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連載の第6回ではサーチャーが事業承継をする流れにおいて、企業情報を得る(ステップ4)までのプロセスについて解説してきました。今回は、M&AマッチングサイトやM&A仲介会社から取得した情報をもとに、その後のプロセスを追います。

ステップ5:意向表明の提出とデューデリジェンスの実施

企業についての理解が深まり、サーチャー自身も企業の事業計画の作成を通じ承継したい意思が固まったのであれば、次は意向表明の提出を行います。

意向表明とは、M&Aにおける買い手が売り手企業に対して提出する書面で、会社の買収意思を表すために作成・提出されます。場合によっては、複数企業から意向表明が提出される中で、売主は最終的な条件や内容を吟味しつつ、どの企業・個人(サーチャー)と株式譲渡の交渉を進めるのかを決定します。

意向表明の中では、譲渡対価が記載されることが一般的なため、既に入手している財務情報や今後見込まれる実態収益力を確認しながら算出します。この際、もちろん金額も重要ではありますが、サーチャーとしての想いがしっかりと伝わるようにアピールすることも心掛けると良いでしょう。

意向表明を提出し、売主に受け入れられた場合はデューデリジェンス(以下DD)に進みます。中小企業のM&Aにおいては、主に法務・財務面のDDをすることが一般的ですが、企業分析や財務分析で出た疑問点やリスクと感じる箇所をより深く理解することが主な目的となります。

弁護士事務所や会計事務所にも委託をしますが、出てきたレポートの内容を把握すると同時に、社内からDDに必要な資料が出てくるまでのスピードや社員の対応等も観察することで網羅的に情報を集めることでき、代表に着任してから入手しやすい情報と、一方で仕組みを構築する必要のある物とを整理できます。


ステップ6:ファンドレイズ

サーチ活動のタイミングで資金調達ができている場合を除き、DDと併せてファンドレイズを行います。この際、トラディショナル型サーチファンドを用いる場合も投資家からの追加投資を受けるため、事業承継したい企業の情報や事業計画を伝え、譲渡対価の資金を集めます。

こうした資金調達においてサーチャーに投資をするのは、ファンドオブファンドや投資銀行並びに、個人投資家と幅広いですが、一般的なPE(プライベートエクイティ)ファンドとは異なり、サーチファンド特有の利点も投資家にはあると考えます。

例えば、先述の通り、サーチャーが売主と対話を繰り返して事業計画を作成した場合には、投資をする事業計画がサーチャー個人だけではなく、企業を譲渡する社長の意見も反映されているものであると考えられます。サーチファンドを用いた事業承継が「企業の承継だけでなく、想いの承継でもある」と考える由縁の一つですが、企業の将来を最も深く考えているであろう売主が託したサーチャーが中心となって客観的に事業計画の策定をしていることや、売主の意見も反映されていることが投資家目線で一つの安心材料になります。

よって、自分自身の事業成長の仮説を立てた上で、是非サーチャーには売主と「事業の伸ばし方」の対話を積極的に行って頂きたいと思います。


ステップ7:株式譲渡契約書の締結とクロージング

DDが完了したら、株式譲渡対価の最終決定とクロージング日を明確にし、株式譲渡契約書の準備と締結に移ります。クロージング日をもって、売主が完全に企業から離れる場合もありますが、引継ぎ等を目的とし一定期間企業に残ってもらう場合もあり、それを条件に盛り込むこともあります。

株式譲渡契約書の締結とクロージング日の間に猶予を持たせることが一般的ですが、その理由は、サーチャーがクロージング日までに実施して欲しい項目等を提示するためです。例としては、継続的に業務を行うための免許の更新や、施設のリース契約更新、保険解約手続き等があげられ、サーチャーがクロージングの翌日からスムーズに企業に入ることができるようにするための準備になります。

クロージング日には、クロージングまでの前提条件の実施状況を確認し、最終的に株式譲渡対価の振り込みを行い、株式の譲渡は完了となります。

ステップ8:社員との顔合わせ

こうしてM&Aの一連の流れが完了しますが、ここからサーチャーの新社長としての日々が始まります。初めて新旧社長が肩を並べて社員の前に立ち、今回の経営者交代の経緯を社員に共有します。この初日の社員との顔合わせは非常に重要です。

新社長であるサーチャーは、そもそもなぜサーチ活動に臨んだのか、この会社を承継すると決めるに至った「会社の価値」は何なのか、そしてこの会社で成し遂げたいことは何なのか等、明確に言語化し共有することが必要だと思います。

一方で旧社長にも、なぜこのサーチャーを自身の後任として選んだのか、どのような理由で決意したのか、また社員へのこれまでの感謝等を自身の言葉で話していただくことが大切です。

サーチファンドは先述の通り、一般的なPEファンドと異なり、売主とサーチャーの間の対話や双方のインプットを集約した事業計画等、多くの利点があることをご説明しました。こうしたメリットを含めて社員の方お一人お一人に理解してもらい、M&Aを前向きにとらえてもらうことが、新社長となったサーチャーにとって最初の大仕事になるのです。

文:竹内智洋Growthix Investment代表取締役

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