巨額の資金調達が急務となるラピダスの東哲郎会長(Photo By Reuters)

2023年9月に北海道千歳市で半導体工場を着工した、国産半導体新会社のラピダス(東京都千代田区)。経済安全保障上の問題から、国内での最先端LSIの内製化を狙う。国も全面支援しており、国策会社としての側面も持つ。2027年には回路線幅2n(n=ナノは10億分の1)mの最先端半導体の量産開始を目指す。課題は5兆円もの設備投資資金だ。その筋道は?

2兆円は確保、残る3兆円をどう調達する?

「日の丸半導体の復活」を旗印に、官民一体で立ち上げたラピダス。その戦略が明らかになってきた。11月に釜山で開かれた国際半導体製造技術学術大会(KISM2023)に出席した同社の榎本貴男専務は韓国・中央日報とのインタビューで「ラピダスはTSMCやサムスンとは違った道を選ぶ。一部顧客に向けたオーダーメード型チップ生産に集中する」ことを明らかにした。つまりは「ニッチ戦略」だ。

経済安全保障の観点から国内生産を掲げる同社の社是を考慮に入れれば、価格競争に巻き込まれない高性能なLSIを国内企業向けに供給する戦略ということになりそうだ。外国製半導体の調達価格が割高になる円安も「追い風」と言える。

榎本専務は同インタビューで「半導体開発人材を確保するのが容易でない状況」と人材確保を課題としているが、同社最大の問題は資金調達だ。着工時見通しの2027年よりも1年遅れとなる「2028年から本格的に最先端チップ試作品を生産するパイロットラインを稼動する」(榎本専務)までに2兆円の設備投資が必要と見られている。

経済産業省は2023年の補正予算案に、6773億円の同社支援を盛り込んだ。すでに3300億円の補助は決まっており、総額で約1兆円の資金を投入する。ラピダスの東哲郎会長は2兆円全額の国費支援を求めているが、経産省も応じる見通し。量産工場建設に必要な残り3兆円の資金調達が課題だ。


国内株式上場での3兆円調達は至難の技

同社は株式上場(IPO)での資金調達を検討している。しかし、IPOによる3兆円の資金調達は至難の技だ。3兆円を超える国内のIPOは1987年のNTT(約24兆9600億円)、1998年のNTTドコモ(約8兆8090億円)、2015年のゆうちょ銀行(約6兆2991億円=自己株式を除く)と日本郵政(7兆3395億円)の4社に過ぎない。これらに続く1993年のJR東日本でも約2兆4000億円と3兆円には届かない。

上位はいずれも独占的に事業を展開していた旧三公社五現業が民営化した企業。純粋な民間企業では2014年に上場したリクルートホールディングスの約1兆8200億円が最高だ。2023年(11月末まで)の最高額は10月25日に東京証券取引所プライム市場に上場した半導体製造装置メーカーKOKUSAI ELECTRICの約4800億円だった。

証券バブルの再来か、パイロットプラントでよほどの高性能LSIを生産しない限り、IPOによる3兆円調達は難しい。だが、高性能LSIの量産も簡単ではない。現在の国産半導体は40ナノが限界だが、世界は32ナノ、22ナノ、16/14ナノ、10ナノ、7ナノ、5ナノ、3ナノと段階を踏んで微細化を進めてきた。

世界大手のTSMCやサムスンですら、1世代ごとに量産化に苦労してきた歴史がある。ラピダスに後発のメリットはあるにせよ、40ナノから一気に2ナノの半導体を量産化するハードルは極めて高い。TSMCとサムスンは2025年に2ナノの量産化をスタート。ラピダスが2ナノの試作を始める前年の2027年には、サムスンが1.4ナノの量産化を計画している。ラピダスが予定通り量産化に成功したとしても、「周回遅れ」になる可能性が高い。


5兆円ではとても足りない最先端半導体投資

そうなると同社に対する投資家の期待は膨らまず、IPOによる多額の資金調達は難しくなる。同社が生産する演算用(ロジック)半導体は国内で生産されている汎用品の半導体と比べて単価は高くなるという。

国産半導体メーカーは旧スペックの半導体を低価格で供給することで収益を上げる、いわば「ジェネリック半導体」のビジネスモデルで生き残ってきた。最先端のロジック半導体で生き残るためにはオーダーメードとはいえ世界最先端の製品づくりが必要になる。

少なくとも2028年の試作開始時点で1.4ナノ半導体生産にめどをつけない限りは、現在の7周遅れが1〜2周遅れに改善されるだけだ。ジェネリック半導体を生産するには設備投資がかかり過ぎ、最先端の半導体を生産するには力不足という中途半端な状態になりかねない。

大手半導体メーカーの2023年の設備投資額をみると、TSMCは減額して280億〜320億ドル(約4兆1000億〜約4兆7000億円)、サムスンは53兆7000ウォン(約6兆円)だ。単年度でラピダスの工場新設に匹敵するか上回る設備投資をしているだけに、量で勝負しないとしても5兆円の投資規模では心もとない。

ラピダスが成果を出すためには、政府が同社に対して10兆円を超える巨額助成金を投入して、2025年までに1.4ナノ級ロジック半導体の量産を始める必要がありそうだ。それでも生産技術でキャッチアップできる保証はないが、少なくとも数兆円程度の助成では「日の丸半導体」が再び世界を席巻する未来は期待できないだろう。

文:M&A Online

関連記事はこちら
・【ルネサスエレクトロニクス】撤退戦から「反撃の買収戦」に挑む
・キオクシアでまたも「船頭多くして…」の東芝、再建に大きな不安