生まれつき脳機能の発達の影響によって、社会生活に困難が生じてしまう「発達障害」。症状の出方はさまざまですが、健常な発達をする子どもにくらべると、発達障害の子は手先が不器用だったり、じっとしていられなかったりと、市販されている日用品などが上手に使えないことも多々あるようです。

そうした発達障害の子を含め、子どもたちが苦手意識を持ちがちなことをフォローアップしてくれる数々の「道具」を考案してきたのが、特別支援教育の第一人者・安部博志(あんべひろし)先生です。

筑波大学附属大塚特別支援学校の主幹教諭も務める安部先生に、道具を使うことの意義について聞きました。

●道具で「できる」ようになれば自己肯定感も高まる

幼稚園や小中学校の学級を1万以上視察してきた安部先生。そのなかで発達障害の子は、たとえばまっすぐな線を引くことを苦手としていたり、一般的には簡単に感じられる運動がうまくできなかったりと、さまざまな“困り感”(学校などの集団生活、家庭での日常生活でつまずきや戸惑いを覚えること)を抱えているといいます。

そうした発達障害の子にとっての「できない」は、視力が低下した人の「見えない」と同じようなことだと安部先生は指摘します。視力が低下した人にメガネがあるように、世の中には、あまり知られていないだけで発達障害の道具の子にむけた道具がたくさんあるそう。

「これまで100円ショップやホームセンターを巡って、いろいろな道具を自作してきました。でも、じつは発達障害の子ども向けに作られたものだけではなく、一般に販売されているユニバーサルデザインの商品なども困り感の解消には一役買ってくれます」(安部先生、以下同)

たとえば、シリコンゴムに覆われていて、指をピタッと添えることができる定規『Qスケール15』。真っすぐな線を引くためには、“目と手の協応動作”が必要ですが、前述の通り発達障害の子はこの動作が苦手な子が多いといいます。そこで、滑り止め効果があるこちらの製品であれば、線を引くことに集中できるそうです。

また、同じく協応動作が求められる縄跳びですが、手首を回す行為と飛ぶ行為を同時に行うことが難しいのですが、手首の回し方を練習することができる『鉄人倶楽部エアーなわとび』という商品と、飛ぶ練習にはゴムホースなどを活用すれば、徐々に飛ぶタイミングをつかめるようになるのだそう。

安部先生によれば、こうした道具は万能ではないものの、子どもの「成功体験」をバックアップしてくれる強力なツールになるとのこと。

「いまの医学では、発達障害を完治させることはできません。そのため、たとえば手先が不器用な子がトレーニングしても、急に器用になるわけではありませんし、学習理解の遅い子が急にスピーディーに理解できるようにはなりません。こうしたことから、発達障害の子どもたちは成功体験が乏しいだけではなく、周囲からも『なんでできないの?』と叱責される機会も多く、自尊心が低いまま成長してしまうケースがよく見受けられます。しかし、ほんのちょっとした工夫が施された道具を使うことによって、子どもの『できる』を叶えることもできるんです。そうすれば、親子で『できる』『できない』の泥沼の戦いをしなくても済むということが結構あるなと感じました」。

●苦手を無理に克服させるより、道具の力で自己肯定感を育む

苦手なことを克服させようと躍起になってしまうのは、我が子を思えばこそ。ただ、発達障害を抱える子どもは、学校や日常生活で想像以上に「困っていること」が多いと、周囲が認識するべきだといいます。

「発達障害だと分かっていても、いつまでもできるようにならない子どもにストレスを感じてしまうママも少なくないでしょう。そこで想像してみてください。たとえば、靴の蝶結びを繰り返し失敗して、友だちから『早くしろよ』『何でできないんだよ』と言われ続ける子がいたとします。でも、発達障害の子にとっては、軍手を2枚はめた状態、もしくは氷水に手を数分浸した状態で、蝶結びするのと同じようなものなんです。そこで、何とかできるようにと頑張らせても、本人はつらいだけですし、『自分はダメなんだ』と自己肯定感も否応なしに低くなりますよね。そうした“困り感”と向き合い続けるよりも、道具で少しでも『できる』が増えるなら、すぐに取り入れた方がいいです」

「できる」嬉しさと「褒められる」喜びは、子どもの心を育むうえで欠かせない要素。こうした道具の存在は、たくさんの困り感を抱える子どもたちの手助けになってくれそうです。
(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)