親が子や孫に資産を渡す方法の一つに、生前贈与があります。先日、政府与党が2023年度の税制改革において、生前贈与の手続きを簡素化する方向で議論を進めることが分かりました。実際に税制としてどのような形で変更が行われるのか、現在注目を集めています。

そこで今回は、生前贈与とは何か、手続きがどのように簡素化されようとしているのか、生前贈与のメリットは何かについて解説します。


生前贈与とは? 

生前贈与とは、生前に財産を誰かに無償で譲り渡すことです。誰でも行うことができますが、制度上で規定されている金額以上の贈与を行った場合、贈与税の負担が必要です。

贈与税の課税方法には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があります。

暦年課税とは、1月1日から12月31日までの1年間に譲り受けた財産の合計額に対して課税される税金です。1人につき年間110万円までは贈与税の対象とはなりません。しかし、110万円を超える部分については、贈与税が発生します。暦年課税は親族同士、他人同士の間で行われる贈与全般に対して適用されるものです。
ただし、一定の条件のもとでは、「相続時精算課税」を適用できます。これは原則60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子どもや孫に財産を贈与する際に適用できる制度です。相続時精算課税とは、父母・祖父母から子・孫に対する累積で2,500万円までの贈与については、すべて非課税とする制度です。2,500万円を超えた分については一律20%の贈与税のみ発生します。2,500万円を超える場合でも、暦年課税の場合だと2,500万円以上の贈与税は45〜55%もかかるので、相続時精算課税の方が有利です。

なお、相続時精算課税では2,500万円までは贈与を受けた時点では贈与税がかからないものの、受け取った財産額は父母・祖父母が死亡して相続をする際に相続財産となり、相続税はかかります。
冒頭で紹介した、2023年度の税制改革で政府与党が手続きを簡素化しようとしているのは、この相続時精算課税です。


相続時精算課税で生前贈与することのメリット

相続時精算課税でも結局は相続税という形で課税はされますが、もし譲り受ける財産が有価証券や土地など将来価値が上昇すると見込まれる場合、値上がり前に相続時精算課税として申請しておけば、値上がり後に生じる高額な税負担・相続税を避けられます。つまり、相続時精算課税を適用することで贈与時期を自由に選択でき、評価額上昇に伴う相続税の増大を防げるわけです。
また、贈与する側にとっては、財産を渡したい相手に確実に渡せるという点もメリットといえます。生前贈与であれば、財産の配分を生きている間に自分で完了できるので、生前に財産の行方を把握可能です。遺言書などを作成する必要もなく、死後に相続争いが起こることもありません。

さらに、税制改革に伴う不確実性を回避できるというメリットもあります。税法は毎年のように改正され、将来的に贈与、相続に関する税制がさらに変更されていく可能性は高いです。その際、今回与党で検討されているような、贈与する側・贈与を受ける側双方にとって有利になる変更であれば良いですが、必ずしも望ましい変更ばかりとは限りません。

現行の制度のもとで生前贈与をしておくと、将来の税制改革によって生じ得る不利益を、前もって避けることができます。


現行制度における相続時精算課税の申請方法

相続時精算課税を利用する場合、贈与を受ける人が税務署に申告をする必要があります。一度申請をすると、取り消して暦年課税に戻すことはできません。そのため、暦年課税の非課税額である年間110万円以内で、毎年コツコツと生前贈与していきたい場合は、相続時精算課税の申請は行わないようにしましょう。

申請期間は財産を得た年の翌年2月1日から3月15日までで、この間に申請と同時に納税も行う必要があります。また、申請時には「相続時精算課税選択届書」をはじめ、所定の書類を贈与税の申告書に添付する必要があり、手続きが煩雑です。


生前贈与の税制が簡素化へ

先述の通り、与党が検討している2023年度税制改革案の一つは、相続時精算課税の簡素化です。具体的な簡素化の内容は2022年度中に内容が固められると思われますが、基本的には相続時精算課税を申請する際、贈与を受ける財産が少額であれば、申請を不要とする案が軸になっています。
実際、相続時精算課税は手続きが面倒なために適用を受ける人の数が伸び悩んでおり、この状況を打破しようというのが、今回の税制改革の目的です。

現在、自分が死亡するまで財産を持ち続ける人が多く、財務省によるとその額は全国で約1,900兆円に上るといいます。国側としては、この膨大な金額を所有者が老いて亡くなるまでずっと銀行に預けっぱなしにするのではなく、より軽い税負担にて早い段階で子・孫世代に譲れるようにすることで、消費を喚起し、経済活性化を図りたいわけです。


まとめ

相続時精算課税が活用されるケースとしては、父母・祖父母が子・孫のために住宅用家屋を購入・新築する場合が挙げられます。この場合、相続時精算課税と、住宅取得等資金の贈与の特例(住宅取得資金のための贈与の場合、省エネ等住宅の場合には1,000万円まで、それ以外の住宅だと500万円まで非課税)を組み合わせることで、大きな減税を図れます。

単純計算で、省エネ等住宅であれば、相続時精算課税の特例で最大2,500万円、さらに住宅取得等資金の贈与に関する特例の1,000万円で、合計3,500万円まで贈与税はかからないことになります。
2023年度税制により相続時精算課税がどのくらい簡素化されるのか、今後の動きも引き続き注目したいところです。