歌手の由紀さおりさん(74)が初主演した映画「ブルーヘブンを君に」が6月11日から全国公開される。岐阜県西濃地区を舞台に、がん闘病しながら夢を持ち続け前向きに生きる女性を演じた。デビューから半世紀を超えてなお新たな挑戦を続ける由紀さんは「今の地球は夢を見ることが難しい状況。だからこそ、次世代に伝えたいメッセージが作品に詰まっている」と話す。

 秦建日子監督の同名小説が原作。不可能の代名詞でもある青いバラ「ブルーヘブン」を作った、岐阜県大野町に実在する園芸家の河本純子さんをモデルにした物語だ。由紀さん演じる主人公の冬子は、ステージ4のがんを患い、主治医から治療に専念することを提案される。冬子は病状を家族に隠し、成人した2人の孫たちの助けを借りながら「ハンググライダーで空を飛ぶ」という夢をかなえるために奮闘する。

 「まさか映画主演をする日が来るなんて」。そうプレッシャーを感じつつ「着飾って人前に出る由紀さおりではなく、普段の私を見てもらおう」と心がけた。バラ育種の世界では第一人者とはいえ、ごく普通の“おばあちゃん”である冬子を軽快に演じる。がん患者であってもそこに悲壮感はない。ドリフターズと度々共演したコントのように、とぼけたセリフ回しが観客の笑いを誘う。明るいテンポで進む1時間33分だ。

 映画は、地元企業などが出資し大半の場面が岐阜県内で撮影された。コンサートで訪れる度に目にする長良川の土手沿いの景色がお気に入りといい、「映画に出てくる雄大な池田山や、空と水、それからバラの美しい青さは岐阜だからこそ。地元の人たちと作った優しい作品になった」。

 米女優、ベット・ミドラーの名曲「ローズ」を日本語訳した主題歌「愛は花、君はその種子」を歌った。かつて、故高畑勲監督のアニメ映画「おもひでぽろぽろ」(1991年)の劇中歌として都はるみさんが歌唱したものだ。高畑監督による訳詞に感動した由紀さんは、2019年のデビュー50周年記念アルバムに収録しようと、都さんにカバーの許可をお願いし「この曲はあなたにぴったり」と快諾された。都さんは「当時、高畑監督から『太陽のように歌って』と言われた」と伝えられた由紀さん。「生きることを歌った歌詞は『ブルーヘブン』にも通じる」と映画での起用を喜んだ。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自身のコンサートや姉の安田祥子さんと30年以上続ける童謡コンサートも開けない期間が続く。収束を願いつつ、動画投稿サイト「ユーチューブ」を用いた新たな発信も模索する。「『由紀チャンネル』という公式チャンネルを始めた。日本語の美しさや旋律の抑揚は、童謡などを通して子どもたちに伝えたい。10年後も見据えてどんな方向性でやっていくかスタッフと練っている。自分を発信するツールは持っていたい」と、映画で演じた冬子と同様に果敢なチャレンジ精神を語った。【井上知大】