHO が新型インフルエンザの警戒フェーズを示したガイダンス(WHO Pandemic Influenza Risk Management Interim Guidance)に示されています。

〇パンデミックとパンデミックの間の時期(Interpandemic phase):

新型インフルエンザによるパンデミックとパンデミックの間の段階

〇警戒期(Alert phase):

新しいウイルスのヒトへの感染が確認された段階

〇パンデミック期(Pandemic phase):

新しいウイルスのヒトへの感染が世界的に拡大した段階

〇移行期(Transition phase):

世界的なリスクが下がり、世界的な対応の段階的縮小や国ごとの対策の縮小等が起こり得る段階

上記基準に照らせば、新型コロナウイルス感染症についての「世界的なリスクが下がり、世界的な対応の段階的縮小や、国ごとの対策の縮小等が起こり得る段階」と判断されれば、上述した手続きを経て、WHOから「パンデミック終結宣言」が出されるということになります。

なお、上記「パンデミック」の定義は、2009年の新型インフルエンザパンデミックの経験を経て、2017年に変更がなされたもので、それ以前は、下記のような基準でした。

○フェーズ1:

動物の中で循環しているウイルスが、ヒトにおいて感染を引き起こしたとの報告がない段階

○フェーズ2:

家畜または野生の動物の間で循環している動物のウイルスが、ヒトに感染を引き起こしたことが知られ、潜在的なパンデミックの脅威であると考えられる段階

○フェーズ3:

動物のウイルスまたはヒト−動物の再集合ウイルスが、ヒトにおいて散発例を発生させるか小集団集積症例を発生させたが、市中レベルでのアウトブレイクを維持できるだけの十分なヒト−ヒト感染伝播を起こしていない段階

○フェーズ4:

”市中レベルでのアウトブレイク”を引き起こすことが可能な動物のウイルスのヒト−ヒト感染伝播、または、ヒト−動物の再集合体ウイルスのヒト−ヒト感染伝播が確認された段階

○フェーズ5:

1つのWHO地域(※WHOは、世界を6地域(アフリカ、アメリカ、南東アジア、ヨーロッパ、東地中海、西太平洋)に分けている)における少なくとも2つの国で、ウイルスのヒト−ヒト感染拡大がある段階

○フェーズ6(パンデミックフェーズ):

フェーズ5に定義された基準に加え、WHOの異なる地域において、少なくとも他の1つの国で市中レベルでのアウトブレイクがある段階

○パンデミックピーク後:

ピーク後の期間は、パンデミックの活動が減少していると思われることを表すが、さらに別の流行波が発生するかどうかは不確かであり、国々は第二波に備える必要がある段階

○パンデミック後:

疾患の流行が、通常見られる水準に戻る段階(例えば、新型インフルエンザであれば、通常の季節性インフルエンザと同等の水準)

2017年改訂前の基準は、「地理的な拡大状況」を基に、細かく分けられていて、基本的に、新型インフルエンザH5N1などの致死性の高いウイルスを想定していました。しかし、2009年の新型インフルエンザH1N1ウイルスは、致死性がそれほど高くはなく、感染が拡大していく状況と被害の程度が必ずしもリンクしていませんでした。こうしたこともあり、地理的な拡大をあまり厳格に捉えて、フェーズを細かく定めることは妥当ではない、といった議論があり、2017年に改訂が行われました。

なお、事後のWHO「検証委員会」では、「ウイルスの致死性・重症度をパンデミックの定義に含めることは困難だが、定義とは別に重症度を測定することが必要」といった意見も出されました。

現在の世界と日本の状況

新型コロナウイルスの出現当初から現在までの世界の新規感染者数と死者数の推移を見ると、やはり当初は、感染した人(免疫を持つ人)が少ない、ワクチンや治療薬がない、医療も社会も対処方法が分からない、といったことから、感染者数に比して、亡くなる方が非常に多く出てしまいました。

そして、2021年12月から2022年2月のオミクロン株流行時には、変異したオミクロン株の重症化率が相対的に下がったこと、すでに自然感染した人が多くいたこと、ワクチン接種が進んだこと等から、感染者数の増加の規模ほどには、亡くなる方は多くはなかったことが分かります。(もちろん、お一人が亡くなった場合でも、甚大な被害であることは当然なのですが、ここでは、あくまでも統計的な比較の話をしています。)

そして現在は、新規感染者数・死者数ともに、低下傾向にあります。

9月14日のテドロスWHO事務局長の「パンデミックの終わりが見えてきた」という発言は、世界で前週に報告された死者数が、流行初期の2020年3月以来の低水準になったことを、ひとつの根拠にしています。WHOによると、9月5日から11日までの世界全体の死者数は、前の週より22%減少して1万935人、新規感染者数は28%減少して313万人余りとなっています。

