先日、民間コンサルティング会社が行った、中小企業を対象とする労務帳票等の整備状況に関するアンケート調査が公表されました。
2019年4月以降、働き方改革関連法が順次施行されつつありますが、労務帳票等の整備状況は、この法改革にどれだけ対応できているかを示す指標でもあります。とくに中小企業の場合、経営資源が乏しい面があるため、対応が難しい面があるのも事実です。
そこで今回は中小企業における労務整備の現状とその背景にある働き方改革関連法について考えてみます。
労務帳票等の整備は中小企業の7割以上が対応
民間コンサルティング会社が調査対象としたのは自社会員の中小企業で、2022年の9月に実施されています。このアンケートでは、以下の労務帳票に関する質問が行われました。
・必要な項目をすべて盛り込んだ年次有給休暇管理簿を作成しているか。
・雇用契約書を正規・非正規ともに交わしているか。
・労働者名簿を作成して更新しているか。
・36協定を毎年労働基準監督署に提出しているか。
・雇用契約書・賃金台帳・就業規則に記載されている手当の金額は同じか。
・2022年10月に施行される介護休業法改正(産後パパ育休、育児休業制度の分割取得)に対応した規定を準備したか。
アンケート結果を見ると、最後の介護休業法改正の準備以外については、どの質問に対しても約7割の企業が「はい」と回答していました。中小企業では総務部門を持たず、経営者がこれら労務帳票の管理を業務の合間に自ら行っていることも多いです。にもかかわらず、7割近い企業が対応していることを踏まえると、中小企業における労務整備に対する意識は高めといえます。
働き方改革と労務整備
このアンケートで問われている「労務帳票」は、2019年4月から順次施行されている「働き方改革関連法」と関連しています。働き方改革において行われた制度改定をまとめると、以下の通りです。
・時間外労働の上限の設定
月45時間、年360時間を原則。臨時的・特別な事情がある場合でも720時間、1カ月あたり100時間未満、複数月平均80時間を限度。
・月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げ
中小企業もそれまでの25%から50%へ。
・年5日の有給休暇の取得義務づけ
10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、5日分については、毎年時季を指定して与えなければならない。
・高度プロフェッショナル制度の適用
高度な専門知識を要する業務については、労働基準法に縛られない自由な働き方を認める。
・労働時間の状況の把握
労働者の健康確保措置の実効性を確保するため、省令の定める方法で労働時間を把握しなければならない。
・勤務間インターバル制度の普及促進
前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に、一定時間の休息の確保に努めなければならない。
・フレックスタイム制見直し
清算期間(労働者が労働すべき時間を定めた期間)の上限を1カ月から3カ月に。
・産業医・産業保健機能の強化
産業医が適切に業務を行うために必要な情報を提供。
・不合理な待遇差の解消
正規・非正規・有期雇用・派遣雇用の間に不合理な待遇差を生じさせることを禁止。
・待遇に関する説明義務強化
短時間・有期雇用・派遣労働者について、正規雇用労働者と待遇差がある場合はその内容、理由を説明することを義務化。
・行政による履行確保措置および裁判外紛争解決手続きの整備
不合理な待遇差の解消および待遇に関する説明義務に関して、行政による履行確保措置の規定を設ける。
上記の働き方改革による制度改定は2022年12月現在、中小企業に2023年4月から適用される「月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げ」以外は、すべて施行されています。
労務帳票を整備し、労務管理を適正に行うメリット
これら働き方改革関連法案の施行に伴う労務帳票の整備を行うことは、中小企業にとって大きな利点があります。
働き方改革関連法は企業に対して義務を課している内容が多く、もしきちんと履行されていなければ、労働基準監督署から指摘を受けるので注意が必要です。労務帳票を作成・整備することで、新しい制度の履行をしっかりと管理できます。
労務整備がおろそかだと、取引先がその労務状況を見て態度を改め、信頼を失い取り引きを停止させられる恐れもあります。
とくに相手がコンプライアンスを重視する企業の場合、制度を遵守せず、働く労働者をずさんに扱う労働環境の企業とは取り引きを避ける可能性が高いでしょう。それを防ぐには、労務帳票の整備を進めることが大切です。
労務整備がきちんとできている企業であれば、働く従業員も企業を信頼して働き続け、また労働環境が良好ということで新規人材の確保もしやすくなります。一方、労務整備を怠っている状況が続くと、非優良企業とのイメージを自社の社員からも持たれるようになり、離職率が高まる恐れもあるでしょう。
まとめ
働き方改革関連法は経営資源が豊富な大企業から施行され、中小企業には一定の猶予期間が設けられました。
しかし2022年現在、2023年4月から適用される「月60時間を超える時間外労働にかかる割増賃金率の引き上げ」以外、すべて中小企業においても施行されているのです。コンプライアンスを遵守するためにも、中小企業には法務帳票の整備が望まれます。
近年では労働者名簿や雇用契約書などの労務帳票の管理を紙で行うのではなく、クラウド型システムによりオンライン上で作成・使用することも増えています。もし人手不足の中で作業量が増えるという場合は、IT化の取り組みを進めてみるのも一つの方法でしょう。
■参考サイト
PRTIMES 中小企業における労務帳票等の整備状況について
厚生労働省 働き方改革関連法等について
厚生労働省 育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
ワークフロ総研 働き方改革とは?
マネーフォワード 2022年版 – 働き方改革関連法案をわかりやすく解説!
