6組の新人マンガ家と編集者のタッグが四つの課題に挑み、優勝を目指すマンガ賞「MILLION TAG(ミリオンタッグ)」。集英社のマンガアプリ「少年ジャンプ+(プラス)」が次世代のスターマンガ家を発掘することを目的とした新マンガ賞で、各タッグが課題に取り組む様子や、選考過程がマンガ家発掘バトルオーディション番組「MILLION TAG」としてYouTubeで配信されるという異色の企画だ。同企画で優勝を勝ち取ったのが、マンガ家・藤田直樹さん&編集者・林士平さんタッグ。優勝者タッグの作品は、「少年ジャンプ+」で連載化、コミックス化、Netflixでのアニメ化が決定している。藤田さん&林さんタッグに今の率直な思い、今後の意気込みを聞いた。

 ◇ネガティブ&天才ヒットメーカーの凸凹コンビ 最終課題も締め切りギリギリだった?

 −−番組では、藤田さんが「マンガを描くのは楽しくない」などマイナスな発言が多い“ネガティブ藤田”、林さんは人気マンガ「SPY×FAMILY」「チェンソーマン」などを担当する天才ヒットメーカーと紹介され、凸凹タッグとも呼ばれていました。約5カ月にわたる選考を経て、最終課題で作成した連載ネーム「BEAT&MOTION」で1位を獲得し、優勝が決定しました。今の思いは?

 林さん 締め切りに追われる日々の中で、締め切りの数が一つ減ったのでまずは一安心というか。連載が決定して、新たな締め切りが発生したので、作品を藤田さんと一緒に作っていくのが楽しみでもあり、大変そうだぞという精神状態ですね。

 藤田さん 僕も全く同じですね。優勝したら大変になるということは、ずっと言われてきたので、喜びよりも大変だなという思いのほうが勝っています。

 −−藤田さんは、7人の参加者の中で最年長で、これまでも青年誌を中心に読み切りを発表しています。「MILLION TAG」に応募したきっかけは?

 藤田さん 僕は元々青年誌でマンガを描いていて、最近は少年誌の読者の年齢層が引き上がっているような気がして、自分の作品が前よりも受け入れてもらえるかなと思って、応募しました。

 −−「MILLION TAG」は、約200人の応募者の中から選ばれた7人に対し、編集者がタッグを組むマンガ家を指名しました。林さんが藤田さんを選んだ理由は?

 林さん 本当にマンガが達者な方だなと。演出も達者で、絵も連載に近いレベルにある方だと思ったので、短期決戦の中である程度即戦力の方のほうが戦いやすいだろうというもくろみもありました。また、藤田さんの応募作品は、虐待と自殺がテーマで、結構ウエットな内容のネームを描かれていたので、打ち合わせをしたら変わるタイプの方かなと思いました。どう変わっていくか楽しみだなというのもあって、一緒に組ませていただきました。

 −−「MILLION TAG」では、四つの課題を通して、さまざまな打ち合わせを重ねていました。印象的だった出来事は?

 林さん 全ての課題が大変でしたが、一番記憶に残っているのは、最終課題の提出日前日に扉絵の話をしたことですかね。扉の直しを締め切りの2日前か3日前に話したんですよね?

 藤田さん 3日前とかですかね。

 林さん 扉を最優先で入れなきゃいけないけど、前日になってもそれがブランクだったので、「これどうするんだ」みたいな感じで。「もういいか」という感じにもなったんですけど、最後まで粘ってどうにか入れてもらったのが、時間制限的に大変でしたね。

 藤田さん すみません……。

 林さん いや、全然大丈夫なんですけど、ギリギリだったなと(笑い)。

 −−林さんと藤田さんタッグは、番組を通して締め切り間際に林さんから直しが入るという場面が多かった印象です。

 林さん 時間の許す限りは直したほうがいいので、それは普通の連載でも当たり前のようにやっていることなんです。ネーム段階で気付いたことは全部お伝えして、下絵段階でも全部お伝えして、原稿が上がった時も違和感があれば伝える。それは僕の職務でもあるので。

 藤田さん 林さんから直しが入る時は、それはそうだなと。退屈なものを描いた自覚みたいなのはあるんですね。これだめかなと思ったら、やっぱりだめと言われるので。そこの感覚は一緒でした。林さんも忙しい方なので、これからは自分が気付けるところは直したいなと思います。

 ◇「MILLION TAG」での挑戦と成長 編集者の感性にアプローチする

 −−「MILLION TAG」に参加して成長したことは?

