保護猫活動は行政からの依頼であったとしても、基本的に無償です。地域猫の去勢・避妊手術の費用を全額、もしくは半額補助してもらえることもありますが、保護した猫の生活費までは出ることはありませんでした。各地で保護猫活動をするボランティアたちは疲弊しています。

そんな中、東京都では2020年より動物愛護も盛り込んだ「地域における相談支援体制整備事業」を開始。野良猫の保護のみならず、今まで猫と暮らしていたものの健康上の理由等で飼育が困難になった場合、相談や支援が受けられる体制になりました。

3年間で最大3000万円の補助

ただしこの補助事業は、期間限定です。3年間で最大3000万円、各市区町村に補助されます。保護猫を譲渡するまでの期間、かかった費用の10分の10を東京都が負担。3年の間に、各市区町村で住民ニーズを見極め、その後は各自予算を確保する形になります。つまり、都のスタートアップ伴走事業です。

東京都には62の市区町村がありますが、現時点でこの補助を使っているのは千代田区と多摩市です。その中でも多摩市では、「飼養継続困難動物保護調達事業及び飼い主不明猫保護譲渡支援事業」として2022年度の予算計上されました。

支援金は、多摩市で保護猫活動を行うNPO法人キャットセイビアの代表・伊沢浩美さんの悲願。保護猫活動はボランティア、つまり無償が当たり前だと思われていることに長年疑問を抱いていたのです。それが遂に行政から認められる事業になりました。

ブリーダー業の傍ら保護猫活動、NPO設立へ

元々、伊沢浩美さんは普通の会社員をしていましたが、猫カフェの存在を知り2008年に起業。当時はまだ珍しかった猫カフェ「たまねこ」を開業し、ラグドール専門のブリーディングも始めます。ペットホテルも経営していたため、保護猫ボランティアからの一時預かりもしていたのだそう。

当初、保護猫活動とはつかず離れずでいたにも関わらず、2009年5月に事件が起きます。それは、子猫の遺棄。店の前に3匹捨てられ、また3匹、今度は4匹と続き、監視カメラをつけたり警察とやりとりをしたりと大わらわ。目の前で懸命に生きる命を見捨てるわけにはいかず、里親探しも行いました。

今度は猫の捕獲依頼も入るように。「うちの庭に猫が入る」「猫がゴミを荒らす」等々、気付けば保護猫活動に時間の多くを割くようになっていました。助けてほしくても保護猫に関する法律はなく、行政もあてになりません。この状況に伊沢さんは疲れ果て、ひとつの決断を下します。

「NPOを立ち上げて、ロビー活動をしよう!」

思い立ったら行動が早い伊沢さん。猫カフェと保護猫の経営を分け、国会議員や市議会議員に連絡を取るように。

議員が動かないなら、自分が動く!

ロビー活動を始めるものの、遅々として進まない法整備に業を煮やした伊沢さんは、今度は自身が議員になろうと思い立ちます。2017年には「地方議員ゼロの会」から都議会選挙に、2019年には「AI党」から多摩市議会選に出馬。結果は惜しくも落選でしたが、この伊沢さんの思いに耳を傾けたのが、多摩市議の藤條たかゆき市議です。

伊沢さんと出会った当時を振り返り、藤條市議はこう言います。

「以前、一度挨拶させてもらっていたのですが、この時の印象が大きいです。“やってくれないなら、自分が議員をやるよ”はインパクトが強かったですね」

藤條市議は昔から実家で猫と暮らしていて、猫がいるのは当たり前の生活だったのだそう。つらい時も楽しい時も寄り添ってくれる猫と過ごし、不幸な猫を減らしたいと考えていました。伊沢さんの話を聞いて、藤條市議も思いを強くしたといいます。

その後、藤條市議と伊沢さんは協力し合い、保護猫の費用がどれだけかかるかデータ収集を行います。また保護猫にまつわる様々な問題、多頭飼育崩壊や飼育困難などもピックアップ。多摩市議会に提出します。

遂に2022年度の予算が計上されました。保護猫の去勢・避妊手術費用から、通院のタクシー代、もちろんご飯や消耗品代まで、1匹あたり1日400円を上限に支援。この支援を受けるには事前登録が必要で、多摩市では伊沢さんが代表を勤めるNPO法人キャットセイビアと、もう1団体が登録されています。

保護猫問題は福祉とセットで

多摩市の「飼養継続困難動物保護調達事業及び飼い主不明猫保護譲渡支援事業」は、2つの大きなテーマがあります。1つは、多くの人がイメージする保護猫活動の「飼い主不明猫保護譲渡支援事業」。飼い主が分からない野良猫を新しい家族に譲渡するためのものです。野良猫を地域に戻すTNRは対象になりません。

もう1つが、「飼養継続困難動物保護調達事業」。具体的には猫の家族が、飼育を継続して行えるよう相談を受けたり指導をしたりする事業です。東京都の動物愛護相談センターだけでなく福祉機関とも連携し、猫と家族を見守ります。

今後は野良猫への無茶な餌やりに指導ができる、多摩市認定の「猫の飼い方普及員」も配置していく予定です。猫は繁殖力が高く、蛇口を締めないと問題は解決しないからです。

また多頭飼育崩壊や飼育放棄の問題は、福祉の問題と密接な関わりを持っています。福祉の力が必要な人間の問題として取り組むことで、保護猫問題の解決を目指します。

これからの課題

多摩市は高齢化が著しく、見守り必須な方が少なくありません。またその見守りが必要な方々が、猫など動物と暮らしていることも多いのです。福祉と動物愛護を一緒に考えることで、より良い社会が目指せるのではないでしょうか。

藤條市議が考える今後の課題を聞きました。

「犬は狂犬病予防接種で自治体が実態を把握できていますが、猫はノータッチです。まずは自治体が実態を知ることから始めていきたいです」

伊沢さんはこう言います。

「私がいなくなってもNPO法人を継続できるよう、次世代の育成に力を入れたいです。長い目で見ていかないと、猫のためにも人のためにもなりません」

保護猫活動への行政からの支援は、「前例」がないと敬遠されがちです。しかし、これからは多摩市が「前例」となり、全国の保護猫活動を牽引していくでしょう。人と動物が共存する社会へ、第一歩が踏み出されました。

(まいどなニュース特約・ふじかわ 陽子)