フジテレビの深夜アニメ枠「+Ultra(プラスウルトラ)」が、米国のアニメ配信サービス大手のクランチロール、アニメなどの企画、プロデュース、宣伝を手掛けるスロウカーブと共同制作体制をスタートした。+Ultraは、国内のみならず世界に向けたアニメを発信することをコンセプトに、2018年10月に誕生した。新体制によって、世界に向けた企画、発信をより強化する。アニメ業界は、「+Ultra」の誕生から約3年で大きく変化した。配信が存在感を増すなど、変革の時代ともいわれている。フジテレビの森彬俊プロデューサー、クランチロールの山口貴也プロデューサー、スロウカーブの尾畑聡明代表取締役に新体制の狙いを聞いた。

 ◇スキーム、企画、マーケティング これまでできなかった展開を

 「+Ultra」は、「INGRESS THE ANIMATION」「revisions リヴィジョンズ」「キャロル&チューズデイ」「BEASTARS」「空挺ドラゴンズ」などの話題作を放送してきた。フジテレビの深夜アニメ枠は、2005年に設立された「ノイタミナ」もある。「ノイタミナ」は「ハチミツとクローバー」「のだめカンタービレ」「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」「PSYCHO-PASS サイコパス」など数々のヒット作を世に送り出してきたが、「+Ultra」は「最初から世界を見据えた枠」として誕生した。

 2018年10月の誕生から約3年、配信の定着などアニメを取り巻く状況は大きく変化した。フジテレビの森プロデューサーは同枠を続ける中で「限界も見えてきた」と明かす。

 「海外で響くであろうと考えた作品、逆に国内市場の方がメインだろうと考えていた作品としてそれぞれ企画しましたが、狙い通りハマったものがあれば、想定した通りにならないこともありました。ここまでやってきた中で、自分たちだけで企画を立てる限界も見え、さまざまな視点で企画を進める重要性を感じていました。スロウカーブさんに相談したところ、クランチロールさんを紹介していただいたのが、新体制のきっかけです。3社が協力することで、よりワールドワイドに作品を発信していくことができる」

 クランチロールは、登録ユーザー約1億2000万人、有料会員約500万人とアニメ配信サービス。200以上の国や地域にアニメを配信している。米国、欧州を中心に、アジア以外の全世界で+Ultraの作品のマーケティング、独占配信、商品化を含めたビジネスを強化する。

 クランチロールはこれまでも日本のアニメの製作委員会に参加しながら、自社主導による企画製作を行ってきたが、同社の山口プロデューサーは「難しさも感じていた」と明かす。

 「製作委員会への参加は2015年くらいからさせていただいており、それは今後も継続していきますが、数年前からは海外のユーザーの動向、トレンドのデータに基づき、仮説を立て、自社で主導する作品の企画と制作に出資してきました。製作委員会に参加した作品からはいくつかのヒットが生まれ、自社主導の作品でも弊社プラットフォーム上では成功を収めた作品があった一方で、難しさも感じていました。弊社のプラットフォームは欧米が主要市場であるとは言え、作品が日本で成功することも重要なのですが、日本のユーザーが何を求めているか?という視点が足りなかった。日本での展開やプロモーションなどを他社に頼らないといけないなど問題点も挙がっていました。弊社が独自でやっていくのは難しいので、信頼できるパートナーを探していた。+ULTRAでは、これまで難しかったことを全てカバーしてくれる。スロウカーブさんには、国内外の展開をまとめて考えていただけます。これまでも目指していたけど、座組み、構造上の問題などで難しかったことを実現します」

 スロウカーブは「LISTENERS」「NIGHT HEAD 2041」なの企画、プロデュースや「ゆるキャン△」などの宣伝やグッズ企画といった、さまざまなアニメに多角的に携わってきた。これまで「+Ultra」で担ってきたマーケティングプロデュースに加え、世界に向けたアニメの企画開発にも参画する。海外の動向を熟知したクランチロール、マーケティングや企画のプロフェッショナルであるスロウカーブが加わったことで、それぞれの長所を生かし、短所をカバーできる盤石の体制となった。

