命名権を獲得した…プロ野球西武ライオンズの本拠地「ベルーナドーム」(埼玉県所沢市)

総合通販大手のベルーナがM&Aをコンスタントに積み上げている。目的は既存の事業の深化と拡張、そして新規領域の取り込みだ。カタログ通販に加え、ネットや店舗での販売を強化するとともに、再生可能エネルギー事業や海外進出を本格化しているが、推進役となっているのがM&A。足元の業績はコロナ禍による巣ごもり需要の反動減で踊り場にあるが、アフターコロナの到来を受け、次の一手をどう打つのか。

印鑑販売から、衣料品の通販に転進

今春、侍ジャパンが野球世界一を決めるWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で3大会ぶりに優勝し、日本中が歓喜に沸いた。プロ野球の2023年ペナントレースも盛り上がり、白熱した戦いが繰り広げられているが、ベルーナも一役買っている。

西武ライオンズの本拠地(埼玉県所沢市)は「ベルーナドーム」。昨年3月に西武ドームから名称変更して2シーズン目に入った。ベルーナが施設命名権(ネーミングライツ)を取得したもので、契約期間は2027年2月末までの5年間。ベルーナはライオンズと同じく埼玉県に本社を構え、2015年からオフィシャルスポンサーとしてライオンズを応援してきた経緯がある。

ベルーナは1968(昭和43)年に、創業者の安野清・現社長が印鑑の訪問販売「友華堂」を立ち上げたことに始まる。1983年に衣料品の通信販売に乗り出した。同社の象徴でもある通販カタログ「ベルーナ」を創刊した1986年だ。

同社の通販事業の登録会員数は2200万人を超え、その約8割をミセス層(40代以上の女性)で占める。ミセス向けを中心に、アパレル・雑貨をはじめ、化粧品・健康食品、グルメ(総菜・海産物、日本酒、ワインなど)、ナース関連(看護師向けのウエア・シューズなど)まで取扱商品は多岐にわたる。通販事業は全売上高の7割を占める。

EC専業通販を矢継ぎ早に子会社化

通販事業ではM&Aを通じて事業の間口や奥行きを広げてきた。手始めは2007年、看護師衣料・用品製造のナースリー(栃木県足利市)を子会社化し、ナース関連に進出。続いて13年に看護師通販のアンファミエ(大阪市)を子会社化した。15年には両社を合併し、ナースステージ(大阪市)を発足。現在、看護師通販市場で7割を超えるシェアを持つという。

2020年にはシンガポールで医療機関向け人材紹介・派遣を手がける現地企業JOBSTUDIOを子会社化した。看護師などメディカル人材の紹介事業を始めたナースステージとの連携などを進め、シンガポールを中心にアジア諸国でのサービス展開を見据える。

また、2014年にはベビー・ギフト通販のベストサンクス(大阪市)を子会社化している。

大黒柱のアパレル・雑貨部門では急成長するEC(電子商取引)への対応を重点的に進めてきた。2015年にキッチン用品、食器、雑貨などの丸長(静岡県三島市)、16年にアパレルのミン(愛知県刈谷市)、19年に輸入ブランド品のアイシーネット(東京都八王子市)、21年にレディースアパレルのセレクト(大阪市)を傘下に収めたが、いずれもネット専業の通販会社だ。

ベルーナの本社前(埼玉県上尾市)

「さが美」を買収、呉服関連を強化

通販事業に続く柱は呉服関連、プロパティ(不動産、ホテルなど)、データベース活用(封入・同送、通販代行サービスなど)の各事業だ。売上規模(2023年3月期)は順に238億円、199億円、157億円。

実は、ベルーナとして過去最大のM&Aに取り組んだのは呉服関連。2018年、きもの専門店「さが美」を運営するさが美グループホールディングスにTOB(株式公開買い付け)を行い、子会社化した。買収金額はおよそ60億円。

ベルーナは2006年に子会社を設立して自前で和装・和雑貨の店舗販売に進出。和装初心者でも求めやすいカジュアルなきものが人気を集め、業績を伸ばしてきた。中価格帯を主力とし、ブランド認知度が高いさが美を取り込むことにより、相互補完が期待できると判断した。「さが美」の店舗は現在全国に約80を数える。