一方、世界の推移と比べてみると、日本では、今夏の第7波が、新規感染者数・死者数ともに、これまでで最大規模の流行となりました。しかしながらこれは、以前の記事(まいどなニュース「新型コロナ、日本の新規感染者「世界最多」をどう考えるか データから見る第7波」2022年8月14日公開)でも分析したとおり、国民の行動や日本のコロナ対策の問題といったことではなく、これまで感染した人が(相対的に)少なく、免疫を持つ方が少ない中で、感染力の強いBA.4、BA.5が流行したこと、そして、東アジア・オセアニア地域においては、流行のピークが他地域よりも遅れてやってきた、ということが言えると思います。

ウイルスが「いなくなった」わけではない

ここで留意すべきは、パンデミック終結宣言は、「世界的大流行が終わった」というだけで、ウイルスが完全にいなくなった・根絶できた、ということではない、ということです。

実はウイルスを「根絶」できるケースはほとんどなく、これまで人類が根絶したのは、天然痘だけ(1980年WHO天然痘根絶宣言)という状況です。

2009年4月に、メキシコやアメリカから発生した新型インフルエンザウイルスH1N1については、WHOは同年6月11日にパンデミックを宣言し、翌年8月10日にパンデミック終結宣言(declaration of the end of the pandemic)を出しました。これは、ウイルスを根絶した(go away)わけではないが、流行状況が通常の季節風インフルエンザと同じようになり、パンデミックは終わった(over)という解説がなされました。新型インフルエンザH1N1は、現在は通常の季節性インフルエンザと同じものとして、毎年のワクチン接種の型の一つになっています。

今後の見通し

では、新型コロナウイルスの場合はどうでしょうか。

WHOが本年3月に示した「新型コロナウイルスの進化と人類の免疫に関する、今後12か月の見通し」として、3つのシナリオが提示されています。ワクチンと自然感染による免疫の持続期間や新型コロナウイルスの変異等の経緯、他の呼吸器系のウイルスに関する知見などに基づき考えると、現時点で最も可能性のあるとされる「基本シナリオ」は、以下のようになっています。

【今後予想される基本シナリオ】

「ウイルスは変異を続けていくが、重症化や死亡に対する持続的かつ十分な免疫の獲得によって、重症度は時間の経過とともに大きく低下していく。将来的に『感染の発生』と『重篤な疾病』とはつながらなくなり、次第に“深刻ではない流行”となっていく。

もし免疫の減少が大きければ、感染しやすい人の割合が増加することで、周期的な『感染の急増』が起こることがあり得る。その場合は、少なくとも、優先度の高い人々への定期的なワクチン接種が必要となる場合や、温帯地域における季節性の感染のピークが繰り返されることがあり得る。」(WHO発表より筆者翻訳)

現在までの状況を見ると、基本的には、こうした方向になっていくと思います。

ただもちろん、重症度が高まるようなウイルスの変異が起こるといった可能性もあり、WHOも、ウイルス感染、疾病の重症度、個人や人口レベルでの免疫への影響などについて、急激な絶え間ない変化が起こることを想定して、対処できる柔軟性を持つことが必要だ、としています。

WHOのテドロス事務局長は、「パンデミックの終わりが見えてきた」と言うとともに、「ゴールが見えてきたマラソンランナーが、立ち止まらず、残るエネルギーを使ってより力強く走る」ように、引き続き、ワクチン接種の推進、必要な物資や医療従事者の確保、検査・サーベイランス体制の整備、といった対策を講じるよう求めています。

◇ ◇

新型コロナウイルス感染症については、今後また新たな「波」が来る可能性もあると思いますが、そう遠くない時期に、パンデミック終結宣言が出されることになるだろうと思います。

わたくしは、新型コロナのパンデミック当初からずっと、下記のように繰り返し申し上げてきました。

・新興感染症の感染の波は、繰り返し来る。パンデミック発生から収束までには、一定の時間がかかる。

・新型コロナウイルス感染症は、地理的にも人数的にも感染が世界に拡大し、不顕性感染がかなり多いこと等にかんがみれば、ウイルスの「根絶」は難しく、「ゼロ」にはならない。

・ワクチンや治療薬が開発・普及していくこと、ヒトが免疫を獲得すること等によって、感染状況が落ち着くことにより、パンデミック終結宣言になる。

・ウイルスが、未知の「新型」ではなくなっていき、通常のウイルスと同じ扱い(具体的な扱われ方は、ウイルスの毒性等によって異なる)になる。

歴史は繰り返します。

さればこそ、私たちは、今回の経験を踏まえ、現在の新型コロナに対しても、次に来るであろう新興感染症に対しても、「過度におそれず、覚悟と諦めを持って、最悪の事態に備えつつ、気持ちは前向きに」進んでいくしかないのだと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。