生まれつきの脳機能の影響で、行動や態度に遅れが見られる「発達障害」。学習が苦手な子や注意力が低い子、興味や関心に偏りがある子など、その症状はさまざまです。現状、根本的な治療法はなく、原因も明らかではありません。

人間誰しも得手・不得手はありますが、とくに発達障害の子どもたちは、「すごく得意なこと」と「すごく苦手なこと」がはっきり分かれているケースが多いのも特徴。そのため、 発達障害の子どもは“困り感”(学校などの集団生活、家庭での日常生活でつまずきや戸惑いを覚えること)を人よりも多く抱えがちです。

そうした子どもたちの不得手をカバーし、「できる」を引き出す道具を手掛けてきたのが、筑波大学附属大塚特別支援学校主幹教諭の安部博志(あんべひろし)先生。まだまだ教育現場でそうした道具たちが普及していない現状を踏まえて、家族が道具の使用を学校に働き掛けることの大切さを語ります。

●「障害者差別解消法」で学校での道具の使用も求めやすくなった

小中学校では、いい意味でも悪い意味でも、子どもたちは“一般的なアイテム”を使うことがスタンダードです。しかし、これまでの教育現場では、学級に“困り感”を抱えている子どもがいれば、サポートにつながる『道具』を先生が自前で用意することが多く見受けられたそうです。

「教師にとって、子どもの『できた』『分かった』という反応を引き出せる道具が作れたときは、何よりの喜びでもあります。ただ、先生ごとにそれぞれの学級向けに作るケースが多いので、いわゆる『職人の秘伝の技』になりがち。校内での共有がなかなか進まないという側面もあります。もちろん、校内の連携も大事です。ただ、2016年に『障害者差別解消法』が施行されたことで、親御さんも学校側に配慮を求めやすい環境が整ったと思います」(安部先生、以下同)

「障害者差別解消法」では、「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、「合理的配慮の提供」を求めています。「合理的配慮」とは、障害のある人に対して、バリアを取り除くために、負担が重すぎない範囲で対応するというもの。もし負担が重すぎる場合でも、別の方法の提案や理解を得られるような理由の説明が求められるそう。

「たとえば、お母さんが『うちの子はこういう困り感を抱えていて、こういう道具を使ってもらえれば、バリアを軽減することができるんです』と学校に申請すれば、学校側は相談の上、何らかの対策を講じなければなりません。これは、画期的な法律だと思います。もちろん、発達障害の診断があるにこしたことはありませんが、たとえなくても、困り感を抱えているなら、積極的に相談をしてみてください」

●デジカメも発達障害の子にとってはスゴい「道具」

では、具体的にどのような「道具」を取り入れることで、発達障害の子どもの困り感を解消することができるのでしょうか?

「たとえば、学習障害の子は、ノートを取ることが難しい場合もあります。そこで、授業が終わったあと、先生が黒板を消す前にデジカメで撮影して、家でプリントアウトしてノートに貼ったり、それを見ながらノートに書き写したりすることを許可してもらう、これも『合理的配慮』です。これまでは、こうした配慮を受け入れるかどうか、学校ごとに異なっていました。たとえば、デジカメを持ってきて盗難されたらどうするんだとか、責任を持てないとか、いろいろな議論があるわけです。でも、当たり前のようですが、子どもの困り感を軽減することが最も大事なんです」

本来であれば学校が子どもにとってのバリアにアンテナを高くして、積極的に合理的な配慮をするべきところですが、どうしても“学校によりけり”な部分はあるのかもしれません。だからこそ、親が主張するべきことはすることが大切なのだとか。

「『こんな道具が学校でも使えるようになったらいいのにな』と悩んでいるうちに、あっという間に1、2年過ぎてしまい、その間に子どもは支援のタイミングを逸してしまいます。それは、とてももったいないことだと思います」

安部先生の書籍『発達障害の子のためのすごい道具 使ってみたら、「できる」が増えた』(小学館)では、子どもが抱える“困り感”に応じて成功体験に導く手助けをしてくれるアイテムが紹介されています。

プロの教育者ではないママが、こうした道具を見つけ出すことは難しいかもしれませんが、子どもの「できる」を叶えてくれる道具はきっとどこかにあるはず。まずは、「できない」ことを責めるのではなく、学校の先生にも相談しながら、理想の道具を探してみることからはじめてみましょう。

(取材・文=末吉陽子/やじろべえ)