また、2016年には大学生の卒業式袴レンタルなどを手がけるマイム(東京都杉並区)を傘下に収め、呉服関連事業のすそ野を広げた。

ベルーナの2023年3月期業績は売上高3.5%減の2123億円、営業利益19%減の112億円、最終利益27%減の74億円。8期ぶりの減収で、営業、最終とも2期連続の減益だった。第5次経営計画の初年度だったが、出鼻をくじかれる形となった。

コロナ禍の最中の2021年3月期は売上高、各利益項目のすべてで過去最高を達成した。売上高は一気に約260億円増え、初の2000億円台に乗せた。しかし、コロナ禍の落ち着きに伴い、巣ごもり需要がすぼみ、足元の業績には停滞感が漂う。

◎ベルーナの業績推移(単位は億円)

2021/3期22/3期23/3期24/3期予想
売上高2064220121232190
営業利益157138112140
最終利益110
102
74
94

3000億円企業へM&Aの照準は?

とはいえ、M&Aの手綱を緩める気配はない。過去10年を振り返り、ベルーナがM&Aに無縁だった年は一度もない。

今年も3月末、傘下企業を通じて、地熱発電事業の最上ジオエナジー(東京都江東区)の出資持ち分94.9%を取得し、子会社化した。再生可能エネルギー関連の事業拡大を目的とし、18億8000万円を投じた。最上ジオエナジーは山形県最上町で地熱発電計画を着手し、2025年をめどに発電開始を予定する。

ベルーナはプロパティ事業の1つとして再生可能エネルギー事業に取り組んでいる。これまで栃木県、埼玉県、群馬県で太陽光発電に関わっているが、新たに地熱発電に進出する。

現行の第5次経営計画の最終年度の2025年3月期に売上高2610億円、営業利益226億円を掲げる。そのうえで中長期方針として売上高3000億円、営業利益300億円の実現を見据えている。

ECが牽引する形で通販市場は今後も成長が見込まれる。一方で、ネット専業、テレビ通販はもとより、家電、衣料品といった流通大手が自社で通販サイトを開設するなど、垣根を超えた競争が激しさを増している。

ミセス層を顧客の中核とするベルーナとして、激戦をどう乗り越えるのか。新たな通販ジャンルの開拓や、若い年代層の取り込みに動くのか。M&A戦略の行方とも連動するだけに、要ウオッチといえそうだ。

◎ベルーナの歩み

主な出来事
1968 埼玉県上尾市で印鑑の訪問販売、友華堂として創業
1977 株式会社友華堂を設立
1983 衣料品の通信販売を開始
1986 総合カタログ「ベルーナ」を創刊
1990 ベルーナに社名変更
1994 株式を店頭登録
2000 東証1部上場(2022年4月から東証プライム)
2006 きもの・和雑貨のBANKANと、わものやを設立
2007 看護師衣料・用品製造のナースリー(栃木県足利市)を子会社化
2013 看護師通販のアンファミエ(大阪市)を子会社化
2014 ベビー・ギフト通販のベストサンクス(大阪市)を子会社化
韓国子会社で貸金業のベルネットクレジットカンパニーリミテッドを現地社に譲渡
2015 キッチン用品などEC通販の丸長(静岡県三島市)を子会社化
BANKAN、わものやを合併し、BANKANわものや(埼玉県上尾市)を発足
2016 衣装レンタルのマイム(東京都杉並区)を子会社化
アパレルEC通販サイトのミン(愛知県刈谷市)など3社を子会社化
2017 スリランカの不動産開発会社LAKE LEISURE PVT. LTD.を子会社化
2018 着物専門店のさが美グループホールディングスをTOBで子会社化
アンファミエとナースリーを合併し、ナースステージ(大阪市)を発足
2019 輸入ブランド品EC通販のアイシーネット(東京都八王子市)を子会社化
2020 医療機関向け人材サービスのシンガポールJOBSTUDIOを子会社化
2021 レディースアパレルEC通販のセレクト(大阪市)を子会社化
2022 DM発送代行、国内物流代行などのレーベルグループ(東京都千代田区)3社を子会社化
2023 3月、地熱発電の最上ジオエナジー(東京都江東区)を子会社化

文:M&A Online