 藤田さん 林さんは「どんな小さなことでもいいので、いつもと違うことをしよう」といつもおっしゃってくれていて。僕は、第3課題でコメディーをやってみようと思って、結果は圏外でしたけど、すごく好きな作品になったので、やってよかったなと思います。僕が面白いと思っているものは、多分ものすごく過激なもので、それをすごく薄めたほうが逆に笑ってもらえるんだなと思いました。

 −−第3課題は、能力バトルの読み切りネーム。藤田さんが描いたのは、元スパイの母親と息子、息子の恋人がバトルを繰り広げるという驚きの展開の読み切りでした。

 藤田さん キャラクターが腹にパンチをされて食べ物を吐くシーンがあって、自分はギリギリのラインかなと思っていたのですが、林さんに「ギリギリだけどOK」と言われたことをよく覚えています。僕が思っていたラインと林さんのラインが一緒だったので、ようやく調整できたと思いました。林さんは優秀な編集者さんなので、僕が林さんの感性にずっとアプローチしている感覚です。

 林さん 藤田さんからは、いろいろ質問をいただくので、どうしてそう思ったのかということはなるべく言葉にしてお伝えしているようにはしています。少しずつではありますが、僕が大事にしていることは共有できているのかなと思っています。

 −−林さんから見た藤田さんの成長は?

 林さん 恐らく「MILLION TAG」に参加する前とは、ネームを描くスピードが大分違ったんだろうなと。みんなに見られてしまうものを締め切りまでに完成させなければいけないというプレッシャーが彼をそうさせたんだなと思うので、ストレスはすごくあったと思うんですけど、自分はこんなスピードでネームを切れるんだと、感じてもらえたんじゃないかなと思います。

 ◇「マンガを描くのは楽しくない」の真意とは? 空気感を表現する藤田直樹の魅力

 −−今後、「少年ジャンプ+」での連載が始まります。林さんが感じる藤田さんの作品の魅力は?

 林さん ほかの人が拾わない瞬間、あまり描かないであろう瞬間をふわっと丁寧に描かれる場面があるんです。ネームで見た時は「ううん……?」と思うんですけど、通して見たり、時間を置いて見たりすると、その間がすごく利いてくるということがある。うまく言語化できないのですが、空気感みたいなものを捉える力を非常に持ってらっしゃる方だなと思うので、そういうところは消さずに、残していきたいなと思っていますね。

 −−藤田さんは、ご自身の武器はどんなところだと考えていますか?

 藤田さん それは分からないです。林さんが「ここがよかった」と言ってくれても「えっ?」と思うことがあるので、本当に分かっていない部分があるんだと思います。

 −−番組の序盤では、藤田さんが「マンガを描くのは楽しくない」と発言していたのが印象的でした。その気持ちは変わりましたか?

 藤田さん 「楽しくない」というと語弊があるんですけど、やっぱりマンガを描くのはものすごくしんどい作業なんです。僕はそれを口に出して言ってしまうので、周りが「えっ?」と思うみたいなんですけど、ほかのマンガ家さんと話していると、みんなしんどいと言っていますよ。「楽しくない」だけで、何も思っていなかったらマンガ家を辞めていますから。

 −−藤田さんがマンガ家を続ける理由は?

 藤田さん いろいろあります。マンガ以外に、あまりできることがないというのが一つあります。あとは、周りの方が自分と知り合いであることを誇りに思ってくれるというか。今回の「MILLION TAG」に関しても、僕以上に周りの方のほうが喜んでくれるんですね。マンガを描くのは大変ですが、周りが喜んでくれるから「じゃあいいや」と。それも一つのやる気になっているのかなと思います。

 −−「BEAT&MOTION」の連載がスタートし、アニメ化もされます。今後の意気込みは?

 藤田さん 作品が出来上がった時点で見る方のものですので、それに対してどう感じてほしいとかは一切ないです。僕自身は頑張るだけですね。今は、インプットのために映画とマンガをずっと見ている状態で、これは普通に働くより随分楽しいぞと思っているんです。やっとマンガが仕事になるというのは、ありがたいことです。

 林さん みんなが楽しんでもらえるような作品になるといいなと思います。アニメーションになることが前提の作品で、普通の連載以上にハードルは高くなると思うので、きっと藤田さんなら面白いものを描いてくれるんじゃないかなと、この場でプレッシャーをかけておこうかなと(笑い)。

 藤田さん いや、そんな……(笑い)。

 林さん 普通の新人さんだったら、作品がつまらなくて見られなくても「まあ成長できたからいいか」だけど、残念ながらその過程を全部見られてしまうことが前提です。一生に残る連載デビュー作が世界中に見られるという恐怖の状態なので、どうせだったら15年後、20年後にも笑って話せるぐらい「やれるだけはやった」と言えるものになるよう、楽しんで打ち合わせを重ねていけたらなと思っています。

 マンガ家発掘バトルオーディション番組「MILLION TAG」(全8話)は、ジャンプチャンネルで配信中。お笑いトリオの「四千頭身」、声優の佐倉綾音さんがMCを務めた。