
食料品の製造販売などを行うヨシムラ・フード・ホールディングス<2884>が、2023年8月29日にホタテの加工などを行うワイエスフーズ(北海道茅部郡)の発行済株式70%を取得し、子会社化することを決議しました。
ホタテは中国の水産物輸入停止の影響により、豊洲市場で取り引きされる価格が、前年同月比で3割程度安くなっていると言われています。
M&Aは長きに渡る交渉や手続きが必要。中国との関係が悪化することを予想できなかったとはいえ、最悪とも言えるタイミングでの買収となりました。この記事では以下の情報が得られます。
・M&Aの概要
・価格下落による影響
買収で生じたのれんは80億円程度に膨張
ヨシムラ・フードは、後継者不足や業績の伸び悩みなどに苦しむ中小企業を買収し、各社が持つノウハウ、強み、顧客基盤、取引先が持つ力を補完、最大化するというビジネスモデルで成長してきました。
2023年2月期は、地方の名産品などのプロデュースを行うONESTORY(東京都港区)、野菜加工の細川食品(香川県観音寺市)、麺を製造販売する丸太太兵衛小林製麺(北海道札幌市)、削り節を製造する林久右衛門商店(福岡県福岡市)、水産加工のマルキチ(北海道網走市)を子会社化しています。
買収効果が大きく、2023年2月期の売上高は前期比19.3%増の349億3700万円となりました。2024年2月期は同33.6%増の466億7900万円を見込んでいます。
M&Aを軸として成長していますが、投資ファンドとは違って売却益を目的とした買収は行っていません。
ヨシムラ・フードは傘下に収めた中小企業が不採算取引から手を引き、各社が持つネットワークをフル活用することで取引先を拡大。利益率を高めることができるとしていますが、同社の営業利益率は2%前後で大きな変化はありません。

2023年2月期は8億3500万円の営業利益を予想していましたが、予想より18.8%低い6億7800万円で着地しました。
同社の利益が出づらい要因の一つに、M&Aによって生じたのれんの償却負担があります。
2023年2月末ののれん額は48億5100万円。純資産額のおよそ半分を占めています。ヨシムラ・フードは日本の会計基準を採用しているため、毎期償却を行わなければなりません。2023年2月期ののれんの償却額は4億2500万円で、前年同期よりも22.1%負担額が増えています。
ホタテの加工を行うワイエスフーズの買収においては、追加で巨額ののれんが発生する見込みです。
同社の2022年7月期の純資産額は28億5700万円。この会社の評価額を86億円(7割の持分を取得するヨシムラ・フードの取得額は60億6000万円)と算出しています。連結子会社化することにより、32億円程度がのれんとして積まれる計算です。
ヨシムラ・フードののれん額は80億円程度まで膨らむことになり、同社にとって規模の大きなM&Aであったことがわかります。
取引額が3割下落でのれんの減損損失は阻止できるのか?
ワイエスフーズの2022年7月期の営業利益率はおよそ10%。売上高も168億6500万円と大きく、ヨシムラ・フーズが2024年2月期の売上高を前期比33.6%増の466億7900万円、営業利益を同131.8%増の15億7400万円と予想しているのは、このM&Aの影響を織り込んだものでしょう。
予想通りに着地をすると、営業利益率は前期よりも1.5ポイント高い3.4%となります。
■ワイエスフーズの業績

ヨシムラ・フーズはワイエスフーズの2023年7月期の売上高、営業利益が前期並で着地をするとの予想を立てています。
農林水産省によると、ホタテの輸出先は中国が52.6%。香港が6.8%で、合わせて6割程度を占めています。2022年の農林水産物と食品の輸出額は前年比14%増の1兆4148億円で過去最高でした。品目の中ではホタテ貝の輸出額の増加が最も高く、前年比42.4%増の910億円となりました。
日本のホタテは貝柱が大きく、海外からの需要が強いという特徴があります。コロナ後のリベンジ消費で外食需要も回復。2022年はホタテの消費が旺盛でした。
つまり、2022年7月期のワイエスフーズの業績は市況が絶好調だった頃のもの。現在は輸出全体の6割を占める中国が輸入を禁止し、足元の取引額が3割程度落ち込んでいます。2023年7月期は前期並だったとしても、2024年7月期に甚大な影響を受けるのは間違いないでしょう。
ワイエスフーズのM&Aで業績への深刻な影響が懸念されるのが、のれんの減損損失。30億円超ののれんが積まれるヨシムラ・フーズにとって、ワイエスフーズの業績悪化で全額減損損失を計上するともなれば、負のインパクトは大きなものとなります。
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