トランプ米大統領は日中韓3カ国訪問で、北朝鮮の核・ミサイル問題に関し、解決への意欲と、軍事的脅威にひるむことなく対抗する強い姿勢を打ち出した。一方、これとは対照的にベトナム、フィリピン訪問の際には、東南アジア地域の安全保障に積極的に関与しようとする発言は多く聞かれなかった。

 発信の乏しさの背景にあるのは、中国による南シナ海への海洋進出問題を正面から提起しない、とする米政権の政策判断がある。トランプ氏は8〜10日の訪中時、習近平国家主席に対し、南シナ海での軍事拠点化など力による現状変更と既成事実化をやめるよう強く迫るような場面はなかった。米国としては太平洋軍による「航行の自由作戦」の回数を増やすなど存在感は強めつつも、首脳級協議など外交の場では争点化しないことで、北朝鮮対応や貿易不均衡是正など、他の政策課題分野で協力を得る狙いがあった。

 12日のベトナムのクアン国家主席との会談で、南シナ海問題に関してトランプ氏が提案したのは「仲裁役」になることであり、地域の「守護役」ではなかった。こうしたトランプ氏の姿勢は、中国の覇権拡大の脅威にさらされる南シナ海周辺諸国に安心感を与えることはないものの、2国間関係においては「付き合いやすい相手」との印象も与えた。

 米政権は従来、東南アジア各国の人権問題に焦点を当てて、改善を迫ってきた。オバマ前政権はフィリピンのドゥテルテ大統領による過激な麻薬取り締まり手法を厳しく批判して両国関係が冷却化した。だがトランプ氏は13日の首脳会談でドゥテルテ氏と「素晴らしい関係を築けた」と称賛。ASEAN会合などでミャンマーでの少数派イスラム教徒「ロヒンギャ」への人権侵害問題を提起することもなかった。

 一方、東南アジア各国は引き続き米国がこの地域に関与すると受け止める。ただトランプ氏の発信の乏しさには不安を拭えない。

 今回注目されたのは、トランプ氏がどのような地域安全保障政策を打ち出すかだった。だがトランプ氏はその重要な舞台であるEASへの出席を取りやめ、ティラーソン国務長官に任せて帰国した。

 タイ・チュラロンコン大のスラチャート・バムルンスック教授は「就任当初、米国はアジアに興味を失い離れていくかと思ったが、今回の訪問では今後も関与していくという信号だけは送った」と指摘。一方で「(米国第一という)政権の政策にかなり左右されたものになる」とみる。【マニラ西脇真一、高本耕太】