ロシアによるウクライナ侵攻でプーチン政権の苦戦が顕著になる一方、インド太平洋地域では台湾有事を巡って当事国間で緊張が続いている。台湾国防部は5月30日、中国軍の戦闘機や偵察機、早期警戒機など延べ30機が台湾南西部の防空識別圏に進入したと発表した。1日に進入した中国軍機の数としては1月23日の39機に次ぐ多さとなった。

また、台湾の蔡英文総統はその翌日、訪台している米国の上院議員団と会談し、安全保障での米台間の協力を強化していく意思を表明したが、東シナ海を統括する中国軍東部戦区は31日、台湾周辺の海域と空域で軍事パトロールを実施したと明らかにした。その背後に、蔡英文総統と上院議員団の結束をけん制する狙いがあったことは間違いない。

こういった中国による軍事的威嚇が続く中、台湾はこれを現実的問題と受け止め始めている、それは昨今の台湾政府の行動から分かる。たとえば、台湾政府は今年なり中国軍による軍事侵攻に備え、有事の際に市民自身が身を守るための民間防衛に関するハンドブックを初めて発表した。そこにはスマートフォンのアプリを使った防空壕の探し方、水や食料の補給方法などが詳細に記述されている。また、台湾政府は市民の軍事訓練義務の期間を現行の4カ月からさらに延長する可能性を示した。台湾では2014年に徴兵制が廃止となり、今日は志願制となっているが、兵役を志願しない男性も4カ月の軍事訓練を受ける必要がある。延長期間について1年という数字もあがっているが、多くの市民はこれに肯定的な意見を示している。

台湾が有事を現実的問題として受け止め始めている中、我々日本人はそれをどう考えているだろうか。残念ながら、多くの日本人は依然として対岸の火事と思っている。日本でも台湾と100キロほどしか離れていない与那国島の漁民などは、周辺海域で台湾軍が軍事演習をする姿を目撃しているので、台湾有事に対して懸念を強めている。しかし、日本本土、沖縄本島でもよそ事のようなイメージが無意識のうちに先行しており、退避対策などが大きな議論になることはない。

最近、台湾有事で米軍が関与するのかという問いに対し、バイデン大統領はイエスと答えた。もし、バイデン大統領の答えたようになれば、台湾有事の際、沖縄本島から米軍が駆け付けることになるのは想像に難くない。よって、中国軍は必然的に沖縄本島を標的にすることになり、それは自然に日本領土への軍事行動になる。

また、台湾有事なれば、台湾に住む邦人2万人だけでなく、台湾人や外国人も海を渡って避難することになるが、真っ先に避難先となるのは与那国島だ。しかし、そうなれば中国軍が台湾と与那国島と間の海域を封鎖する可能性があり、また、仮に避難してきたとしてもその規模は何十、何百万人になる可能性があり、人口2000人あまりの与那国島のマンパワーでは対応できない。

日本人は台湾有事を日本有事と受け止める必要があり、今のうちから政府と地方自治体、民間や市民が一体となってこの問題への対処を強化する必要がある。重要なのは台湾有事が起きるかどうかだけでなく、事前にどう対策をとるかだ。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。