知らない企業からの突然の電話…思わず、セールス電話ではないかと身構えたり、つっけんどんに切ってしまうことはないでしょうか? 実際、そんな状況も多くありますが、切ってはいけない電話として覚えておきたいのが「電話リレーサービス」です。

しかし、認知度が低く、利用者が困った状況におかれることも。ろう者であり、手話表現者・手話エンターテイナーとして様々なメディアで活躍中の那須映里さん(@Nsanakan78)もそんなひとりで、X(旧Twitter)で投稿したエピソードが話題に。那須さんと、”きこえない人ときこえる人を電話でつなぐ”「電話リレーサービス」について調べました。

ある日友人と飲みに行くことになり、電話でしか予約できない居酒屋へ「電話リレーサービス」を利用した那須さん。すると、「電話リレーサービス?これは本人からのお電話じゃないので予約は受け付けられません」と切られてしまったのです。

諦めずもう一度かけ、「先程お電話しました。さっき予約できませんと言われましたが、私はろう者でこれは電話リレーサービスを使って手話通訳者がその内容を話していますが私は予約者本人です」と、先に通訳オペレータに説明してもらった後、無事に予約を取ることができたとのこと。「電話リレーサービス」の認知度の低さを痛感した出来事だったそうです。 

電話リレーサービスとは?

「電話リレーサービス」とは、聴覚や発話に困難のある方々(以下、きこえない人)と、きこえる人(聴覚障害者等以外の人)との会話を、通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時に双方向につなぐことができるサービスです。通訳オペレータを介しながら、やりとりができます。

しかし、「私も美容院の電話で切られました。2回目に先に用件を話したら、常連だと気づいてもらえました。世間に理解と普及が必要ですね」「自分も結構経験あります」といった利用者の声や、「もっと広まって欲しいし、利用者の方がより便利になる世の中になって欲しいと思います」と応援の声も。また、電話リレーサービスという名称に対して「セールス電話の印象を与えてしまうかも…」といった意見もSNS上で挙がりました。

那須さんにどのように活用しているかなどをお伺いしました。

もっと利用していきたいけれども…

――那須さんと同じような経験をしたという人も多かったですね。

先にお名前を言う形のほうが自然だという意見や、セールス電話との区別のために予約の電話であることをまず伝えるなど、私も今回の反響を見て勉強になりました。やはり、先に名前→用件のテーマを言う→電話リレーサービスです→用件の話を始める、の流れが自然なのかなと少し感じました。

普通に聴者が電話しているように、「電話リレーサービス」の説明をせず対話を始めたほうが自然なのでは?という意見もありましたが、どうしても、手話から言葉にするまでタイムラグが起こる通話が多いので、「電話リレーサービスで電話をかけていること」の説明はあったほうが良いのかなと思っています。

――私自身、Xで話題となりこのサービスを初めて知りました。サービスが浸透してきている印象は?

結構なじみのある制度になっていると感じています。ただ、聴覚障害者やろう者にとって電話リレーサービスの存在を知っていても、利用料金が高くかかってしまうことを考慮して契約していない方が多いです。

――那須さんはどのくらいの頻度で利用を?

以前は2カ月に1〜2回ほどの利用だったのですが、去年からは月に3〜5回ほど演劇のためにレンタルスペースに電話したり、お仕事の問い合わせなどで電話をすることが増えました。

――利用料金が高い、と。

電話リレーサービスの料金は、月額料ありとなしで若干変わってくるのですが、それにプラスして通話料金が従量制で加算されます。固定電話宛ではなく、携帯宛だとさらに高くなります。

私の通話料金明細を見たら、3月16日に携帯宛に35分ほど電話したら、1050円かかっていました。そのため、3月はそれ以降の電話を控えるようにしました。電話したい気持ちはあるのですが、つい料金のことを考えてしまい…。

――オペレータを介す分、少し時間も要しそうです。

電話をかけるときに多いのが、「電話リレーサービス?そんなのあるんですか?ちょっと本人確認できないかもです。上司と相談したいです。お待ちください」と音楽が流れて待たされるんです。電話リレーサービスの認知されてないゆえに、待たされる。待たされる間も通話料金はもちろん加算されていきます。 

――なるほど。誰しも通信費はおさえたいところです。

電話したいと思っていても経済的にも余裕がないため、電話リレーサービスを契約しない聴覚障害者も少なからずいると感じています。今回の件をきっかけに料金体制がマイノリティに負担のかかる方法になっていることを見直していただけると幸いです。そうすると多くの聴覚障害者にとって、インフラとしての電話リレーサービスが使いやすくなるかと。

使用料金をかけ放題などにする、料金体制を見直す、もっと社会に認知されてほしい…など要望はあります。今後もサービスを週に1回ペースで使うと思いますし、とにかくいろんな方々に知ってもらい、スムーズに電話対応してもらえるようになるだけでも使いやすくなると思います。

「電話リレーサービス」について

この「電話リレーサービス」は、「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」に基づき、公共インフラとして制度化。総務大臣から提供機関として指定された「日本財団電話リレーサービス」が、2021年7月よりサービスを提供しています。

サービス開始から2年が経ち、令和3年6月〜令和4年3月までに9127名が、令和5年8月末現在では13520名が登録。登録者数の増加に伴い、利用件数も増加しています。

また、那須さんからの回答や利用者の方々の投稿を元に、日本財団電話リレーサービスに「オペレータの対応について」「利用料金について」「現在の利用者数や利用用途」「今後の広報展開」などをお聞きし執筆しましたが、先方は取材でお話しされた言葉が記事化されることは望まれませんでした。

ただ、実際の現場の声や具体的な利用例がもっと広まれば、利用者の方々にとってより使いやすいサービスになっていくと同時に、社会全体にサービスが認知されていくのではないかと感じました。

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急な連絡や確認が必要な場合、電話はとても有用です。この「電話リレーサービス」の仕組みや概要を、社会全体で認知し理解していくことがまずは最優先。その上で、利用者の方々が利用時や通話料金の面で不便を感じることなく、用件をスムーズに伝えられるようになれば良いなと思いました。

この公共インフラとしての「電話リレーサービス」は、法律に基づき支援機関が電話提供事業者から負担金を徴収し、提供機関に交付金を交付する「電話リレーサービス制度」により成立しています。

多くの電話提供事業者は、「電話リレーサービス料」として電話利用者に1番号につき毎月1円の負担をお願いしています(2023年度は2023年4月〜2024年1月)。携帯電話などの利用明細で見たことがある方も多いのではないでしょうか。電話を使うすべての人がこのサービスの運用に関わっていると考えることもできます。このサービスを知ることで、聴覚障害を持っている方々にとってバリアフリーな環境で聴者と同じ便利さを共有できる社会になれば良いですね。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)