企業にとって優秀な人材の定着は重要な課題となっています。従業員自らがキャリア形成に責任をもつ時代になりつつあるなかで、社内転職制度をうまく活用すれば社員側のニーズを満たしつつ、人材の定着も図れるでしょう。今だからこそ注目すべき社内転職制度について紹介していきます。



社内転職制度とは

通常の人事異動は会社からの命令であり、従業員は従わなくてはいけません。それに対して社内転職制度の特徴は、従業員から異動希望を出せる点です。従業員の意思にもとづいているところが通常の人事異動と異なります。


従業員が希望する部署を指定する形式が多いですが、会社側から社内公募形式で部署を指定し、異動希望者を募るケースも見受けられます。新部署の立上げや、期間限定のプロジェクトなど、公募内容も多岐にわたります。


なぜ社内転職制度が広がったのか

多くの企業が社内転職制度を設けていますが、なぜここまで広がったのでしょうか。会社にとって人事権は、人的資源を効果的に運用するための重要かつパワフルな権限です。その一部を従業員に分割するメリットはどこにあるのでしょうか。


社内転職制度の広がりは、近年の社会情勢の変化に原因があります。AI等の技術革新により業務の機械化が進んでいくと言われているなかで、経費精算や社内決裁といった社内業務を代行するシステムが登場するなど、定型的な仕事は今後淘汰されていく可能性が高いと考えられます。


転職に対するハードルが低くなっていることも重なり、従業員が自分自身のキャリア形成に責任をもつ時代になりつつあるのです。 このような社員側のニーズに対応しつつ、社外への人材流失を防ぐ手段として、社内転職制度の重要性が増しています。


社内転職制度のメリット

ここでは主に会社側の視点から、社内転職制度のメリットを詳しく紹介していきます。


優秀な人材の確保と定着

社内転職制度により、優秀な人材の確保や定着が図れます。ポイントは「優秀な人材」が対象であること。会社によって優秀な人材の定義はさまざまですが、従業員が自分自身の価値を更に高め、会社に貢献しやすくなる環境を用意することが社内転職制度の目的です。


社内交流の活性化とノウハウ共有

商品やサービスのライフサイクルが短くなる中で、開発のスピードアップは多くの企業にとって課題となっています。社内転職制度を活用することで、普段交流が少なかった部署同士の相互理解が進み、新たなアイデアが生まれるかもしれません。また縦割りだった組織に横串を入れやすくなり、部署間連携がしやすくなります。


部署カルチャーとのミスマッチ防止

いくら優秀な人材でも、部署特有の雰囲気や文化に適応できないことがあります。せっかく大きなコストをかけて採用・育成した人材が流失するのは勿体ないです。社員自らが声を上げる制度であるため、部署カルチャーのミスマッチを把握し、対策を打つことが可能になります。


社内転職制度におけるデメリット

社内転職制度にはデメリットもありますが、事前にしっかり理解しておけば対策ができます。


逃げ目的の社内転職もある

社内転職制度への応募者が「スキルアップしたい」など前向きな姿勢であればよいですが、 逃げ目的で応募する人もいるでしょう。たとえば「もっと楽な仕事がしたい」という理由では、部署異動しても生産性は高まらないどころか、異動先に悪影響を及ぼしかねません。


落選者の不満が高まる可能性がある

応募して落選する人は必ず出ます。応募者のほとんどは現在の配属部署に満足していないので、落選者は「自分にとって最適ではない」部署に残ることになります。当然ながら不満は溜まるため、選出要件の明確化や落選理由の説明など、落選者の納得を得る努力は必要になるでしょう。


効果的に運用するためのポイント

優秀な人材を定着させるために押さえるべき4つのポイントを解説していきます。


目的と整合性の取れた規定を整備する

社内転職制度の目的はあくまでも、優秀な人材を定着させ更に伸ばすことです。優秀な人材を選び、逃げ目的の応募者をふるいにかけるために、選出基準は明確にしておきましょう。また、落選者の理解を得るという観点からも明確な規定を整備し社内に周知する必要があります。


社内転職制度の目的を社員に浸透させる

制度の目的が従業員に浸透していれば、日頃の業務にもよい影響を及ぼせます。たとえば目的が「優秀な従業員の更なるスキルアップを後押しする」ことで、審査指標として業務実績や勤務態度が見られることを明示しているとします。従業員が社内転職制度を意識して、日頃の業務に向かう姿勢を変えることで生産性が高まるかもしれません。


応募者へのフォローを行う

社内転職制度を利用して部署異動したものの、前の部署との文化の違いに戸惑ったり、最初はうまく仕事が進まなかったりすることもあります。あくまで従業員側による努力も必要ですが、「社内転職制度を利用したけれど後悔している」ということがないように、選出後のフォローは必要です。


また落選した人が不満を残さないように、落選理由をしっかり説明して、メンタル面のフォローもしましょう。


応募者の情報を守る

情報が漏れることで、応募者が社内で疎外感を感じたり、不和が生じたりすることは避けなければいけません。制度に対する信頼性を保つ意味でも、応募者情報の秘密保持は徹底しましょう。公募する際も応募情報は守ることを事前に約束しましょう。


まとめ

社内転職制度のメリットやデメリット、効果的に運用するためのポイントについて解説してきました。本来の目的を見失うことなく効果的に運用すれば、生産性が高く優秀な人材を確保し、会社が成長する活力を維持できます。


まだ制度を導入していない場合は、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。すでに導入済みの場合は、いまの運用が効果的か見直してみるとよいかもしれません。


■参考サイト
内閣府||年次経済財政報告 第2章 人生100年時代の人材と働き方


マイナビ、転職動向調査2022年版
調査方法:インターネット調査
調査対象:正社員として働いている20代〜50代の男女のうち、2021年に転職した人1,500名
調査期間:スクリーニング調査:2022年1月21日(金)〜1月25日(火)、本調査:2022年1月25日(火)〜1月26日(水)