安倍晋三首相は2012年の第2次内閣発足以降、「女性活躍」「1億総活躍」と独特のキャッチフレーズを閣僚名に採用してきた。3日の内閣改造でも茂木敏充経済再生担当相に「人づくり革命担当相」を兼務させた。閣僚名の英語表記を探ってみると、情緒的な日本語名とのギャップが浮かび上がる。【佐藤丈一】

 ◇識者「アピール優先」

 政府は対外発信を目的に、ホームページに閣僚名の英語表記を掲載している。人づくり革命担当相は「Minister for Human Resources Development」。直訳すれば「人材開発担当相」だ。1億総活躍は「Promoting Dynamic Engagement of All Citizens(全国民の精力的な参画の推進)」となる。

 両者とも日本語ではインパクトの強い「革命」「1億」に当たる英単語は含まれていない。首相官邸の国際広報室は「こちらで各府省の英訳を取りまとめた。府省ごとに大臣と表現ぶりを検討している」と語る。

 コラムニストの小田嶋隆さんは、この英語表記に注目してきた。「現政権の言葉遣いは意味より国民へのアピール優先だ。日本語のあやふやな言葉は英訳が難しく、海外に説明する時に変な英訳を付けられないからだろう」とみる。

 確かに革命を閣僚名に付ける違和感は英語では際立つ。上智大の前嶋和弘教授(米国現代政治)は「米国は独立戦争を『独立革命』とも呼び、血を流して政権を代える意味がある。官職名に使った例は聞いたことがない」と首をひねる。

           ◇

 首相は改造後の記者会見で人づくり革命の意味を「人生100年時代の経済社会のあり方を大胆に構想」するものだと説明。茂木氏も教育無償化や企業の社員採用の多様化など五つのテーマを軸に、構想会議で議論する意向を示した。

 人づくり革命もこれまで同様、経済成長優先のアベノミクスを補完するものだ。ただ、教育無償化は首相が憲法改正で例示したテーマでもある。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「名前と内容にズレがある。人材開発に主眼を置くなら、優先すべきは無償化よりも大学教育の質の向上ではないか」と指摘する。

 アベノミクスの課題は成長率の引き上げとされ、茂木氏も「そのために生産性向上に注力する」と語った。人づくり革命もその一環だ。一方、熊野氏の分析では近年、生産性は回復したが賃金が増えていない。「団塊の世代」が全て75歳以上となる「2025年問題」も迫る。「中長期の社会保障を含めて豊かな中間層作りが急務だ。目玉が人づくり革命では、政策の基軸がみえてこない」

 池田内閣の「所得倍増」など時々の政権の言葉は、国民の心をつかんで社会の変化を生み出してきた。小田嶋さんは人づくり革命について「普通は発案段階で『さすがに変だ』と突っ込みが入るはず。こんな奇妙な言葉が出てくるところに、政権の風通しの悪さや上意下達のガバナンスのゆがみがうかがえる」と指摘した。