トランプ米大統領が今回、中国による知的財産権の侵害をやり玉にあげたのは、情報技術(IT)など先端分野で中国に競争力を奪われかねないとの懸念があるためだ。

 「中国の産業政策は米国からの知的財産の取得を主な目的にしており、大部分の米国人が『盗まれている』と感じている」。米政府高官は12日の電話記者会見でこう不満をにじませ、調査の必要性を強調した。

 中国では米国製ソフトウエアや映画、ブランド品などの「海賊版」が横行し、中国に進出した外国企業に技術移転を強要する事例も後を絶たない。今年6月に施行された「インターネット安全法」は中国で収集した重要情報の国内保管を義務付けており、米アップルなどはデータセンターの中国設置を迫られた。「企業の個人情報が中国当局に筒抜けになる」と懸念する声も根強い。

 こうした状況を放置すれば米企業の収益を直撃するだけでなく、ITや半導体、医薬品など米国の得意分野で中国勢の猛追を許す恐れがあり、産業界を中心に是正を求める声が上がっていた。トランプ氏は中国製の鉄鋼・アルミ製品などに対する輸入規制を主張してきたが、米国内の慎重論は根強く、実現は宙に浮いたまま。一方で知財保護は「議会や産業界の支持を得やすい」(米政府高官)ため、今回の調査指示は北朝鮮問題で中国政府を揺さぶりつつ、国内の不満解消も期待できるというわけだ。

 一方、問題の早期解決は難しいのが実情だ。中国は共産党による一党独裁体制の安定を図るため、当局による情報管理の強化を進めており、米国の要求との隔たりが大きい。

 また知財を巡る問題は国際的な通商ルールを定めたWTOを通じて解決を図らねばならないが、トランプ氏は米通商法301条という「強硬策」を選んだ。中国は農産物や自動車、航空機など米国企業にとっても重要な市場であり、トランプ政権が同法に基づく制裁に踏み切れば中国も対抗措置を講じる公算が大きく、米国は痛手を覚悟する必要がある。

 中国商務省の高峰報道官が3日の記者会見で「中国政府は一貫して知財保護を重視してきた」と主張し、さらに「WTO加盟国による貿易措置は、すべてWTOルールを順守する必要がある」と米国の動きにクギを刺した。

 トランプ氏も今回、指示を「調査」にとどめることで、制裁に踏み切るかどうかに含みを持たせた格好だ。米政府高官も「調査結果を得るまで1年近くかかる可能性もある」と述べるなど中国の出方を見極めつつ、全面対決は回避したいとの思いがにじむ。