 スロウカーブの尾畑代表取締役は、3社が協力する強みを「これまで海外の展開は、ライセンスをお預けして終わりになることも多かった。スキーム、企画、マーケティングを含めてこれまでできなかった海外展開を積極的に提案できる」と話す。

 ◇世界のトレンドは? データでは見えないことも

 クランチロールは、ただの配信サイトではない。世界規模のファンコミュニティーでもあり、海外のトレンドを熟知している。山口プロデューサーは、海外のトレンドの現状を「海外と日本で受け入れられる作品のテイストが違うと思われがちではありますが、意外と大枠は日本と変わらないんです」と説明する。

 「日本と一緒で『呪術廻戦』が大人気で、異世界ものも元気ですし、ラブコメも増えつつあります。大枠は変わらないのですが、微妙に違う。その微妙な違い、海外の視点を取り入れることで、企画の精度を上げることができるはずです」

 クランチロールは、膨大なデータを有するが、アニメに限らず、エンターテインメントは、データを分析するだけでは、ファンに受け入れられる作品を生み出すことができない。データでは見えない“空気”もキャッチしなければいけない。そこが面白いところでもある。

 「データ分析というと、要素を全部詰め込むようなアプローチにも聞こえるかもしれませんが、クリエイティブとして面白いアプローチをしなければいけません。我々が大事にしているのはファンのコミュニティーで、データでは見えないところもあります。フジテレビさん、スロウカーブさんと力を合わせて、面白い作品を作っていきたい」

 ◇3年後は? テレビ離れとも言われる時代に

 「+Ultra」の誕生から約3年、アニメを取り巻く状況は大きく変化した。さらに3年後、一体どうなっているのだろうか?

 森プロデューサーは「アニメというジャンル自体がコアなものからマスになっていて、想像よりもそのスピードが速くなっています。必然的にターゲットも広くなっています。今後、アニメがよりマスコンテンツになっていくと考えています。同時に国内、海外の垣根もなくなっていくはず。未来に向けて、そこを意識した企画作りが重要です」と力を込める。

 “テレビ離れ”と言われることもあるが「テレビを見なくなっているというよりは、選択肢の一つになっている。今後もメディアとしては有り続けるはず。アニメはマスコンテンツになってきてはいますが、アニメをドラマやバラエティーと同じような大衆性も持たせたいわけではありません。従来の日本のアニメらしさがマスとして受け入れられている。そこを忘れずにやっていきたい」と話す。

 海外、特に欧米では“日本らしい”アニメの需要も大きいという声もある。

 山口プロデューサーは「劇的な変化だけを求めるのではなく、日本のアニメのアイデンティティーを保ちつつ、世界に広げていきたい。ファンエンゲージメントを高くしないといけません。企画には時間がかかります。この座組みならではの取り組みを長いスパンで丁寧にやっていきたいです。正解はありませんが、試行錯誤していければ」と語り、尾畑代表取締役は「各社が攻勢を掛ける中で、作品も増え、バジェットもより大きくなり、作り方も変わっています。我々ならではの作品を生み出し、マーケティングなどでも差別化していきたい」と意気込む。

 「+Ultra」では、人気ゲーム「マブラヴ」シリーズが原作のテレビアニメ「マブラヴ オルタネイティヴ」を放送中で、今後は、「コードギアス」シリーズなどの谷口悟朗さんが総監督をつとめるオリジナルアニメ「エスタブライフ」、マンガ「人形の国」「シドニアの騎士」「BLAME!」などの弐瓶勉さんとポリゴン・ピクチュアズによる新プロジェクトも放送する。

 3年後、さらにその先へ……。「+Ultra」は、変化、拡大するアニメ業界の台風の目になりそうだ。